落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

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「――ったくもうマジで信じらんないわよ! 寿命がどんだけ縮まったと思ってんのよバカ!」
「悪かったよ。けど腹が立ってさ」
「あのね、もういい大人なんだから、少しは世渡りってもんを覚えなさいって言ってるじゃない」
「へいへい」
「ちょっ、ちゃんと聞きなさいよね!」
「聞いてる聞いてる」

 そう生返事をしながら、そのままエレベーターに乗って下へと向かう。
 そこで老婆に言われた通りに、受付のカウンターへと行って、最初に来た時に勇者認定カードの発行を頼んでおいたので、それを受け取りに行く。

「もう失くすんじゃないわよ」
「……善処する」
「あのね……」

 本当にリリーシュは良い奴で面倒見がいい。それに甘えているイオが言うのもなんだが、彼女には幸せになってほしいと心から思う。
 自分の姉のような彼女には、できる限り自分も力になろうとイオは決めていた。
 そこからは仕事がある彼女とは別れて、孤児院へと向かい我が教え子の修業をするべく歩を進めて行く。


 ――〝勇者認定試験〟まで残り一カ月を切った。

 それまでイオの教えをしっかり守って、アミッツは扉の開け閉めと魔力を身体に留まらせる修業を繰り返し行ってきた。
 その結果――。

「――〝かい〟!」

 約三秒ほどで、扉を開けることができるようになっていたのだ。
 それを見ているイオも満足して頷く。

「よし、いいぞ。それにしても言葉をきっかけに開け閉めするとは、結構理に適ってるじゃねえか」
「そうなの?」
「ああ、声に出すってことはイメージし易いってことだ。扉を開ける時は〝開〟。閉める時は〝へい〟。分かり易いし、いいんじゃねえか」
「う、うん。何かこうしっくりくる方法とか考えてたら、こうやって声に出すようになって。そうしたら前よりもうんとスムーズに開閉操作できるようになったんだ」
「それに扉を開けていられる時間もかなり増えたようだしな」
「うん。今だったら扉の魔力が全部なくなるまで開け続けられるよ。……でも驚いたな」
「何がだ?」
「最初は開けるのも三十分かかってたし、開け続けるのも十秒くらいだったのに」

 それが一カ月半の修業で見違えるほどの成果を生み出している。それが彼女にとっては信じられないのだろう。

「それだけ今の修業が、お前にハマってたってことだ。それに毎日同じ修業をやってりゃ、才能がある奴なら大きく成長するのも当然だろ」
「今でも本当に信じらんないけど。でもボク……成長してるんだよね」

 本当に嬉しそうに微笑みながら、自分の握り拳を見つめるアミッツを見つめるイオ。その周りにいる孤児院の子供たちも、口々に「おめでとー」やら「よかったね!」などと声をアミッツに送っている。

「さて、けどのらりくらりしてるわけにはいかねえ」

 その言葉を聞いて、すぐに表情を引き締めるアミッツ。

「本番は約一カ月後。これからはいよいよ、実際に身体を動かしての修業を開始する」

 やはりアミッツは楽しみなのか、キラキラとした期待感を込めた眼差しを見せつけてくる。

「よくこの一カ月半、オレの言いつけを守ってたな。偉いぞ、アミッツ」
「えへへへ」
「けどそれもすべては、この一カ月で行うことの前フリだ」
「う、うん」
「けど、お前には残念かもしれねえけど、さすがに一カ月で大呪文を完全にマスターすることはできねえ」
「あ……そっかぁ。まあ、そうかなぁって思ってたけど」

 魔力量的には十分足りている。しかし大呪文には発動する呪文をコントロールする力がいる。それを学ぶには一カ月では足りないのだ。

「だからお前に教えるのはただ一つ」

 イオは地面に落ちている木の棒を拾い上げて、右手でしっかりと逆手に握る。

「見とけよ――」

 イオは身体から溢れさせた魔力を木の棒に纏わせていく。青白いオーラが木の棒全体に行き渡り輝き出す。
 今度は左手を前方へとかざし、

「――アースクリエイト」

 前方の地面に魔法陣が出現し、そこの地面が盛り上がり始めウネウネと形を成していく。数秒後――巨大な招き猫の土人形の出来あがりだ。
 イオはその土人形を凝視すると、

「おっらぁっ!」

 木の棒を持ったまま大振りのアッパーでもするかのような仕草を素早く行う。すると振り払った木の棒から白いオーラを纏った斬撃が地面を割りながら飛んでいく。同時に木の棒は無残にも灰化するかのように散った。
 放たれた斬撃が向かう先は、目の前にある土人形だ。
 斬撃は土人形に当たると綺麗に縦に真っ二つになった後、パァンッと弾けた。

「っ!? す、す、凄いよっ、先生っ!」

 その光景を見ていたアミッツは全身で感動を表現している。子供たちもポカーンと口を開けたまま固まっている者が多い。

「いいか、今のがお前がこれから一カ月で覚える技――《魔断まだち》だ」
「ま……まだ……ち」
「そうだ。込める魔力量によって威力は異なるし、魔力を武器に集束させる技術は難しいけど、今のお前には一番ピッタリの技だ」
「そ、そうなの?」
「ああ、呪文みてえな微細な魔力コントロールは必要ねえ。ただ魔力を一点に集中させて、それを斬撃に合わせて放つだけ。これまで魔力を留まらせる修業をさせてきたのは、これを覚えやすくするためでもあったしな」
「ボク……できるかな?」
「お前次第だ」
「…………うん! やるよ! やってやる!」

 それからアミッツは、この《魔断》を習得するために日夜修業に励むが、なかなか上手くいかずに時間だけが過ぎていった。


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