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「そ、そんな……っ!?」

 まさに絶望。せっかく覚えたばかりの氷の呪文を使ったというのに……。

「お、起きてリリノ! このままじゃ死んじゃうからぁ!」
「むにゃ……えへへ。もう食べられにゃいよぉ」
「そんなありきたりな寝言言ってる場合かぁぁっ! いいから起きなさぁぁぁいっ!」

 リリノの両肩を掴んで盛大に揺らす。

「……っ、はにゃ……? あれぇ? ランテ……おはよぉ」
「おはようじゃないわよ! さっさと正気に戻りなさいよね!」
「へ? ……何かあった……の……っ!?」

 そこでようやく、自分たちがどんな状況にいるのか思い出したのか、リリノの眠気は見事なまでに吹き飛ぶ。

「ガルァァァァァァッ!?」
「「ひィィィィィィッ!?」」

 エレファントライナーの咆哮に、少女たちは互いに抱きしめ合って腰を抜かしてへたり込んでしまう。

 ――ああ、死んだ。

 ランテの脳裏に、これからどうなるかが思い浮かんだ。
 しかしその時、またも思わぬことが起こる。

「――ふぃぃぃぃ~、大漁大漁~」

 …………湖から一人の少年が浮き上がって陸へと上がって来た。
 ただ何故か――――赤いパンツ一丁である。

「「変態だァァァァァァッ!?」」

 ランテたちは口を揃えて、その少年を凝視して悲鳴に似た叫びを上げた。

「何ぃっ!? 変態だと! どこだ!?」

 少年はキョロキョロと周りを見回しながら、ようやくランテたちに気づいたように目を合わせると……。

「…………もう、エッチね」

 と、恥ずかしげに頬を染めつつそう言った。
 一瞬時が止まった……かのように思えたが。

「グルァァァァァッ!」

 エレファントライナーにとって、人という存在は敵なのか、赤パンツの変態に向かって、頭上から鼻を叩き落とした。

「あ、危ないっ!」

 しかしランテの叫びは間に合わずに、少年は鼻の下敷きになって潰れて……。

「……危ないなぁ。何すんだいきなり?」

 ……いなかった。

 鼻を頭上に向けた左手で持ち上げていたのだ。

「う……嘘……っ!?」

 今の一撃だけで、石造りの家でも粉砕できるほどの威力があったはずだ。それは、少年の足元が陥没していることからも明らか。
 それなのに、少年は涼しげな表情のまま鼻を受け止めている。その事実に、まったくもって理解が及ばない。
 傍にいるリリノも、まるで夢を見ているかのように唖然と少年を見つめている。

「……あ? お前……エレファントライナーじゃないか。何でこの森に? …………まあいいや。これ以上、暴れるんなら、モンスターといえどお仕置きすっぞ?」
「グルルルルル! グラァァァァァッ!」

 まるでできるものならやってみろという感じに吠えるエレファントライナー。そして少年に向かって再度鼻で叩き潰そうとする――が、

「……ったく、聞く耳持たねえってか。少し痛いかもしれないけど、我慢しろよな」

 憮然とした態度で少年は口を開くと、その場から風のような動きを見せて瞬時にエレファントライナーの顔面に近づく。

(! ……赤い?)

 少年の右手を覆う赤い光。微かに見えただけなので、もしかしたら気のせいかもしれない。

「悪い子にはビンタ一発ぅっ!」

 開いた右手で、エレファントライナーの左頬周辺を張った。
 同時にエレファントライナーは、坂道を転がるような勢いで森の中へと吹き飛んでいく。

「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

 体格が笑ってしまうほど違うモンスターに対し、ただのビンタ一発で吹き飛ばした事実に、ランテたちは愕然と叫ぶことしかできなかった。



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