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第六話
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「ま、まさかゴブリン!?」
ゴブリンらしき存在が、その手に持っているこん棒を振り回し、写楽を仕留めようとしてくる。
「ちょっ、待てぇっ!」
慌てて腰を浮かしてその場から去って、街に戻ろうとするが、すでに囲まれていたのか、前方にも同じような存在が現れる。
「嘘……だろ」
武器も防具もない。レベルは……0。これはもう詰んだとしかいえない状況だった。
――数分後。
「……ぅ……ぁ……っ」
気づけば空を仰いでいた。ゆっくりと上半身を起こす。
「あ~もう、服がボロボロじゃないか。それに血生臭い」
普通、こんなに血が出たら死ぬだろう。しかし恐らくは……。
(“転生開闢”で、また新しい肉体に転生したか……)
一応《ステータス》を確認してみたら、案の定、また《パラメータ》は10%の上乗せをされていた。
「……はぁ、一日に三回も死んだ奴ってオレだけだろうな」
しかも仮死状態というのではなく、完全な死だ。
(けど死ぬ前の痛みとかはリアルに感じるしな……。最悪だ)
確か聖人の最高《パラメータ》は体力の70だった。アレに追いつくためには、単純計算でも二十三回ほど死ぬ必要があるのだ。急ピッチで転生を繰り返しても、二日は絶望と恐怖に身を委ねなければならないということ。……軽く鬱になる自信がある。
(……とにかく、まずは衣食住が必要だな。……いや、死なないから食わなくても大丈夫なのか? いや、せっかくの異世界だし、できれば美味いものは食べたいし、そこは妥協したくない)
こんな目に遭っているのに、食べ物も得られないのは正直死にたくなる。死ねないんだけども。十三回までは……。
(それにこっちの世界……確か【ウラノス】だっけか。通貨や地理、世界観も詳しく知らなきゃなんないよな)
写楽は、絶望を感じて天を仰ぐ。青と紫の空に、宙に浮かぶ島々。
(……元の世界に戻りたい……いや、そうか。元の世界で死んだから、ここにやってきたんだったな)
ならもう戻れない可能性が高い。ここで生きていくしかないのだ。
「ああくそ……風が冷たいな」
今まで感じた以上の寂しさが胸に押し寄せてくる。イジメを受けていた時でも、寺院帰れば大好きな住職や、遊びに来てくれる子供たちがいた。だから一人ぼっちだという思いはそれほど強くは無かった。
だがこの世界では確実に孤独。誰も傍にいない。助けてはくれない。そうそうに命を奪われる始末なのだから。
(衣食住っていっても、街中をうろつくのは危険……か)
もし衛兵たちに見つかれば、顔を知っている兵がいれば必ず拘束されてしまう。
(あの国には戻れない……。そもそもこんな格好で外を歩くのもな)
血塗れでボロボロの服。追剥でもあった方がまだマシな風体になっている。まるで生き返ったゾンビが闊歩しているかのよう。
(とりあえず、まずは服……だな。けど金はない。……やりたくはないけど、どこかで盗むしかないか)
背に腹は代えられない。そもそも勘違いして殺しにかかってきた国が悪いはず。そう言い聞かせる。
(けど、国で盗みを働くのはまずい。もしかしたらオレの死体が消えたってことが騒ぎになってるかもしれないしな)
まずはどこか集落を見つけようと写楽は、国を背にして歩き出した。
――――あれからどれくらいが経っただろうか。
少なくとも太陽は三度ほど沈んだことを記憶している。
「……はぁ、ここ……どこだ?」
写楽がいるのは深い森の中。とはいっても国の近くにあった森ではない。あそこは通過して、草原を突き抜け、小高い丘の先にあった森に足を踏み入れた。
そこからずっと森から抜け出せずに彷徨い続けていたのだ。
「しかもここに出てくるモンスター、バカみたいに強いし」
あれから何度死んだことか。
死んで転生する度に強くなるとはいっても、死ぬほどの痛みを味わうということを繰り返していると、自分の心が欠けていくのが分かる。
それほどの苦痛。しかしどうにもできない現実が広がっているのだ。強くあらねば、どうやらこの世界では平穏に生きることもできないらしい。
少しはモンスターに攻撃しても倒せるようなダメージを与えられるほどに強くなっていた。
しかし気が狂うほどの痛みを超え、転生を繰り返すのは並大抵の精神力では不可能。五度目くらいの死から、もう死ぬのが恐怖になって洞穴でしばらく震えていたこともあった。いくら生き返ると分かっても、やはり怖いものは怖いのだ。
それに通算で十三回死んでしまえば、本当の死を迎えてしまうので、注意も必要になる。
そうして死の旅を続けているが、一向に森の出口が見えないので焦ってきていた。
「……腹減ったなぁ。昨日は毒キノコを食べて死んじまったからなぁ。あれは苦しかった。もう二度と経験したくない死に方だ」
全身を刃で刺すような激痛とともに、嘔吐、痙攣、呼吸困難と、あらゆる負の症状が写楽を襲った。今までで一番辛い死に方だった。
(さすがにアレを経験してからは、ある程度の死に方はマシだって思えてるんだから驚くわ)
死ぬことに慣れはしないが、毒キノコを食べての死に方を経験したことによって、頭を吹き飛ばされたり、心臓を貫かれたりする即死に対しホッとすることもあったり。
(……飢餓で死ぬってのも嫌だな。苦しそうだし)
一度死ねば、空腹もなくなり、健康状態だった時と同じになる。
(けど自殺っていうのはな……、何となくし辛い)
できれば自分も住職のように大往生で死にたいと思っていたが、それももう叶わない。何せ死ねないのだから。だからこそ、なのかもしれないが、自殺をすることには抵抗があった。
いや、敵わないモンスターがいると知っていて向かうのは自殺に近いのだろうが、薬を飲んだり手首を切ったり、首を吊ったりして死ぬのは、何だか住職に申し訳ないような気がするのだ。
もちろんこれは勝手な写楽の思い込みではあるのだが。だからそんな死に方だけは選択しないように、と思って行動してきた。
(けど、単純に強くなるには自殺した方が効率は良いんだよな……)
何度も何度も自殺を繰り返せば、それだけで10%の上乗せパワーアップを得ることができる。
「手首を切る……舌を噛む……または毒キノコを食べる…………うぅ、ないわぁ」
モンスターに殺されるより、何故か自殺の方が怖い。何故ならどれも死ぬまで結構時間がかかりそうだからである。
(なら飛び降り自殺……首吊り……。やるなら飛び降りかな……やっぱ)
だがやはり自殺という方法を選ぶのは苦しいものがある。
「……ま、いいか。とりあえず、まずは集落を探そう」
ここ数日ろくなものも食べてない。汗や血に塗れているし、できれば風呂に入りたい。川は見つかって一応身体を洗ったはいいが、どうせ死ぬことでまた汚れるのだからほとんと意味がない。
ゴブリンらしき存在が、その手に持っているこん棒を振り回し、写楽を仕留めようとしてくる。
「ちょっ、待てぇっ!」
慌てて腰を浮かしてその場から去って、街に戻ろうとするが、すでに囲まれていたのか、前方にも同じような存在が現れる。
「嘘……だろ」
武器も防具もない。レベルは……0。これはもう詰んだとしかいえない状況だった。
――数分後。
「……ぅ……ぁ……っ」
気づけば空を仰いでいた。ゆっくりと上半身を起こす。
「あ~もう、服がボロボロじゃないか。それに血生臭い」
普通、こんなに血が出たら死ぬだろう。しかし恐らくは……。
(“転生開闢”で、また新しい肉体に転生したか……)
一応《ステータス》を確認してみたら、案の定、また《パラメータ》は10%の上乗せをされていた。
「……はぁ、一日に三回も死んだ奴ってオレだけだろうな」
しかも仮死状態というのではなく、完全な死だ。
(けど死ぬ前の痛みとかはリアルに感じるしな……。最悪だ)
確か聖人の最高《パラメータ》は体力の70だった。アレに追いつくためには、単純計算でも二十三回ほど死ぬ必要があるのだ。急ピッチで転生を繰り返しても、二日は絶望と恐怖に身を委ねなければならないということ。……軽く鬱になる自信がある。
(……とにかく、まずは衣食住が必要だな。……いや、死なないから食わなくても大丈夫なのか? いや、せっかくの異世界だし、できれば美味いものは食べたいし、そこは妥協したくない)
こんな目に遭っているのに、食べ物も得られないのは正直死にたくなる。死ねないんだけども。十三回までは……。
(それにこっちの世界……確か【ウラノス】だっけか。通貨や地理、世界観も詳しく知らなきゃなんないよな)
写楽は、絶望を感じて天を仰ぐ。青と紫の空に、宙に浮かぶ島々。
(……元の世界に戻りたい……いや、そうか。元の世界で死んだから、ここにやってきたんだったな)
ならもう戻れない可能性が高い。ここで生きていくしかないのだ。
「ああくそ……風が冷たいな」
今まで感じた以上の寂しさが胸に押し寄せてくる。イジメを受けていた時でも、寺院帰れば大好きな住職や、遊びに来てくれる子供たちがいた。だから一人ぼっちだという思いはそれほど強くは無かった。
だがこの世界では確実に孤独。誰も傍にいない。助けてはくれない。そうそうに命を奪われる始末なのだから。
(衣食住っていっても、街中をうろつくのは危険……か)
もし衛兵たちに見つかれば、顔を知っている兵がいれば必ず拘束されてしまう。
(あの国には戻れない……。そもそもこんな格好で外を歩くのもな)
血塗れでボロボロの服。追剥でもあった方がまだマシな風体になっている。まるで生き返ったゾンビが闊歩しているかのよう。
(とりあえず、まずは服……だな。けど金はない。……やりたくはないけど、どこかで盗むしかないか)
背に腹は代えられない。そもそも勘違いして殺しにかかってきた国が悪いはず。そう言い聞かせる。
(けど、国で盗みを働くのはまずい。もしかしたらオレの死体が消えたってことが騒ぎになってるかもしれないしな)
まずはどこか集落を見つけようと写楽は、国を背にして歩き出した。
――――あれからどれくらいが経っただろうか。
少なくとも太陽は三度ほど沈んだことを記憶している。
「……はぁ、ここ……どこだ?」
写楽がいるのは深い森の中。とはいっても国の近くにあった森ではない。あそこは通過して、草原を突き抜け、小高い丘の先にあった森に足を踏み入れた。
そこからずっと森から抜け出せずに彷徨い続けていたのだ。
「しかもここに出てくるモンスター、バカみたいに強いし」
あれから何度死んだことか。
死んで転生する度に強くなるとはいっても、死ぬほどの痛みを味わうということを繰り返していると、自分の心が欠けていくのが分かる。
それほどの苦痛。しかしどうにもできない現実が広がっているのだ。強くあらねば、どうやらこの世界では平穏に生きることもできないらしい。
少しはモンスターに攻撃しても倒せるようなダメージを与えられるほどに強くなっていた。
しかし気が狂うほどの痛みを超え、転生を繰り返すのは並大抵の精神力では不可能。五度目くらいの死から、もう死ぬのが恐怖になって洞穴でしばらく震えていたこともあった。いくら生き返ると分かっても、やはり怖いものは怖いのだ。
それに通算で十三回死んでしまえば、本当の死を迎えてしまうので、注意も必要になる。
そうして死の旅を続けているが、一向に森の出口が見えないので焦ってきていた。
「……腹減ったなぁ。昨日は毒キノコを食べて死んじまったからなぁ。あれは苦しかった。もう二度と経験したくない死に方だ」
全身を刃で刺すような激痛とともに、嘔吐、痙攣、呼吸困難と、あらゆる負の症状が写楽を襲った。今までで一番辛い死に方だった。
(さすがにアレを経験してからは、ある程度の死に方はマシだって思えてるんだから驚くわ)
死ぬことに慣れはしないが、毒キノコを食べての死に方を経験したことによって、頭を吹き飛ばされたり、心臓を貫かれたりする即死に対しホッとすることもあったり。
(……飢餓で死ぬってのも嫌だな。苦しそうだし)
一度死ねば、空腹もなくなり、健康状態だった時と同じになる。
(けど自殺っていうのはな……、何となくし辛い)
できれば自分も住職のように大往生で死にたいと思っていたが、それももう叶わない。何せ死ねないのだから。だからこそ、なのかもしれないが、自殺をすることには抵抗があった。
いや、敵わないモンスターがいると知っていて向かうのは自殺に近いのだろうが、薬を飲んだり手首を切ったり、首を吊ったりして死ぬのは、何だか住職に申し訳ないような気がするのだ。
もちろんこれは勝手な写楽の思い込みではあるのだが。だからそんな死に方だけは選択しないように、と思って行動してきた。
(けど、単純に強くなるには自殺した方が効率は良いんだよな……)
何度も何度も自殺を繰り返せば、それだけで10%の上乗せパワーアップを得ることができる。
「手首を切る……舌を噛む……または毒キノコを食べる…………うぅ、ないわぁ」
モンスターに殺されるより、何故か自殺の方が怖い。何故ならどれも死ぬまで結構時間がかかりそうだからである。
(なら飛び降り自殺……首吊り……。やるなら飛び降りかな……やっぱ)
だがやはり自殺という方法を選ぶのは苦しいものがある。
「……ま、いいか。とりあえず、まずは集落を探そう」
ここ数日ろくなものも食べてない。汗や血に塗れているし、できれば風呂に入りたい。川は見つかって一応身体を洗ったはいいが、どうせ死ぬことでまた汚れるのだからほとんと意味がない。
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