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第十二話
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「貴様! 一体何者だっ!」
ホーンアントの上に乗ったまま、引き抜いた槍の先端を写楽へと向けてくる女性。
月のように黄色いロングヘアーをポニーで束ねており、紺碧の瞳を宿す。前髪に赤いメッシュが入っているのが特徴的だ。
また片手で持っている槍は、長さでいえば二メートル以上はあると思われるほど丈夫そうな代物だ。よく女性の身でそんな得物を扱えるとは感心する。
大体二十代前半……くらいだろうか、キリッとした眼差しで、写楽を射殺さんばかりの勢いで睨みつけてきていた。ただ一つ言えることは、豊満なボディを持ちスタイル抜群なので、確実に男性が振り向くような美女だということ。
「……ま、まさか貴様……我が妹、愛しのコニムを狙って不届きなことを……っ」
何だか盛大に勘違いされているようだが、
「ま、待ってお姉ちゃん! その人は悪い人じゃないんでしゅ!」
あ、噛んだ。と思ったが口には出さない写楽。
「おお! コニム! 無事であったかぁ!」
女がホーンアントの上から飛び降り、近づいてくるコニムと呼ばれた少女を抱き寄せた。
「すまなかった! お姉ちゃんが少し食材を取ってくると言ったばかりに……。怪我はなかったか?」
「しょ、しょれよりもぉ!」
「む? 何だ、そのような膨れっ面をして」
「ちゃ、ちゃんと謝らなきゃ!」
「……誰にだ?」
「あの人にです! わたしを助けてくれたんでしゅ!」
また噛んだが、姉らしき人物がツッコまないところを見ると、恐らく日常茶飯事なのだろう。
「いや、しかしだな、アイツはコニムのことを卑猥な目で見て……」
見てないし。というか、コニムという少女は明らかに十二歳ほど。写楽は心の中で思った。
(……オレはロリコンじゃない)
だが確かに見惚れるほど、彼女の顔が愛らしいのは認めよう。
女と同じ黄色い髪だが、手入れが行き届いているのか、サラサラしており、とても触り心地が良さそうだ。それを可愛らしいピンク色のリボンで右サイドに結っていて、なおかつ三つ編みに整えている。
赤ん坊のような白くて柔らかそうな頬や、クリッとした少しタレ目がちな瞳。ただ前髪が長くて、まるで隠すように伸ばしているようで、もったいないと思う。身長こそ低く幼いが、将来は姉とはまた違う美女に成長すること間違いないといった将来性を秘めている。
「と、とにかく、間違ったら謝らなきゃいけませんです~!」
「う、わ、分かったから叩くでない、コニム!」
ポコポコとダメージがほぼ皆無でありそうなコニムの攻撃を受け、女はギロリと視線を再度写楽へと向けてきた。
「フン、コニムが言うから仕方なく謝ってやろう! クソすまんかった!」
…………ぶっ飛ばしてもいいだろうか。
胸を張り、尊大な態度での謝罪がこれほど不愉快だとは思わなかった。ただ、もう争うつもりはないようなので、写楽は「別にいい」とだけ小さく言って、ホーンアントの死体へ近づいた。そしてその身体にそっと手を触れる。
先程のリザードマン(亜種)の時のように、頭の中に言葉が聞こえ、ホーンアントの身体が黄金色に輝く。
それを見ていた女たちは目を丸くしていたが、写楽は気づいていない。
「…………ふぅ。よし、あと一匹か」
呟きながら、最後の一匹へと近づくと、
「おい、貴様! 一体今、何をした! ホーンアントはどこに行ったのだ!」
またも槍を構え出し敵意を向けてきた。
「……別にアンタたちに危害を加えるつもりはない。用があったのは、コイツらだし」
それだけを言うと、警戒し続ける女を無視して、同じようにホーンアントを転換転生していく。
あとは確認するだけ。
すると思わずニヤリとしてしまう光景が目に入った。
《魔術》
雷精魔術:1
《スキル》
威圧:3 隠密:1
新しく二つの異能が手に入った。やはり思った通り雷精魔術を手にできたのが大きい。このスキル名の後につく数字は、レベルらしい。最高が幾つなのかは分からないが。
(よし、これでようやく魔術が使えるように――)
そう思ったのも束の間、女からさらに追及の声が届く。
「一体どんな魔術を? いや、スキルか……? しかしモンスターを消すとは、何者なのだ貴様は!?」
「……はぁ。別に何者でも構わないだろ?」
「何っ!?」
「オレはその子が危ないと思ったから助けただけだし、コイツらを消したのも、そうする必要があったから。それ以上でも以下でもない」
これ以上、相手にしている時間もないと思い、写楽はその場を立ち去ろうとする。というより、早くこの身体についた血をどうにかしたかった。
「あ、あの! ちょ、ちょっと待ってくださいでしゅ! あ、噛んじゃった」
いや、さっきから山ほど噛んでいるのだが……。
コニムが声をかけてきたので、憮然としたままの態度で視線を彼女に向ける。
「そ、その……お、お礼をしゃせてください!」
「しゃせて?」
「あうぅ~」
シュ~と彼女の顔から湯気が出る。
「き、貴様ぁ! コニムを辱めたなぁっ! そこになおれぃっ!」
「も、もうお姉ちゃん! 恩人さんに失礼ですぅ!」
「し、しかしだな、コニムゥ~」
「メッ、ですよ!」
「す、すまない……」
妹には絶対的に弱い姉のようだ。
「悪いが別に礼はいい。気まぐれで助けたようなもんだしな」
「何だと貴様ぁ、コニムの厚意を無下にするつもりだとぉ」
ハッキリ言って超めんどくさい。この女。
「あ、あのあの、良かったら何かお礼を……」
ジ~ッと上目遣いで見上げてくる。
「……それじゃ、ここから一番近い村や町を知ってるなら教えてほしい」
「あ、はい! ここからなら【トイスの村】が一番近いでしゅ。うぅ……」
噛んだことに恥ずかしそうに顔を俯かせるコニム。
「その村はここからどの方角にあるんだ?」
「えとえと……東に徒歩で一時間ほどだと思います」
一時間。それくらいなら今日中に辿り着くことができるだろう。ここ数日の野宿からさよならできそうだ。
(店で地図とか売ってたらいいんだけどな)
今まで行った村には残念ながら地図は売ってなかったのだ。
「感謝する。それじゃな」
もう二人には用はないので、ここでしばらくモンスターを狩ってから、村へ向かおうと写楽が思い足を動かそうとすると、
「――待て」
「あ?」
何故か急に女に呼び止められた。
ホーンアントの上に乗ったまま、引き抜いた槍の先端を写楽へと向けてくる女性。
月のように黄色いロングヘアーをポニーで束ねており、紺碧の瞳を宿す。前髪に赤いメッシュが入っているのが特徴的だ。
また片手で持っている槍は、長さでいえば二メートル以上はあると思われるほど丈夫そうな代物だ。よく女性の身でそんな得物を扱えるとは感心する。
大体二十代前半……くらいだろうか、キリッとした眼差しで、写楽を射殺さんばかりの勢いで睨みつけてきていた。ただ一つ言えることは、豊満なボディを持ちスタイル抜群なので、確実に男性が振り向くような美女だということ。
「……ま、まさか貴様……我が妹、愛しのコニムを狙って不届きなことを……っ」
何だか盛大に勘違いされているようだが、
「ま、待ってお姉ちゃん! その人は悪い人じゃないんでしゅ!」
あ、噛んだ。と思ったが口には出さない写楽。
「おお! コニム! 無事であったかぁ!」
女がホーンアントの上から飛び降り、近づいてくるコニムと呼ばれた少女を抱き寄せた。
「すまなかった! お姉ちゃんが少し食材を取ってくると言ったばかりに……。怪我はなかったか?」
「しょ、しょれよりもぉ!」
「む? 何だ、そのような膨れっ面をして」
「ちゃ、ちゃんと謝らなきゃ!」
「……誰にだ?」
「あの人にです! わたしを助けてくれたんでしゅ!」
また噛んだが、姉らしき人物がツッコまないところを見ると、恐らく日常茶飯事なのだろう。
「いや、しかしだな、アイツはコニムのことを卑猥な目で見て……」
見てないし。というか、コニムという少女は明らかに十二歳ほど。写楽は心の中で思った。
(……オレはロリコンじゃない)
だが確かに見惚れるほど、彼女の顔が愛らしいのは認めよう。
女と同じ黄色い髪だが、手入れが行き届いているのか、サラサラしており、とても触り心地が良さそうだ。それを可愛らしいピンク色のリボンで右サイドに結っていて、なおかつ三つ編みに整えている。
赤ん坊のような白くて柔らかそうな頬や、クリッとした少しタレ目がちな瞳。ただ前髪が長くて、まるで隠すように伸ばしているようで、もったいないと思う。身長こそ低く幼いが、将来は姉とはまた違う美女に成長すること間違いないといった将来性を秘めている。
「と、とにかく、間違ったら謝らなきゃいけませんです~!」
「う、わ、分かったから叩くでない、コニム!」
ポコポコとダメージがほぼ皆無でありそうなコニムの攻撃を受け、女はギロリと視線を再度写楽へと向けてきた。
「フン、コニムが言うから仕方なく謝ってやろう! クソすまんかった!」
…………ぶっ飛ばしてもいいだろうか。
胸を張り、尊大な態度での謝罪がこれほど不愉快だとは思わなかった。ただ、もう争うつもりはないようなので、写楽は「別にいい」とだけ小さく言って、ホーンアントの死体へ近づいた。そしてその身体にそっと手を触れる。
先程のリザードマン(亜種)の時のように、頭の中に言葉が聞こえ、ホーンアントの身体が黄金色に輝く。
それを見ていた女たちは目を丸くしていたが、写楽は気づいていない。
「…………ふぅ。よし、あと一匹か」
呟きながら、最後の一匹へと近づくと、
「おい、貴様! 一体今、何をした! ホーンアントはどこに行ったのだ!」
またも槍を構え出し敵意を向けてきた。
「……別にアンタたちに危害を加えるつもりはない。用があったのは、コイツらだし」
それだけを言うと、警戒し続ける女を無視して、同じようにホーンアントを転換転生していく。
あとは確認するだけ。
すると思わずニヤリとしてしまう光景が目に入った。
《魔術》
雷精魔術:1
《スキル》
威圧:3 隠密:1
新しく二つの異能が手に入った。やはり思った通り雷精魔術を手にできたのが大きい。このスキル名の後につく数字は、レベルらしい。最高が幾つなのかは分からないが。
(よし、これでようやく魔術が使えるように――)
そう思ったのも束の間、女からさらに追及の声が届く。
「一体どんな魔術を? いや、スキルか……? しかしモンスターを消すとは、何者なのだ貴様は!?」
「……はぁ。別に何者でも構わないだろ?」
「何っ!?」
「オレはその子が危ないと思ったから助けただけだし、コイツらを消したのも、そうする必要があったから。それ以上でも以下でもない」
これ以上、相手にしている時間もないと思い、写楽はその場を立ち去ろうとする。というより、早くこの身体についた血をどうにかしたかった。
「あ、あの! ちょ、ちょっと待ってくださいでしゅ! あ、噛んじゃった」
いや、さっきから山ほど噛んでいるのだが……。
コニムが声をかけてきたので、憮然としたままの態度で視線を彼女に向ける。
「そ、その……お、お礼をしゃせてください!」
「しゃせて?」
「あうぅ~」
シュ~と彼女の顔から湯気が出る。
「き、貴様ぁ! コニムを辱めたなぁっ! そこになおれぃっ!」
「も、もうお姉ちゃん! 恩人さんに失礼ですぅ!」
「し、しかしだな、コニムゥ~」
「メッ、ですよ!」
「す、すまない……」
妹には絶対的に弱い姉のようだ。
「悪いが別に礼はいい。気まぐれで助けたようなもんだしな」
「何だと貴様ぁ、コニムの厚意を無下にするつもりだとぉ」
ハッキリ言って超めんどくさい。この女。
「あ、あのあの、良かったら何かお礼を……」
ジ~ッと上目遣いで見上げてくる。
「……それじゃ、ここから一番近い村や町を知ってるなら教えてほしい」
「あ、はい! ここからなら【トイスの村】が一番近いでしゅ。うぅ……」
噛んだことに恥ずかしそうに顔を俯かせるコニム。
「その村はここからどの方角にあるんだ?」
「えとえと……東に徒歩で一時間ほどだと思います」
一時間。それくらいなら今日中に辿り着くことができるだろう。ここ数日の野宿からさよならできそうだ。
(店で地図とか売ってたらいいんだけどな)
今まで行った村には残念ながら地図は売ってなかったのだ。
「感謝する。それじゃな」
もう二人には用はないので、ここでしばらくモンスターを狩ってから、村へ向かおうと写楽が思い足を動かそうとすると、
「――待て」
「あ?」
何故か急に女に呼び止められた。
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