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第二十四話 

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「―――それにしても、ほんとに強いんですね、シャラクさん!」

 コニムがキラキラした瞳を写楽に向けてくる。

「まあ、それなりに死地を経験したからなぁ」

 死んだ回数ならきっと誰にも負けないだろう。

「フン! 貴様など、まだまだ修行が足りん! 特に武器の扱いがなっとらん!」

 シスコン馬鹿が会話の中に入ってきた。

「仕方ないだろ。オレがいた世界ってのは平和で、こんな武器を携帯してるだけで違法として捕まるようなところなんだ。モンスターだっていないしな」

 探せば地球にもそれらしいものはいるかもしれないが。

「それに前にも言ったが、オレはまだこの世界に来て一カ月も経ってないんだ。武器だってようやく少し扱いに慣れてきた感じなんだよ」
「その割には強いですよね、シャラクさん。レベルは幾つなんですか?」
「…………0だ」
「……はい?」
「だから0だ」
「……えっとぉ……」
「おいシャラク、それは嘘ではないのだろうな?」
「言っただろ。嘘はできるだけつかないようにしてるって」
「……お姉ちゃん」
「うむ。……なあシャラク、貴様は本当に異世界からやってきた人間、なのだな?」
「ああ、間違いなくな」
「それなのにレベルが0……」

 そういえば、と思い返す。レベル0と聞いて、【クランヴァール王国】の連中も慌ただしくなっていた。

「もしかしてレベル0ってのは、相当珍しいのか?」
「あ、ああ。少なくとも私は三人しか知らん」
「三人?」
「現魔王の三人ですよ、シャラクさん」
「……マジでか?」
「はい。マジです。元々魔王を継ぐ儀式で、レベル0に変化すると言われているんですが……」
「シャラクが魔王の継承の儀を受けているとは思えん。魔王と比べても、まだまだ弱過ぎるからな」

 ノージュのその言葉で、やはり魔王は枠外な存在だということは認識できた。

「そんなに強いのか、魔王ってのは」
「断然だ。私など片手であしらわれるのだからな」

 それはどこの化け物だろうか……。

 実は彼女たちの旅に同行を願ったところ、あっさりとOKをもらえた。それから【トイスの村】を出て三人で旅をしているのだが、モンスターと対峙することもままあったのだ。

 そのバトル中に感じたことだが、ノージュは恐ろしく腕が立つのが分かった。簡単にいえば、写楽が片手であしらわれるほどだろう。

 それほどの実力者が片手で……一体魔王という存在は、どんな高みにいるのか想像ができない。

「とんでもないんだな、その魔王ってのは。しかもその一人に狙われてるなんて」
「うぅ……お姉ちゃんには迷惑をかけてますぅ~」
「私は一切迷惑など思っていないがな! ハッハッハッハ!」

 豪放磊落な性格も相まってか、あまり状況を理解しているように見えないノージュ。もしここに魔王が現れたら、きっと何もできずにコニムが攫われてしまうというのに。

 まあ、それだけはないように、彼女たちの父親がモヴィーク王を抑えているということだが。

「それよりも、意外にあっさりと旅の同行を許可してくれたもんだな」
「む? それはコニムに感謝することだな。この子が許可したから私も渋々了承したのだ」
「そうか、ありがとな、コニム」
「あ、い、いいえ! で、ですがシャラクさんこそ、良かったんですか? その……何か旅の目的とかあるんじゃ……?」
「まあな。けどそれはコニムたちと一緒にでもできることだ。オレは多分、長生きするだろうし、その間にゆっくり探すさ」
「……シャラクさんの世界に住む人間は長生きなんですね」
「え? あ、いや、オレに限っていえばってとこかな」
「そ、そうなんですか?」
「ていうか、オレに寿命なんてものがあるのかどうか……」
「ふぇ~……魔人みたいなんですね。魔人も長命ですし」
「……コニムたちは見た目通りの年齢か?」
「はい。わたしはもうすぐ十一歳で、お姉ちゃんは二十一歳です」
 思った通り見た目と年齢が一致していた。
「フフフ、この中で私が一番の年長者だ。だから敬意を払うがよい、シャラク!」
「はいはい、ノージュはすごいすごい」
「そうだろうそうだろう! ハッハッハッハ!」

 皮肉を言ったつもりが、言葉の意味をそのまま受け取られた。何と単純な奴だろうか。

「ところでだ、アンタたちはその例の人物を探して旅をしてるんだろ?」
「はい。その通りです」
「それで、その人物なら、現状を打破できる可能性があると。一体何者なんだ? アンタたちと同じ髪をしてるとか言ってたし、『ヴァンプ族』なのか?」
「はい。その方は同じ『ヴァンプ族』です」
「しかも私の師でもある」
「へ? そうなのか?」
「そうだぞ。師は偉大なお方だ。その力も、そして知識も他を逸するほどのものを持っておられる」
「ふぅん。それで、その人に知恵か何かをもらおうとしてるのか?」
「それもまた然り。しかし師の庇護下にあれば、モヴィーク王もおいそれと手を出せなくなるのだ」
「……まさかその人って、凄く立場が偉い人だったりする?」

 いや、しかし魔王よりも偉い立場というのはあるものなのだろうか。

「いいや、師は世の情勢を憂いて、様々なしがらみが嫌になって国を去ったお方でもあり、その時に身分を捨てている。今は無位無官の一般人といったところだ」
「そんな人の庇護下で、何で魔王が手を出せなくなるんだ?」
「確かに王のような権力はもたない師ではあるが、影響力はとてつもなく強い。何せ、現魔王の師でもあるのだからな」
「な、何だって!?」
「師が唯一、今の魔王すべてに意見できるお方であり、魔王たちが逆らえない存在でもあるのだ」
「……なるほど。だからその人に庇ってもらえれば、モヴィーク王も手が出せなくなると」
「はい。しかしほとんど手掛かりはなく、国を出てもう三カ月も探し回っているんですが、残念ながら……」

 見つかってはいないということ……か。


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