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第四十話

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 キィンッ、キィンッ、キィンッと激しい剣戟が交わされる。

「くっ! ――ボルティック・トラップ!」

 ウェンガの右手からバチバチッと電撃が迸ると、写楽の足元が光り輝く。

「これはもうこりごりだっ!」

 剣を大地に勢い良く突き立て、そこから――

「クエイクッ!」

 土精魔術を使用して、地面を揺るがし亀裂を走らせた。すると光が急激に大人しくなって、そのまま消失した。

「んなっ! 貴様、土精魔術など持っていたのか!?」
「ああ、つい数時間ほど前に手に入れた」
「な、何をふざけたことを言っている!」
「ついでにこういうのも手に入れたけどな! ―――アクアバレットッ!」

 右手から顔程の大きさの水球をウェンガに向けて放つ。

「何っ!? 水精魔術まで!?」

 咄嗟に身体をずらして避けるウェンガ。その隙と突いて、写楽は距離を詰め剣を振り下ろす。ウェンガも自身の剣でガードし、剣の押し合いでの形となる。

「き、貴様ぁっ! それほどの魔術を持っていて、何故あの時に使わなかった!?」
「だから言っただろ! あの時はまだ持ってなかっただけだ!」
「そんなわけがなかろうがっ!」

 ウェンガが力いっぱい剣を振り抜くと同時に、写楽はそのまま後方へ跳ぶ。少し距離を取って睨み合う形に。

「……魔術には適性資質というものがある。稀に後天的に覚えることはあるが、スキルとは違ってその可能性は非常に低い。この短期間でいきなり魔術を二種類も体得したなど有り得るわけがないだろうがっ!」
「そうは言っても本当なんだから仕方ないだろ」
「ええいっ! サンダーウィップッ!」

 剣から雷が伸び出てきて、それはまるで鞭のようにしなやかな動きで写楽へと迫ってくる。しかし大地を全力で蹴り出した写楽はあっという間に、相手の懐へと飛び込む。

「さらにこの速度だ! ちィッ!?」

 咄嗟に写楽の剣を、身を屈めて回避したウェンガはそのまま上空へと逃げる。

「はあはあはあ、何故だその速度、ついさっきまで俺より遅かったはずだ!」
「……もう説明は終わりだ! 《空歩》っ!」
「ぐっ! このぉっ!」

 空に浮かんで体力の回復に努めようとしたのだろうが、そうは問屋が卸さない。写楽もまた空を跳ぶことができるのだから。

 逃げ回るウェンガに向かって、ライトニングを放つ。

「ええいっ! 鬱陶しい!」

 同じライトニングを使用し相殺してくる。右足に力を込めて、一気に蹴り出す。

「なっ!?」
「――油断大敵だ」

 驚愕に歪むウェンガの顔。写楽は彼と肉薄し、斬撃を繰り出した。

「ぐがぁっ!?」

 身体を斬り裂き、衝撃で刀を落としてしまうウェンガ。
 ようやく大ダメージを与えることができた。しかしここで戦闘経験の差というものが現れる。

「き、貴様ぁぁっ!」

 ガシッと腕を掴まれてしまう写楽。ニヤリと口角を上げるウェンガに対し、ゾクリと寒気が全身を刺した。掴んだ右手ではなく、左手を写楽の腹に向ける。

「―――ボルトレーザーッ!」

 左手から雷を圧縮させたようなレーザーが放たれ、写楽の腹を貫いた。

「がはぁぁっ!?」
「けっ、油断大敵なのはテメエだろうがぁ!」

 そのまま二人して地面へと落下する。
 確かに油断していた。これで勝負が決したと思ってしまった。そこを狙われてしまったのだ。

 腹にあいた風穴から信じられないくらいの血液が外へと逃げていく。
 しかし相手も決して浅くはない傷が身体に刻まれている。同じくらいの血液が大地へと流れている。

「ちっく……しょうがぁぁぁぁっ!」

 それでもさすがは魔人の隊長格。歯を食いしばって立ち上がってみせた。

「ふざけるなぁぁ、ふざけるなぁぁっ! 俺はビビルア部隊所属、分隊長のウェンガ様だぞぉぉぉぉぉっ!」

 その時、誰にも聞こえていないが、空に浮かんでいるリュゼが楽しげに笑みを浮かべて、

「ンフフ。たかが分隊長で何を大きなことをほざいているんですかねぇ~」

 まるで取るに足らない的なことを口にしていた。
 しかしウェンガにとってそれが誇りなのだろう。たかが人間に傷をつけられるということは、誇りを傷つけられることと同じなのかもしれない。だからこその激昂。

「……くっ……オレだって…………負けないって……勝つって、言ったんだぁぁぁっ!」

 腹に手を当てながらも、必死に立つ。

「はあはあはあ、今度は貴様の顔に風穴を開けてやるっ!」
「はあはあはあ、やってみろよ! それでもオレは死なないんだっ!」

 二人同時に距離を詰めた。互いに限界近いダメージを負っている。次の一撃で勝負が決するはず。

 ウェンガが繰り出した拳をかろうじてかわし、写楽は剣を斜め下から振り上げる。しかしウェンガもそれを見切っていたのか、すぐにスウェーで回避。その時、激痛が走ったように彼が顔を歪め身体を硬直させる。

 ここが好機と捉えた写楽は、そのまま振り上げた剣を引き戻すように振るう。

「なっめんなぁぁぁぁぁぁっ!」

 刹那――ウェンガの右手が写楽の心臓の方へ向けられていたことに気づく。バチチッと、右手から放電現象が起きる。心臓狙いだ。即死はマズイ。

「こっのぉぉぉぉぉぉっ!」

 今度は写楽が頭を低くし身を屈めて相手の攻撃をかわすことに成功した。ウェンガが放ったボルトレーザーは、ターゲットを失って真っ直ぐ空を突っ切る。
 写楽は下からギロリと目の間に立つウェンガを睨みつける。ウェンガもまた、血走った瞳で睨み返してきた。しかし――。

「今度は――オレの勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 一早く動けたのは――写楽だった。

 剣を下から上へと突き上げ、ウェンガの心臓を――貫いた。

「がふぁっ!? ……ま、まだ……!」

 ウェンガがまた腕を掴んでこようとする。

「その手は二度とくらわねえっ!」

 ウェンガの手首に向かって《気弾》を放った。彼の手が跳ねる。

「んなっ!? 《気弾》までだとっ!?」

 写楽はそのまま素早く剣を抜くと距離を取り、

「終わりだぁぁぁっ! ――ライトニングッ!」
「―――ッガアァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 全力を込めたライトニングが炸裂し、ウェンガの全身に襲い掛かった。
 黒焦げになったウェンガは、そのまま膝を折り大地へと沈んだ。

「っはあはあはあはあはあはあ…………ぐっ」

 剣を支えに立っているが、すでに写楽も限界だった。
 だがそれでも、今度こそ自分一人の力で一度敗北した相手に勝つことができたのだ。

「悪い……な。……オレの……勝ちだ」


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