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ハッと目が覚めると、部屋着である黒いジャージ姿のまま、自分の部屋ではないどこかにいた。だって目の前に青い空が広がっている時点で部屋じゃないから。
「えっと……」
上半身を起こして、まずは現況を把握することに努める。今オレがいる場所、どこかの浜辺だろう。涼しげな波の音が目の前から聞こえてくる。ただただ広大な海が広がっている。
それだけなら地球と何ら変わりはないだろう。しかし明らかに違うと認識させられるものがある。それは空に浮かんでいる島々。
まさにゲームや漫画などでしか見たことがない風景が目に入ってくる。雲の衣を纏いつつ、ゆっくりとした動きで空に流れてる島を見て幻想的光景に言葉を失う。
「…………ハハ……マジかよ……」
その時、海に渦潮が発生したかと思うと、そこから巨大なマンボウのような魚が跳ねた。
「……え?」
巨大も巨大。普通のマンボウの何十倍あるのか分からん……。あれ……ちょっと近いかなぁ。
マンボウが跳ねている場所が、思ったよりも近い。あそこから海面に落下すると、その衝撃で恐らくは――
「こうなるよねぇぇぇぇぇぇっ!?」
オレは必死で後方へと逃亡。何故なら奴が飛び込んだせいで、巨大な大波が生まれて浜辺を呑み込もうとしているのだから。このまま波に攫われていきなりジ・エンドはさすがにシャレにならない。
「今こそ見せてやるぜ! 小学生の頃、マッハオウギちゃんと呼ばれた神速の逃げ足をっ!」
小学生の頃、オレはかなりの運動家だった。それこそ毎日外へ出てはしゃいでたもんだ。友達と鬼ごっこをして、鬼をすれば逃げた者を捕まえたし、逃げる方に回ればゲーム中は一切触れられることはなかった。
それに運動会のリレーではいつも主役。オレの双肩にはいつもクラスの魂が乗せられていた。そして見事に優勝を掻っ攫う。最下位からごぼう抜きなんてのもザラにあった。
しかし、それはあくまでも小学生の頃の話。卒業してからゲームにハマり、高校二年の今まで帰宅部一筋でゲーム三昧をやっていた運動能力は
「のうっ!? ふくらはぎが攣ったぁぁぁっ!?」
運動不足の身体でいきなり全力疾走すればこうなるのは目に見えていた。
「わあぁぁぁぁっ!? ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁっ!?」
背後から迫りくる大波。あと数秒ほどでオレは死ぬかもしれない……そう思ったその時、ふと甘い桃のような安らぎを感じる香りが鼻腔をくすぐった。
「来たれ、我が魔本! “青の魔本”! 障害一切、氷結と成せ、《氷結の矢》っ!」
「えっ!?」
どこかから声が聞こえたと思ったその時、迫って来た波に向かって迸る青い光。波と衝突すると、一瞬にして波全体を凍結してしまった。
「……す……すっげぇ……!」
あとコンマ数秒ほどで死んでいたかもしれない状況の中、オレは何故かこの状況に胸躍るものを感じていた。
まさに魔法。まさにファンタジー。非現実に憧れていたゲーマーとしては、高鳴る胸を押さえ切れずにいた。だから凍った波よりも、背後にいる魔法を使ったであろう人物のことを知りたくて必死で探した。
小高い丘の上でこちらを見下ろしていたのは――一人の少女。
海のように青い軽鎧を着込んで、腰には物々しい剣を携えている。後ろには兵士らしき群れを従えさせている感じ。
だが確かなのは、彼女が危ないところを助けてくれたことと……。
も、ものすっごい美少女じゃん……!
そう、それが一番の確実。
氷の如く透き通るような水色の髪を風に靡かせ、一冊の本を右手に持ち、左手を腰に当てている様はまるで芸術作品のように整った仕上がりを見せる。
それも彼女の持つ美貌ならではこそだろう。翡翠に輝く瞳はキリッとしていて射抜くだけで人の心を射止める力を備えているのではと勘違いしてしまうほど。また十分に育った胸は、少年なら誰しもが振り向いてしまう豊かさを持っている。
し、しかも胸がでけぇ……やはり異世界か、モノホンの美少女を見たって感じだなぁ。い、いきなり抱きついたりしたらダメだよなやっぱ。
煩悩丸出しにそんなことを考えてしまうが、思春期の少年子ならしょうがないはずだ。うん、しょうがない。
そんな少女が右手に持っていた本を消す。消えたことに「あれ?」と疑問符を頭の上に浮かべていたが、少女が髪を手で払いのけるとゆっくりとこっちへ近づいてくる。
お礼を言おうと思い立ち上がったが、何故か彼女からビンタをもらい吹き飛んでしまう。
「いってぇぇぇぇっ!? な、なななななななっ!?」
何でいきなり殴られなきゃならないのかサッパリ分からない。しかも身体が吹き飛ぶビンタがこれほどの衝撃があるとは……眼が飛び出るかと思った。まさか自分の邪な考えでもバレたのではと恐怖に怯えてしまう。
「お前は死にたいのか!」
「ご、ごごごごめんなさ……はい?」
「ここは第二級危険区域に指定されている【バリエナ海】だぞ! 見たところ一般人のようだが、ここの危険度を知らないわけがあるまい!」
怒られている。それだけは分かる。声に怒気が混じっているし、何より身体が震えるほどの気迫が伝わってくる。でもどうやら妄想がバレたのではなさそうなのでホットした。ただこちらとしても言い分はある。
け、けどなぁ……ここが危険区域とか知らんし……。
ここの世界の神にここに飛ばされましたとか言っても、頭の中身を疑われるだけだろうし……。ここは素直に謝った方が得策かもしれない。
「す、すみませんでした! じ、実はオレ旅人で、ここへは初めて来たものですから勝手が分からず!」
「旅人? こんなご時世にか? しかもそんな軽装でか?」
「あ……」
自分の今の服装を見てしまったと思った。どう考えても旅をするような服装じゃない。どこの世界に黒ジャージ姿で世界を旅する者がいるだろうか……。
あまりにも突拍子もない言い訳に、少女も不審そうに観察してくる。
「……まあ、確かにこの辺に住んでいる者が、ここに近づくわけがないか。しかしそれでもあの看板くらいには気づくだろう普通?」
そうして少女が指差した先には立て看板があり、何か文字が書かれてある。
ただ…………あれって何て書いてるんだろうか……?
そう、読めないのだ。まるでアラビア語みたいな文字。当然日本語ではない言語が読めるわけがない。
するとオレがジッと看板を首を傾げて見ている態度に疑問を感じたのか、少女が眉をひそめて尋ねてくる。
「まさかお前、あの文字が読めないのか?」
「え~っと…………はい」
ここは正直に言おう。読めると言ったところで、状況は何も良くはならないような気がした。
「ふむ……ならお前は、【アルセ・ダイン】地方からやって来たということか? いや、その格好……それに髪色を見ると【アルセ・ダイン】地方というよりは、【エンドール】地方か? どうだ?」
「え? あ、えっとぉ……」
どうしよう。ここはどう誤魔化せばいいのか……。しかし神についての話をしても信じてもらえないだろうし……。ここは適当に。
「ひ、東の方です」
「東? ならやはり【アルセ・ダイン】地方か。わざわざ海を越えてまで、ここ【アル・ノール】まで何しにやって来たんだ?」
おお、疑われていない。ならこれに乗っかるしかない。
「えっとですね……実はオレには厳しい母親がいてですね、その母が見聞を広めるために世界を見て回ってこいと言うもんですからこうして旅に出たんですよ。本当は嫌だったんですけど、あんまりしつこく言うので……」
ギロリと彼女が睨みつけてくる。
しまった! やっぱりありきたり過ぎたか!
しかし次に彼女がとった行動に驚いた。バンッとオレの両肩に手を触れてウンウンと大きく何度も頷く。
「分かる! 分かるぞその気持ち!」
…………え?
「私も母上からはいつもいつもやれ勉強や、やれ修練やらとうるさく言われている」
「は、はぁ……」
「お互い母には頭が上がらないということか。だがさすがにその服装で旅はどうかと思うぞ? まさか服装まで指定されているというのか!?」
「あ、いいえ! これはその……あれです! 結構動き易いんですよコレ! 肌触りも抜群ですし! だから癖になって……ハハハ」
「なるほど。少し触らせてくれるか?」
「え? あ、はいどうぞ」
少女が手を伸ばし袖を掴んできた。この細腕で剣を振るうのかと思うと疑問が浮かぶ。まさに女の子の腕だった。ただ何となく肌ではないが、自分の服に美少女が触れていると思うと若干ときめくのはどうしてだろうか……?
「ふむ、なるほど。これは確かに」
結構単純なのか、オレの嘘にまんまとハマってくれるので安心する。いやまあ、肌触りが良いから着ているというのは決して嘘ではないけど。
「まあ、お前の言い分は分かった。だが旅人でも危険区域に入るためには許可が必要になる。今後は気をつけるようにな」
「あ、はい。それと、さっきは助けてくれてありがとうございました」
「なぁに、民を助けるのは騎士として当然のことだ」
どうやら彼女は騎士という職業のよう。何となく身形からそうではないかと予想はしていたがドンピシャだったみたい。
「とりあえずは危険区域から出るまでは同行してもらうぞ?」
「は、はい。それはすっげぇ助かります! もうどっこでもついていきます! 美少女様っ!」
「び、美少女様っ!?」
少女はカーッと顔を赤く染めるとビシッと指を差してくる。
「わ、私は騎士だっ! そ、そのような呼び方は無礼だぞっ!」
「ええっ!? マジですか!?」
「分かったら取り消せっ!」
「は、はいっ! え、えっとあなたは美少女でも何でもありませんっ! 誰が何と言おうと絶対ぜ~ったい美少女なんかじゃありませんっ!」
これでいいだろう……と思って彼女の顔を見ると、何故か涙目で睨みつけられていた。
…………WHY?
「へぶしィィィッ!?」
またもビンタをされた。今度のは先程よりももっと痛かった。だから眼球が飛んでいったのだと本気で思った。けどどうやらそれは錯覚だったみたいで安心する。しかし強烈な衝撃により脳が揺れてしまい足元が覚束ない。そのまま地面へと倒れ込み意識を失ってしまった。
「えっと……」
上半身を起こして、まずは現況を把握することに努める。今オレがいる場所、どこかの浜辺だろう。涼しげな波の音が目の前から聞こえてくる。ただただ広大な海が広がっている。
それだけなら地球と何ら変わりはないだろう。しかし明らかに違うと認識させられるものがある。それは空に浮かんでいる島々。
まさにゲームや漫画などでしか見たことがない風景が目に入ってくる。雲の衣を纏いつつ、ゆっくりとした動きで空に流れてる島を見て幻想的光景に言葉を失う。
「…………ハハ……マジかよ……」
その時、海に渦潮が発生したかと思うと、そこから巨大なマンボウのような魚が跳ねた。
「……え?」
巨大も巨大。普通のマンボウの何十倍あるのか分からん……。あれ……ちょっと近いかなぁ。
マンボウが跳ねている場所が、思ったよりも近い。あそこから海面に落下すると、その衝撃で恐らくは――
「こうなるよねぇぇぇぇぇぇっ!?」
オレは必死で後方へと逃亡。何故なら奴が飛び込んだせいで、巨大な大波が生まれて浜辺を呑み込もうとしているのだから。このまま波に攫われていきなりジ・エンドはさすがにシャレにならない。
「今こそ見せてやるぜ! 小学生の頃、マッハオウギちゃんと呼ばれた神速の逃げ足をっ!」
小学生の頃、オレはかなりの運動家だった。それこそ毎日外へ出てはしゃいでたもんだ。友達と鬼ごっこをして、鬼をすれば逃げた者を捕まえたし、逃げる方に回ればゲーム中は一切触れられることはなかった。
それに運動会のリレーではいつも主役。オレの双肩にはいつもクラスの魂が乗せられていた。そして見事に優勝を掻っ攫う。最下位からごぼう抜きなんてのもザラにあった。
しかし、それはあくまでも小学生の頃の話。卒業してからゲームにハマり、高校二年の今まで帰宅部一筋でゲーム三昧をやっていた運動能力は
「のうっ!? ふくらはぎが攣ったぁぁぁっ!?」
運動不足の身体でいきなり全力疾走すればこうなるのは目に見えていた。
「わあぁぁぁぁっ!? ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁっ!?」
背後から迫りくる大波。あと数秒ほどでオレは死ぬかもしれない……そう思ったその時、ふと甘い桃のような安らぎを感じる香りが鼻腔をくすぐった。
「来たれ、我が魔本! “青の魔本”! 障害一切、氷結と成せ、《氷結の矢》っ!」
「えっ!?」
どこかから声が聞こえたと思ったその時、迫って来た波に向かって迸る青い光。波と衝突すると、一瞬にして波全体を凍結してしまった。
「……す……すっげぇ……!」
あとコンマ数秒ほどで死んでいたかもしれない状況の中、オレは何故かこの状況に胸躍るものを感じていた。
まさに魔法。まさにファンタジー。非現実に憧れていたゲーマーとしては、高鳴る胸を押さえ切れずにいた。だから凍った波よりも、背後にいる魔法を使ったであろう人物のことを知りたくて必死で探した。
小高い丘の上でこちらを見下ろしていたのは――一人の少女。
海のように青い軽鎧を着込んで、腰には物々しい剣を携えている。後ろには兵士らしき群れを従えさせている感じ。
だが確かなのは、彼女が危ないところを助けてくれたことと……。
も、ものすっごい美少女じゃん……!
そう、それが一番の確実。
氷の如く透き通るような水色の髪を風に靡かせ、一冊の本を右手に持ち、左手を腰に当てている様はまるで芸術作品のように整った仕上がりを見せる。
それも彼女の持つ美貌ならではこそだろう。翡翠に輝く瞳はキリッとしていて射抜くだけで人の心を射止める力を備えているのではと勘違いしてしまうほど。また十分に育った胸は、少年なら誰しもが振り向いてしまう豊かさを持っている。
し、しかも胸がでけぇ……やはり異世界か、モノホンの美少女を見たって感じだなぁ。い、いきなり抱きついたりしたらダメだよなやっぱ。
煩悩丸出しにそんなことを考えてしまうが、思春期の少年子ならしょうがないはずだ。うん、しょうがない。
そんな少女が右手に持っていた本を消す。消えたことに「あれ?」と疑問符を頭の上に浮かべていたが、少女が髪を手で払いのけるとゆっくりとこっちへ近づいてくる。
お礼を言おうと思い立ち上がったが、何故か彼女からビンタをもらい吹き飛んでしまう。
「いってぇぇぇぇっ!? な、なななななななっ!?」
何でいきなり殴られなきゃならないのかサッパリ分からない。しかも身体が吹き飛ぶビンタがこれほどの衝撃があるとは……眼が飛び出るかと思った。まさか自分の邪な考えでもバレたのではと恐怖に怯えてしまう。
「お前は死にたいのか!」
「ご、ごごごごめんなさ……はい?」
「ここは第二級危険区域に指定されている【バリエナ海】だぞ! 見たところ一般人のようだが、ここの危険度を知らないわけがあるまい!」
怒られている。それだけは分かる。声に怒気が混じっているし、何より身体が震えるほどの気迫が伝わってくる。でもどうやら妄想がバレたのではなさそうなのでホットした。ただこちらとしても言い分はある。
け、けどなぁ……ここが危険区域とか知らんし……。
ここの世界の神にここに飛ばされましたとか言っても、頭の中身を疑われるだけだろうし……。ここは素直に謝った方が得策かもしれない。
「す、すみませんでした! じ、実はオレ旅人で、ここへは初めて来たものですから勝手が分からず!」
「旅人? こんなご時世にか? しかもそんな軽装でか?」
「あ……」
自分の今の服装を見てしまったと思った。どう考えても旅をするような服装じゃない。どこの世界に黒ジャージ姿で世界を旅する者がいるだろうか……。
あまりにも突拍子もない言い訳に、少女も不審そうに観察してくる。
「……まあ、確かにこの辺に住んでいる者が、ここに近づくわけがないか。しかしそれでもあの看板くらいには気づくだろう普通?」
そうして少女が指差した先には立て看板があり、何か文字が書かれてある。
ただ…………あれって何て書いてるんだろうか……?
そう、読めないのだ。まるでアラビア語みたいな文字。当然日本語ではない言語が読めるわけがない。
するとオレがジッと看板を首を傾げて見ている態度に疑問を感じたのか、少女が眉をひそめて尋ねてくる。
「まさかお前、あの文字が読めないのか?」
「え~っと…………はい」
ここは正直に言おう。読めると言ったところで、状況は何も良くはならないような気がした。
「ふむ……ならお前は、【アルセ・ダイン】地方からやって来たということか? いや、その格好……それに髪色を見ると【アルセ・ダイン】地方というよりは、【エンドール】地方か? どうだ?」
「え? あ、えっとぉ……」
どうしよう。ここはどう誤魔化せばいいのか……。しかし神についての話をしても信じてもらえないだろうし……。ここは適当に。
「ひ、東の方です」
「東? ならやはり【アルセ・ダイン】地方か。わざわざ海を越えてまで、ここ【アル・ノール】まで何しにやって来たんだ?」
おお、疑われていない。ならこれに乗っかるしかない。
「えっとですね……実はオレには厳しい母親がいてですね、その母が見聞を広めるために世界を見て回ってこいと言うもんですからこうして旅に出たんですよ。本当は嫌だったんですけど、あんまりしつこく言うので……」
ギロリと彼女が睨みつけてくる。
しまった! やっぱりありきたり過ぎたか!
しかし次に彼女がとった行動に驚いた。バンッとオレの両肩に手を触れてウンウンと大きく何度も頷く。
「分かる! 分かるぞその気持ち!」
…………え?
「私も母上からはいつもいつもやれ勉強や、やれ修練やらとうるさく言われている」
「は、はぁ……」
「お互い母には頭が上がらないということか。だがさすがにその服装で旅はどうかと思うぞ? まさか服装まで指定されているというのか!?」
「あ、いいえ! これはその……あれです! 結構動き易いんですよコレ! 肌触りも抜群ですし! だから癖になって……ハハハ」
「なるほど。少し触らせてくれるか?」
「え? あ、はいどうぞ」
少女が手を伸ばし袖を掴んできた。この細腕で剣を振るうのかと思うと疑問が浮かぶ。まさに女の子の腕だった。ただ何となく肌ではないが、自分の服に美少女が触れていると思うと若干ときめくのはどうしてだろうか……?
「ふむ、なるほど。これは確かに」
結構単純なのか、オレの嘘にまんまとハマってくれるので安心する。いやまあ、肌触りが良いから着ているというのは決して嘘ではないけど。
「まあ、お前の言い分は分かった。だが旅人でも危険区域に入るためには許可が必要になる。今後は気をつけるようにな」
「あ、はい。それと、さっきは助けてくれてありがとうございました」
「なぁに、民を助けるのは騎士として当然のことだ」
どうやら彼女は騎士という職業のよう。何となく身形からそうではないかと予想はしていたがドンピシャだったみたい。
「とりあえずは危険区域から出るまでは同行してもらうぞ?」
「は、はい。それはすっげぇ助かります! もうどっこでもついていきます! 美少女様っ!」
「び、美少女様っ!?」
少女はカーッと顔を赤く染めるとビシッと指を差してくる。
「わ、私は騎士だっ! そ、そのような呼び方は無礼だぞっ!」
「ええっ!? マジですか!?」
「分かったら取り消せっ!」
「は、はいっ! え、えっとあなたは美少女でも何でもありませんっ! 誰が何と言おうと絶対ぜ~ったい美少女なんかじゃありませんっ!」
これでいいだろう……と思って彼女の顔を見ると、何故か涙目で睨みつけられていた。
…………WHY?
「へぶしィィィッ!?」
またもビンタをされた。今度のは先程よりももっと痛かった。だから眼球が飛んでいったのだと本気で思った。けどどうやらそれは錯覚だったみたいで安心する。しかし強烈な衝撃により脳が揺れてしまい足元が覚束ない。そのまま地面へと倒れ込み意識を失ってしまった。
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