能天気男子の受難

いとみ

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10(15歳)

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15歳になった。


聖ラビリンス学園に入学する。

そう、ゲームが始まってしまうのだ。
主人公のヒロインは入学式の日に、攻略対象者のほぼ全員とハプニングがあり顔見知りになってスタートする。

1日で何回、ハプニングあるんだよ。
ゲームしてた時は何とも思わなかったが、ヒロインにしてみればハードスケジュールだろう。

まず、第二王子とは入学式前に廊下の角で不意にぶつかってしまう。
その拍子にヒロインの髪の毛が王子のボタンに絡まり、慌てて取ろうとするが余計に絡まってしまう。
王子は髪の毛が絡まっているボタンを取って、ヒロインに渡すという出来事がある。

その後すぐ、テオルドの嫉妬によりヒロインは階段の上から突き落とされてしまう。
そこを間一髪で助けたのがセレス兄さんだ。
だが、ヒロインは足首を捻ってしまい、セレス兄さんにお姫様抱っこで救護室へ連れて行ってもらい、足首を手当てしてもらう。

そして入学式が始まる。
式が終われば、俺の登場だ。

ゲームでの俺は、ヒロインが可愛くて一目惚れ。ヤンキーなのでナンパして、嫌がるヒロインに俺のものになれと迫る。
そこへ、騎士のマクビルがヒロインを助ける。
助けた時にマクビルは、かすり傷を負ってしまい、ヒロインがハンカチを出して、傷口に巻いてあげる。

放課後、諦めきれないヤンキーの俺は、ヒロインに付き合ってくれと廊下で壁ドンして無理やりキス。


………ありえない。
初対面の女の子にそんな事できる訳ないだろ!
ちなみにジオードは年下なので登場は来年だ。

なるべく俺は関わりたくない。勝手にしてくれ。



そして今日は俺が入寮する日だ。
入学式の前の日までに寮に入る決まりになっている。
一年目の寮での部屋は2人部屋だ。

相手は誰だろう…嫌な奴じゃないと良いな……。
ドキドキしながら自分の割り当てられた部屋へ行く。部屋のドアを開けると、まだ相手は来ていないらしく静かだった。
ちょっと楽しみにしていたからか、肩透かしをくらったような感じだ。

部屋は大きなリビングと寝室が2つの豪華な部屋だった。リビングにはソファとテーブルがあり、来客が来ても対応出来るようだ。
荷物を運びこもうとリビングに行き部屋を見回していると、寝室の1つのドアが「ガチャ」と音と共に開く。

「うわぁ!」

びっくりして声が出てしまった。
誰もいないと思い込んでいた所に、いきなりの出来事で油断してた。相手もびっくりして固まっている。

「ご、ごめん。まだ来てないんだと思ってたから。」

恥ずかしくて、言葉の最後の方は声が小さくなっていく。

「俺はヒューリ・カイザルだ。」

メガネの真ん中を上げながら、鋭い眼光を放つ。
無表情で怒っているようにも見える。

「俺は、ルシオン・マークフェン。よろしく。」

ちょっとビビりながらも笑顔で返す。
ヒューリは何の反応もなく、そのまま部屋を出て行ってしまった。


ヒューリ・カイザル。
平民出身で特待生。
この学園では、試験を受けて特待生になれば入学でき、授業料も学園や寮での生活費も免除になる。

ゲームでは攻略対象者ではないが、主人公のヒロインにアドバイスや情報を提供する人物だ。
暗い過去があるのか、貴族に対して敵対心があり常に苛ついている。だが主人公のヒロインの優しさに触れ次第に穏やかになっていく…という設定だ。

ヒューリはゲームと同じ性格なんだろうか?
それとも…この世界はゲームと登場人物の性格が違う別の世界なのか…。


同室だから、仲良くできたら良いけど、こんな俺でも貴族の端くれだから無理かな。

もう1つの寝室に荷物を運び、着替えや小物等をだす。
この後はセレス兄さんと合流して寮の中を案内してもらう予定だ。
持ち物が少なかったおかげで、片付けはすぐ終わった。


玄関から自分の部屋までは解ったが、セレス兄さんと待ち合わせている食堂までの通路が解らない。
どうしよう…と、部屋を出た所で立ち止まる。
誰かに聞こうと思い周りを見たら、遠くの方から取り巻き達を引き連れたテオルドが見えた。

美少女と間違えそうな可憐な顔をしている彼は、何故かしかめっ面をしている。
その彼がふと俺を見つけると、すぐさま駆け寄って来た。取り巻き達もぞろぞろと移動してくる。
その光景はちょっと怖い。

「助けてくれ。」

そう言いながらテオルドは俺の腕を取り走り出す。

どうしたのか訳が知りたいが、大勢の取り巻き達が追いかけてくる恐怖に足を止められない。
しかもテオルドと手を繋いで走っているからか、「テオルド様!」「そいつは誰ですか!」「テオルド様と手を繋ぐなんて!」「ソイツコロス。」物騒な事を言ってる奴がいるんだが………。

何回も角を曲がったり階段を上り降りして、ようやく取り巻き達を巻くことが出来た。

建物の裏にある木の下に、腰を降ろす。疲れた。

「はぁ、はぁ、はぁ、どうしたんだ?」

何とか息を切らせながら、訳を聞いてみる。
テオルドはもう息を整えている。さすがだ。

「鬱陶しい奴らだ。公爵家だからだとか、見た目が美しいとか、いい加減うんざりだ。」

まだ苛立っているらしく、拳を地面に叩きつけた。
見た目は儚い美少年だが、中身は男らしいのを俺は知っている。

「大変だな。俺に何か出来る事があれば、言ってくれ。たぶん役に立たないと思うけど…ははは…。」

と言うと思い切り抱きつかれた拍子に、鈍い音をさせ頭を木にぶつけた。
「いてて。」

「ルシオン、ありがとう。」

テオルドが嬉しさを纏ったような声音になった。
機嫌が直ったらしい。良かった。

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