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 私たちの学生寮は、皆平等に部屋が与えられている。
『実力至上主義』を掲げているのに、なぜここは平等なのだろうか。
 その点は深く考えない方がいいのかもしれない。
 辻褄が合わない出来事などいくらでもあるのだから。


 午後十一時。
 特に消灯時間が設定されているわけでもなく、迷惑をかけなければ、行動は自由である。
 そのため隣の部屋からは話し声が聞こえたり、何らかの物音が聞こえたりする。
 静かになるのは大抵日をまたいでからだ。
 入学してから一ヶ月。
 学校生活には慣れ始め、ここの寮生活もそれなりに楽しめている。
『実力至上主義制度』という今までのスタイルと正反対のものが掲げられているが、こういった生活には大した支障をきたしていない。
 ここ新宿以外の、普通の学校生活とは何らか変わりないだろう。
 強いていえば、学校の授業に『戦闘』というのがあったり、能力が使えたりすることくらいだ。

 そのため、普通の学生のように私は今、宿題をしているわけだ。


「全く……。いくら何でもこれは……」


 机の上に置かれた山積みの宿題。
 これを課されたのは、私と美彩のみ。
 理由は昨日にある。

 夕方以降外に出ることは行けないという学校のルールを守らなかったからだ。
 生徒の安全を守るために欠片(チップ)にGPSを仕込んでいるなんて、思ってもいなかった。

 山のような宿題を前にしてため息をついたその時。


「『ドーン』」


 と物凄い音と共に、コンクリートが崩れる音が聞こえた。
 その音は、私の部屋のベランダの方から聞こえた。
 私はそこへと急いで移動する。

 そこを見ると、ベランダの手すりが壊されさらにコンクリートが激しく崩れていた。
 そして、壊された部分には電気のようなものがビリビリと漂っていた。
 電気系の欠片(チップ)の所持者のようだ。


「いったい誰が……」

「いったい誰がとは失礼な。これだけの破損範囲に、漂っている電流。校内でもそれなりには名が通っているものだと思っていたが……」


 声は寮の下からしていた。
 覗き込んで姿を確認しようとする。

 すると、顔の横を電気の玉が物凄いスピードで通り過ぎた。
 そのまま電気の玉は空へと飛んでいった。

 私は、部屋を出て急いで外に出た。
 思いっきり開け放たれた戸の音に気付き、その男はこちらを見た。


「羽崎 光矢(はざき こうや)……」

「おっ……。知っていたのか。蒼炎の欠片(チップ)、西宮 彩椰」

「ということは、これは……」

「雷狼(らいろう)の欠片(チップ)。雷と電気を操ることが出来る」

「で、こんなことして何がしたいの?」

「ベランダの破損なら、寮長が直せるだろう?」


 ここの寮長は、修復の欠片(チップ)の持ち主。
 そして、寮長でありながら私たちの学校の経営者でもある。


「そんなことを聞いてるわけじゃないわ。私に何の用?」

「この学校には約三百の欠片所持者がいる。そのうちの成績優秀者、五本の指に入る西宮 彩椰」

「何が言いたいの?」

「俺も同じ『選ばれし者エンペラー』だ。どれくらいの実力か、気になってな。さっきのは挨拶替わりだ」

「挨拶ね。じゃあ、しっかりお返ししないといけないわね~」


 私はニコッと不敵な笑みを浮かべた。
 そして、右手から炎を繰り出そうとした時だった。


「うっ……」


 急に耳がキーンと鳴った。
 私は炎を撃つのをやめ、耳を抑えてその場にしゃがみこんだ。

 羽崎の方を見ると、何故かゲラゲラと笑いながら立っていた。


「撃ってこないのか?」

「あんた……。変な高い音が聞こえないの……?」

「『綴音(ていおん)の欠片(チップ)』」

「ど、どういうこと?」


 羽崎は右手の甲をこちらに見せた。
 そこには間違いなく欠片(チップ)があった。


「二つ以上の音を掛け合わせることで、あらゆる音を作り出す事が出来る」

「そういうことを聞きたいわけじゃない……。なんで欠片(チップ)が二枚も……」

「じゃあな、蒼炎の欠片(チップ)さんよ」


 羽崎は音を出すのをやめ、姿を消した。


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