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第三十話 戦いの終わり

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 二人は訝しげな目で見ていた。

「どこからどう見てもクソ人間じゃねぇかよ」
「でもアニキ、最初に俺絶対あいつ切ったんだよ。でも血ひとつでてねぇ」

 しばらく、二人はこちらをじろじろと見ていたが、膝をついていた方の男が何か気づいたように声をあげた。

「あ、思い出した。コイツ最近町で人間に混じってへらへらやってるやつじゃねぇか」
「アニキが言ってたクソやろうか!」
「そう言う事だ。人間に媚びてるクソやろうだ。虫唾が走るぜ。ガト、「本気」で殺すぞ」
「わかった」

 サイリールが戸惑っていると二人の周りにモヤがかかりはじめた。
 じわりと彼らの姿が歪む。
 モヤが晴れたそこには目が赤く光り、全身の筋肉が盛り上がり、手足もさらに獣のようになり、するどい爪が伸びていた。

「「グルァアア!」」

 二人共咆哮を上げると一斉に飛び掛ってきた。
 剣を持てなくなった二人のリーチは短くなったが、素早い。
 ほとんどサイリールは勘だけで避けていた。
 しかしじわじわと二人の爪が届きはじめる。

 アソート以外で、初めて会った闇の住人だった。
 出来れば理解しあいたかったし、殺したくはなかった。
 だが、この二人は理解し合えない闇の住人のようだ。
 人を嫌い、人を見下し、人を殺す事を何とも思わない。
 彼とは相容れないようだ。

 仕方ないか……と呟いたサイリールは殺す為の剣を振るい始めた。

「ツメガ、アタリハジメタゾ!コロセ!コロセ!」
「グルァ!タノシイ!タノシイ!」

 彼に攻撃が届き始めた事で油断していたのだろう。
 隙をついてサイリールはガトと呼ばれた男の右腕を切り飛ばした。

「ガァァァァア!ウデ!アニキ!オレノウデ!」
「ガト!クソ!ヨクモ!グアァァア!」

 一人が腕を抑えて戦線を抜けたので楽になったサイリールは怒りのまま大振りで攻撃してきたもう一人の攻撃を避け、すれ違いざまに首を刎ねる。

 首を刎ねられた男は数歩そのまま歩き崩れ落ちた。

「アニキ!アニキ!ヨクモ!アニキヲ!グルゥァアア!」

 腕を切られた男が怒りのままに攻撃を仕掛けてくる。
 先程の男と同じく、怒りのために攻撃が雑になっていた。
 左腕で彼を引き裂こうとした男の攻撃を避けると、そのまま先程の男と同じように首を刎ねた。

 残された体はそのままの勢いで地面に突っ込んでいく。

「……ごめんね。できれば、なかよくしたかったんだけど……」

 そうしてサイリールは二人の死体を闇で包み回収した。
 闇の住人達の死体は人間とは違い、数週間で消えてしまい、後には何も、骨すらも残らない。
 しかし、消えた後が問題だった。
 死体が消えた瞬間に、それは闇のオーラに変わってしまうのだ。
 当然の事ながら、闇のオーラは他の獣にとりついて、それは闇獣へと変貌してしまう。


 そういった現象や、見た目の問題、自然発生的に生まれる闇の住人は、人間から見れば同じ生物ではなく、闇獣達と同じ扱いであった。
 さらには、一部は見た目は人型だが、知能が低く、大変凶暴であったり、知能は高いが人間の血液を主食とするモノもいた。
 そういった事もあり、闇の住人の扱いは非常に悪かった。

 人扱いされないので、昔のアソートのように弱く人型でないモノは捕らえられ、見世物にされたり、ペットにされたりする。
 これら人型ではないモノはまだそれでも扱いとしてはマシだった。

 人型で、首から下が人の姿に近しい弱いモノ達は男女問わず、性奴隷にされたり、特殊な性癖の人間に高く売られたりする。
 人ではないので、どんな事をしても罪に問われないせいだ。
 そして何よりも人間より頑丈で壊れにくいという点がある。

 闇の住人達は人間の住んでいる場所で発生する。
 だから発生すると大体すぐに人間に見つかり捕らえられてしまう。
 そして強いモノは可能であれば討伐・駆除をされる。
 これ以上よりも強いモノを増やさない為だ。
 人間はいつだって自分と同じ種族ではなく、自分達よりも強いモノには強い恐怖を覚えるのだ。
 時にそれは同じ人間という種族であっても覚える恐怖だ。
 だからこそ人間はここまで繁栄出来たという部分はあるだろう。




 闇の住人達は人に近しい体をしていればいる程、強さとは正反対に人間のように弱くなる。
 逆に、首から下が人型でも獣のような毛で覆われていたり、鱗で覆われていたり、尾が生えていたり、二足歩行ではあるが人とは違った見た目であったりと、人間と見た目が違う程強かったりする。
 なぜそのようになるのかはまったく解明はされていない。

 大抵の強い闇の住人は本能なのか、弱い仲間を守ろうとしたり、守りきれなさそうであれば逃がそうとするのだが、中には、そこまで強くない闇の住人が弱い闇の住人を捕らえて、人間に売ったりもしている。
 アソート自身も弱いが、それでも、そんな弱い人型を逃がしていた時に捕まってしまったのだ。

 それでも最近は闇人族として、ひとつの種族として扱おうと提唱する者達もいる。
 とはいえ種族としての線引きが難しく、人語をまったく話せず理解しないモノ・人をエサと見做すモノは、闇獣として、人語をあまり話せず凶暴なモノは凶暴種として扱うというのが暫定的に提唱されている内容だ。

 ただ、人をエサとするモノの中でも、知能が高く人の血を啜るモノはなぜか総じて人間への擬態がとてもうまくて判別が難しく、その為種族分けなどはうまくいっていない。
 ただ、やたら綺麗な顔をしており、サナトの実に対して非常に弱くその実の汁に触れるとヤケドのような状態になるという事だけは判明している。

 さらには、これまでの彼らへの扱いから、スラム街や、裏社会では多くの闇の住人が犯罪者として巣食っており、このせいで難しくなっているのも事実である。
 総じて彼らの地位は低く、確立はされてはいないのだ。
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