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第三十四話 少女との出会い

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 人ごみを抜けて見た檻の中には、膝を抱えて顔を伏せた幼い子供が入っていた。
 誰かが顔が見えんぞ、と言った。
 販売してる商人の男が檻を軽く小突くが、子供は顔を上げない。
 それを見た男が貼り付けた笑顔のまま檻を強く叩いた。

「おい、顔を見せろ。お客様の前だぞ」

 怯えたように体を震わせながら幼い子供が顔を上げる。
 わずかにザワリと声があがる、この小さな町では闇の住人は比較的珍しいのだ。
 いなくはないのだが、うまく隠れ潜んでいるし、発生自体があまりない。
 小さい町や村にはあまり発生しないが、大きい街となるとそれなりに街中に発生する。

 檻の中の幼い少女はぽろぽろと涙を零していた。
 綺麗な金色のゆるくウェーブした髪を肩で揃え、右目の部分から顔半分を覆うような、大きな赤い花を咲かせている。
 左の瞳は右目の花と同じ、ルビーのような赤色をしていた。
 そんなルビーのような瞳と花の瞳も今は濡れて涙を零している。
 さらに右腕だけが植物の蔓の束で出来ているようだ。
 だけど、あまり食事を与えられていないのかかなり痩せていた。

「いかがでしょうか!そこそこかわいらしい顔立ちをしておりますよ!ただ、最初に申しました通り出来損ないでして、足が悪くほぼ歩けません。また声もかすれた声しか出ません。しかし歩けず声が出ないくらいでそれ以外は魅力ある商品かと思いますよ!」

 誰かが、いくらだと声を出す。

「ええ、もちろんお安く致しますよ。通常でしたらこのくらいの大きさですと5大金貨致しますが、こちらは本当に出来損ないでして貴族様から払い下げされた商品です。ですのでお安くして3大金貨で販売しております」

 1大金貨が金貨100枚なので、300金貨という事になる。
 1金貨は銀貨100枚、1銀貨は銅貨100枚だ。
 一般的な平民の家族で1ヶ月10銀貨もあれば普通に暮らせるだろう。
 あちこちからやはり高いもんなんだな、そろそろ帰るか、いい物が見れたな、などと声があがる。
 一瞬、商人の顔が歪むがすぐに元の貼り付けた笑顔に戻る。
 しかし一度引きはじめた波はどうにもならず、商人の前からは人がほぼいなくなる。
 それもそうだろう。
 なぜここで売ろうとしたのかは知らないが、ここは大きな街ではなくごく普通の小さな町だ。
 3大金貨を払えるようなとても裕福な人間はいない、そもそも大商人か貴族でもないと無理だろう。

 集まっていた人々も珍しいから集まっていただけで買うつもりなどなかったのだ。
 人がいなくなり商人はかすかにため息をつき、幼い少女をジロリと睨んだ。
 少女が怯え顔を伏せる。

 サイリールは山賊から奪った金と、これまで自分が稼いできた金を合わせても3大金貨もなく困ってしまう。
 そんなサイリールの服の裾をアソートが引き小声で尋ねる。
「いくらある?」
「たぶん、2大金貨くらい」

 アソートはコクリと頷くと、後はボクに任せて。と言った。

「おじさん、その子、貴族から押し売りされたんでしょ?それに、もう随分売れてないんじゃないの?」

 アソートの声に眉をしかめた男だったが、彼らを見もせずに答えた。

「それがどうだっていうんだ。子供はかえんな」
「大きな街で値下げしたけど売れなかったんでしょ?こんな小さな町まで売りに来るくらいなんだし」
「何度もいわせんな、帰れ」
「おじさんも商人ならちゃんとみなよ。子供だからってお金がないわけじゃないんだよ?」

 アソートの言葉に片付けをしていた商人が振り向き、アソートの事をゆっくり見る。
 アソートの後ろに立っているサイリールには目もくれなかった。
 護衛か何かだと判断したのだろうか。

「随分ときれいなおぼっちゃんだな。金はあるのかね」

 商人の男は、アソートの服をパッと見て高価な物だと判断し、会話をする事にしたようだ。

「あるよ。だけどさ、3大金貨じゃ買えないかなぁ。だって腕が人型じゃない事説明しなかったでしょ?田舎の町でも知ってる人は知ってるんだよ」
「…………」

 事実をつかれた男は、その言葉を聞いて顔を歪め押し黙っていたが、頭の中で色々と計算をしていたのか、しばらくして呟いた。

「……いくらだ」
「1大金貨。十分でしょ?これ以上頑張っても売れないよ」

 アソートの言葉に男は目をつぶり何か考えていたがしばらくしてアソートの条件を飲んだ。

「わかった……。それで手を打とう」
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