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第百八話 娘達との時間

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 翌日、夜中にアソートとと始末をつけて戻ったサイリールは家族が起きてくるのをフォウにミルクを与えつつ待っていた。
 アソートは気分転換にと、朝風呂にいっている。
 スラムにいたゴロツキが三人姿を消したが、それを気に留める者は誰もいないだろう。

 セイは今日一日は出かけずに今後についてサイリールから聞かされた話しをイーナが起きたら家族皆に説明する予定である。

 フォウにミルクを与え終えたサイリールはそのままフォウと軽く戯れていた。
 カチャリと音がした方に顔を向けると、起きたばかりという顔をしたサーシャとファニーが連れ立って部屋から出てきた。
 そのすぐ後をエルが出てきていた。

「おはよう」

 そう声をかけたら、半目だったファニーの目がハッと開き、サイリールを見つめた。
 しかしファニーはサイリールを見た途端に、ぷーっと頬を膨らませ、唇を尖らせてしまった。
 サイリールが帰って来なかった理由はわかっている、分かっていてもやっぱり実際にサイリールと会ってしまうと咄嗟に怒ってしまったのだ。

 そのまま、サーシャの手を引いて洗面所に向かって行くファニー。

 そんな様子にエルは少し苦笑し、サイリールは眉尻を下げてしまう事になる。
 仕方なかったとはいえ、やはり愛しい娘に嫌われてしまうのは堪えるようだ。



 エルとアソートが家を見る為に出かけ、サーシャとファニー、そしてサイリールは部屋に残った。
 サーシャもファニーもソファーに腰掛けていたが、ファニーは端っこに座り、膝を抱え、あいも変わらず頬を膨らませ、唇を尖らせている。
 サーシャはそんなファニーの気持ちも分かるのでサイリールの補助はせずに知らないふりをしつつ、フォウと遊んでいた。

 サイリールは眉尻を下げたままファニーに話しかけているがずっと無視をされている。
 そんな状態が1時間ほど過ぎた所で、サーシャが動き出した。
 さすがにサイリールが可愛そうになるほどへこんでいるのが見て分かるほどになったので、もういいだろうと手を貸す事にしたようだ。

 ファニーも本当はそこまで怒ってはいないのだが、一度怒ってしまったがゆえに、意地になってしまっている部分もあるようだった。
 実際、サイリールが深く溜息をついて飲み物を飲んでいる時、チラチラとファニーはサイリールを見ているのだ。
 本当はもう甘えたくて仕方ないのだろう。

 だから、サーシャはかわいい妹の為に行動を起こしたのだ。

「ファニー、あれとってこよう?せっかくかったんだもん、ね?」

 サーシャの言葉にファニーはパっと笑顔になったが、サイリールを見てプイと顔をそらし、サーシャのそばへと走り寄った。
 そんなファニーの行動にサイリールは益々眉尻を下げる事になった。
 そして、サーシャと共に部屋へと消えていくファニーをじっと見る事しか出来なかった。

 しばらくして、部屋から何かを持って出てきたファニーはサーシャに何か言われたのか、少し機嫌がよくなっているようだった。
 何かを入れた袋をサイリールにグイっと押し付け、そっぽを向いている。

「僕にくれるのかい?ファニー」

 当然返事はないが、袋を受け取り中身をみた。
 袋の中には黒い石を中心に金色の石が3つと、栗色の石が1つついた、革紐のブレスレットがあった。
 なんだかアンバランスだな?と思って首を傾げると、サーシャが意味を教えてくれた。

「それね、サーシャとファニーでいっしょうけんめいかんがえたの。くろいいしがパパで、きんいろのいしはあたしと、おにいちゃんとファニー、ちゃいろいいしが、エルなの。だから、かぞくのいし!みんなおなじのもってるのよ。いっしょ!ね、ファニー?」

 サーシャの問いかけにファニーはコクリと頷いた。
 そんな子供達の言葉に、サイリールはあまりにも嬉しくて、二人を抱き寄せると精一杯の感謝と愛を伝えた。

「ありがとう、パパはすごく嬉しい。本当に嬉しい。サーシャもファニーもいい子だね、ありがとう。昨日は一緒に出かけられなくてごめんね。だけど、本当に二人の事を愛しているんだよ。ありがとうね」

 そんなサイリールの言葉にサーシャは満面の笑みを浮かべ、ファニーは寂しかった分ちょっと泣いてしまった。

 サイリールはエルとアソートが戻ってくるまでしっかりと二人の相手をしてきっちり絆を深めた。
 さすがに今の状況で子供達にファニーを家へ帰す旅である事は伝えるには相応しくないので伝える事事態は延期される事になった。
 とはいえ、3日延長するだけではあるが。

 セイ達の諸々を含め、宿の滞在日数を3日延長し、最終日に伝える予定である。
 伝えるのが伸びた事実にサイリールは少しほっとしつつも、確実に訪れるその時間に不安も覚える事になった。
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