闇の世界の住人達

第百三十五話 セイ達の将来

　サーシャとセイ達がハンナに連れられて談話室を出た後、二人は会話を始めた。

「あの子達と家族になれてよかったよね、サイリール」

　アソートの言葉に、サイリールは頷いた。

「うん、本当に良かった。セイがあんなに成長しているとは思わなかったけど、他の子達もたったの1ヶ月ちょっとであんなに成長してるなんて」
「ほんとだよねぇ。ボクもびっくりだったよ。少し前までは文字すら読めなかった子が、絵本とはいえ読めるようになってるし、少しなら書けるようになっているんだもん。ただ、セイは本当に才能があるんだねぇ。あんなに丁寧な会話も出来て、もう難しい文字も読めるんだよね？」

　いつの間にか側に控えていたセドリックが新しい紅茶を出しつつ、その質問に答えた。

「はい、セイの成長は著しいですね。あの子は記憶力が本当に優れておりますし、吸収も早いです。正直に申しますと、非常に将来が楽しみな子ではあります」

　そんなセドリックの褒め言葉にサイリールもアソートも、自然と笑顔になる。

「旦那様、アソート様、セイに関してなのですが、少し宜しいですか？」

　セドリックの言葉に二人は頷く。

「今はまだ他の子と同じように教えておりますが、あの子がもう少し成長致しましたら、他の子よりもより深く色々と教えていきたいのです。その許可を頂けませんか？」
「それは何の為にだい？」
「実を申しますと、セイからの頼みでもあるのです」
「セイから？」
「はい、あの子は将来、ここで執事として働きたいと、そして旦那様方のお役に立ちたいと申しているのです」

　サイリールとアソートはその言葉に少し悩んでしまう事になった。
　執事となればずっとそばにいられるしそれは嬉しい。
　しかし、セイとは、家族という立ち位置ではいられなくなってしまう。
　セイの事だ、普段は家族として接しようと言ってもきっと一線を引いてしまうだろう。
　それは、とても寂しい事だ。
　それにセイの能力があればもっとそれを活かせる仕事があるだろう、そうサイリールはセドリックに告げた。

「はい、確かに普通の平民よりは選択の幅は大きいかと思われます。セイであれば、商人にもなれますし、運がよければ大商人、貴族、もしくは国に仕える事もありうるかと思います。しかし、セイはただの平民です。優秀すぎても敵を作りますので、能力を活かせるかは疑問でございます。活かすならば、ハンターギルド、商人連合ギルドの職員でございましょうか。セイは優秀ですからきっと職員になるのは難しくないかと思われます。ただ、セイのやりたい事を考えなければ、ですが」

　セドリックの言葉に、二人とも言葉に詰まってしまう。
　確かにセイのやりたい事をさせてあげたい。
　優秀だから、能力があるのだからとやりたくもない仕事をさせたくはない。

　しかしかといってここで執事をしてもいずれセイの方が年をとっていくのだ。
　セイが結婚をして子供が出来たら？
　年をとらないサイリール達をどう説明するのか。
　そもそもいずれサイリール達は周囲から不審がられる事になる。
　ずっとここに住めるわけではない。
　そんな二人にセドリックが声をかけた。

「旦那様、アソート様。みな優秀な子達です。なのであの子達のリーダーであるセイを育て、資金を投資し、セイを中心とした経営と人材育成をしたいと思っているのです。もちろんあの子達のしたい事を出来る限り叶える方向で」

　セドリックの言葉に二人はどういう事か？と首を捻った。
　それを見たセドリックは自分の考えを話し出した。
　それはとてつもない話しだった。

　時間はかかるだろう。
　だけどもし実現するのならば、サイリール達にとってもありがたいし、セイ達の就職先にもなる。

　その日は朝までずっと三人で話し込む事となった。