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第百七十八話 宝箱と魂の成長

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 スケルトンロードを倒し、部屋の一番奥にある宝箱の前に辿り着いた。

「じゃあ、開けるよ」
「うん!今度は何だろうねー」

 宝箱を開けると、中には白い短剣が入っていた。
 装飾は華美過ぎず、厭味にはならない程度のものが刻まれている。
 真っ白だと思っていたが、光りの具合では銀色にも見える。
 鞘から短剣を引き抜くと、その刀身はなんとも美しい色合いをしていた。
 光があたると虹色に輝く、なんとも不思議で美しい短剣だった。

「綺麗だねぇ」
「うん、本当に」
「今度はどんな効果があるんだろう、楽しみだなぁ」
「ははは、確かにね、それじゃあ見てみるよ」

 白い短剣を闇で包むとサイリールは目を閉じた。
 探るように闇がうねうねと動く。
 しばらくして闇の動きが止まり消えて行った。

「分かった?サイリール」
「うん、面白い効果があったよ」
「へぇ!ねぇねぇ、どんな効果?」
「えっとね、簡単に言うと、再生だね」
「再生?」
「そう、生きてる、生命がある物ならなんでも、この剣でそれを突き刺せば死に掛けでも、枯れかけでも、再生するんだ、元通りに」
「んー、例えばそれは老衰や寿命であっても?」
「うん。そうだな、使用者が10年戻すと考えれば、10年前の状態にまで再生する感じかな」
「へぇ!それはすごいなぁ」

 短剣の効果は言葉通り『再生』で、『巻き戻し』とはまた違う。
 普通は巻き戻せば記憶すら巻き戻るものだろうが、再生なので記憶はそのままで肉体が若返えるのだ。
 ただ、使い方によっては危険となる。
 仮に、生まれたばかりの赤子に短剣を突き刺し、1年前の状態にすると使用者が考えれば、赤子はこの世から消えうせるだろう。
 赤子は1年前は存在していなかったのだから。
 そういった点を注意すれば、実に便利な物となる。

 そして、もしも人間が手に入れていれば、それはもう至宝となったであろう。
 それほどの危険もなく、肉体が若返るのだ。
 特に権力者などはどんな手を使っても入手しようとするはずだ。
 そう、戦争だって簡単に起こす。それ程の物なのだ。
 これまでも似たような物などはあったのだろうが、人間にはサイリールのように鑑定できるような能力はない。
 武器であれば攻撃に使う物としか考えないゆえに、判明していないと考えられる。

「どちらにしろ、僕たちにはそれ程必要はないけども、何があるか分からないからね、これは大切にしまっておこうか」
「そうだね、それに人間に渡してしまうと大変な事になっちゃいそうだし」

 苦笑しつつアソートがそう言った。
 その言葉の意味に気づいたサイリールも苦笑を浮かべた。

「まぁ……そうだね、人間には、というか、僕たち以外には渡せないね」

 そうしてサイリールは闇の回線を使ってセドリック達に短剣について伝えた後、闇の中に短剣をしまった。

「それじゃあ、次は最後かもしれない5階層だね!」
「うん、今闇を流してるからそのうち分かるとは思うよ、まずはお昼ご飯にしようか」
「ああ、もうそんな時間?結構戦闘が長引いたんだね」
「そうだね、スケルトンロードは本当に厄介だったよ」

 そう言いながらサイリールは闇から次々と丸机や椅子を出し、机の上にはサンドイッチなど簡単に食べれる物を出して行った。
 席についた二人はサンドイッチを食べつつ会話をしていた。

「アソート、少し聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

 食事を終えて紅茶を飲んでいたサイリールがアソートに声をかけた。

「なにー?」
「前に、アソートは子供達が大人になっていくのが寂しいって言ってたよね」
「ああ……うん、そうだね、ボクだけずっと子供なのに、皆身長が伸びてどんどん大人になっていく、それは少し寂しいね」
「それって大人の姿になりたいって事かい?」
「う……ん、そう……なるのかな……今の姿も好きなんだよ?でも、サーシャも、小さかったファニーも、今じゃボクの身長に追いつくか、抜いていく、いつか、サーシャ達は大人になるよね、そうしたらボクは横に並んだら、お兄ちゃんじゃないんだ、きっと誰がみても弟なんだ、なんだか、置いていかれてるようで、寂しいよね」

 そう言ってアソートは少し寂しそうな笑顔を浮かべた。
 それを見たサイリールは以前サーシャと話した通り、アソートに提案をしてみる事にした。

「……もしアソートさえよければ魂をちょっと調べさせてくれないかい?」

 サイリールの言葉に、アソートは首を傾けた。

「調べてみないと分からないんだけど、アソートの魂をいれてる器が最初の肉体よりも大きいから、もしかしたらアソートの魂が成長しているかもしれないんだ、だから成長していれば、アソートの肉体を大人に作り変える事が出来ると思う」

 サイリールの言葉を聞いたアソートは目を大きく開いた。

「本当に?大人になれるかもしれないの?」
「うん、魂の成長具合によるけれど」
「大人に……うん、そうか……うん。サイリール、ボクの魂を見て欲しい」

 アソートの目を見たサイリールは柔らかく微笑むと頷いた。


 アソートの全身を闇が包んでいる。
 しばらくして闇はアソートから離れた。

「もういいよ、アソート」
「終わったの?特に何も感じなかったけど」
「魂の大きさを見ただけだからね」
「……それで、どうだった?ボクは大人になれそう?」

 アソートが少し上目遣いで不安そうに聞いてきた。
 エルが見れば大変喜んだであろう構図ではあったが、サイリールにはそういう趣味はないので普通に微笑んで返事をした。

「安心して、アソート、君の魂は順調に成長しているよ」
「本当!?」
「うん、ただ、すぐってわけには行かないかな、最低でも後5年は今の器での成長が必要だと思う」
「そっか……それでも、嬉しいよ、ボクは」
「大人のアソートか。楽しみだね」

 クスリと笑ってそう告げると、アソートも笑って応えた。

「本当だね。想像できないなぁ、大人のボクかー」

 そうして二人は楽しく会話しつつも5階層へ向かって移動を始めた。
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