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第二百四十七話 新しい体

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 そうして結婚式も終わり、それぞれが家へと帰って行った。
 夜も遅くなっているので子供達もそれぞれが部屋へと戻った。
 サーシャは少し気持ちが高ぶっているようで、アソートを誘い庭に出たようだ。

 そして、ライナーとジルヴィアは着替えを済ませ、今はサイリールと地下の一室にいる。
 そう、これからジルヴィアの肉体を用意して魂を移すのだ。
 話し合った結果、ジルヴィアは今の肉体を完全に捨て、新しい器に入る事にしたようだ。
 というのも、数%でも何かが混じっていると、闇を完全には扱えないという事が判明したからだ。

 サイリールはすでに闇をそれぞれ隔離して使い分けが出来るようになっており、サイリールしか使えない場所、使用人達だけの場所を分けて利用している。
 今後はジルヴィアとライナー用の場所も作るつもりだ。
 この闇内部に関しては、サイリールが作った体であっても自由に変更は出来ないし、好き勝手に使えもしない。
 またサイリールが拒否した場合、闇自体の存在を感じれなくなり、利用すら出来なくなる。
 もちろん肉体を構成する闇は扱えるが、サイリールが持つ膨大な闇は一切扱えなくなり、回線すらも利用が出来なくなるし、肉体への闇の補充も出来なくなる。

 そうしてサイリールは部屋にある台の上に闇を落とし、ジルヴィアの複製を作り出した。
 吸血鬼の吸血の能力以外はどれも上位版がサイリールの作った体では利用が可能なので問題はないだろう。
 細部まで完全に同じに作り上げているので違和感はまずないはずだ。
 とはいえ、女性の体なので詳しくは言わないが。

「うん、これで問題ないと思う」

 台の上にはジルヴィアとまったく同じ女性が横たわっている。
 もちろん体を作り上げる際に服も同時に作ってはいる。
 とはいえ、少しだけ胸元ははだけさせているが。

「すごい、本当に私がいるわ」
「すげーな。ジルと何一つかわんねぇな」
「さっき闇で包んだのはジルヴィアのすべてを闇に覚えさせる為だからね。魂を移してもきっと違和感はないと思うよ」
「それは、その、ぜん、ぶ?」

 頬を赤らめてジルヴィアはサイリールに尋ねた。
 しかし、それを答えるのは少々宜しくないのでサイリールは苦笑して答えた。

「ジルヴィア、すまないが詳しくは聞かないで欲しいかな」
「そっそうよね……ごめんなさい」

 そしてライナーを見たサイリールは再び苦笑する事になる。

「ライナー、妬かないでくれ。僕自身ではなく闇に覚えさせただけだから僕は分からないよ」
「そう、か……でもよ、なんとなく妬いちまうんだよ」
「まぁ、気持ちは分からなくはないけどね」
「ライナー、ごめんなさい。私が余計な事を言ったわ」
「いや、俺だって分かっちゃいるんだけどな。すまねぇ」
「それじゃあ魂を移す段階に移行していいかい?」

 その言葉にジルヴィアはコクリと喉を鳴らして答えた。

「ええ、お願いするわ。そちらの台に寝ればいいのね」
「うん。本当に今の肉体は処理してしまっていいんだね?」
「いいわ。この肉体とは今日限りにするわ」
「分かったよ。ライナーいいんだね?」
「ああ、ちっと寂しいけどな。新しい体でも、中身がジルなら俺はそれでいい。いずれ俺も作り替えるからな」
「分かった。それじゃあ始めるよ」

 そうしてサイリールは今のジルヴィアを闇で包んだ。
 数分程してジルヴィアの胸元からぽこんと闇が出てきた。
 ジルヴィアの魂を包んだ闇だ。
 サイリールはすぐに新しい肉体の胸元へと魂を近づける。
 魂は若干戸惑ったような様子を見せたが、暫くすると新しい体へと潜り込んで行った。
 数分もすると魂は定着したようで、新しい体のジルヴィアの頬に朱がさした。

 定着した後も10分程様子を見た後、再度魂と肉体の状態を確認して問題がない事を確かめた。

「うん、無事に魂は定着したよ」

 サイリールの言葉にライナーはほっと息を吐いた。

「そうか、良かった。サイリール、ありがとう」
「いいんだ。ただ、定着はしたけれど、馴染みきるまでは少しかかると思う。馴染みきれば目が覚めるよ。アソートも数時間はかかったからそのくらいかかると思う。二人きりにしてあげたいけれど、目が覚めるまでは僕も側にいる事になるが、構わないかい?」
「ああ、もちろんだ。その方が俺も安心できる」
「うん、こっちの肉体に関しては後できちんとしておくからこのまま君達の部屋へ行こうか」
「おう、分かった」

 そうしてライナーは新しい肉体になったジルヴィアを抱き上げ、部屋を出た。
 サイリールは目の前で闇に取り込むのはきっと彼の気持ちによくないだろうと思ったので、一緒に部屋を出る際に闇を部屋内部に送り扉を閉じた。

 地下から出て、ライナー達が利用している部屋へ入る。
 ベッドへそっとジルヴィアを寝かせ、ライナーはそのままベッドに腰かけ彼女の頬を撫でた。
 サイリールは少し離れた場所に椅子を出し腰かけた。
 暫くはそんな無言の時間が続いた。
 サイリールも意識自体はジルヴィアに向けたままだが、本を開き読み始めた。
 ライナーはそんなサイリールの気遣いに感謝しつつもジルヴィアの側で彼女が目覚めるのを待った。
 ジルヴィアの魂を移してから5時間程が経った。
 魂はやっと馴染みきったようで、ジルヴィアが目覚めた。

「ん……」

 目が覚めたジルヴィアの頬をライナーが優しく撫でた。

「ジル……」

 その手にジルヴィアも手を重ねた。

「ライナー……愛してるわ……」
「俺も愛してるよ」

 ライナーは軽くジルヴィアに口づけをし、サイリールに声をかけた。

「サイリール、もう大丈夫なのか?」
「うん、でも少しだけ見せてね」
「ええ、お願いするわ」

 サイリールはジルヴィアを闇で包むと魂と肉体を調べた。

「うん、問題ないね。それじゃあ僕は部屋に戻るよ。落ち着いたら声をかけて。知識を渡すから」
「おう、サイリールありがとな」
「ありがとう、サイリール。少ししたら行くわ」
「うん、それじゃあ」

 そうしてサイリールは二人の部屋を出た。
 サイリールが部屋を出たのを見送った二人は再度唇を重ね合わせぎゅっと抱きしめ合った。
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