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第二百六十七話 指名依頼について

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 今日は久々にハンターギルドから指名依頼が来たと連絡があった。
 ここ暫くはずっとリューベックで書類仕事をしていたので、たまにはいいだろう。
 セドリックに伝え、暫く書類仕事を任せる事になった。

「すまないな、セドリック」
「いえ、たまには休息も必要でございます。最近旦那様はお休みしておられませんでしたから」
「はは。そうだね。ありがとう、セドリック。暫く頼むよ」
「はい、お任せ下さい」

 ギルドからの指名依頼を休息と捉えていいのかは悩む所だが、頭を使わなくていいという点では確かに休息と言えるかもしれない。
 久しぶりではあるが、とりあえずハンターギルドへ出向く事にした。

 ギルドへ入るとすぐにラウラがやってきた。

「サイリール様、お久しぶりです。依頼の件ですよね?」

 ラウラの言葉に頷くとラウラはギルド2階の小会議室へと案内した。
 部屋へ入ると席につき、説明が始まった。

「それではご説明致しますね。今回の指名依頼ですが、王都に住む有名な学者である、アンスガー様からの依頼です。オルペから馬車で3日程の場所にある小さな山の調査に依頼主が行くのでその護衛となります。本人の護衛はBランクパーティがしますので、闇獣の排除がサイリール様に望まれる仕事となります。」

 ラウラの説明にサイリールは若干首を傾げた。
 というのも、そのような指名依頼をされた事がないからだ。
 Aランクに依頼するような内容ではないし、そもそもAランクへの指名依頼はとても高いのだ。
 サイリールはそれをラウラに尋ねてみた所、ラウラは少し申し訳なさそうな顔をして答えた。

「ええ、本来でしたらAランクであるサイリール様に依頼するような内容ではございません」

 そう言ってラウラは一旦言葉を切り、暫くしてから再び話し始めた。

「実の所、アンスガー様は現国王の叔父上に当たるお方でラングハイム公爵様でございます。家督自体は早いうちにご子息にお譲りになっておられますが、昔から研究がお好きだったようで、今は道楽で学者をなさっているそうです。ですが裕福ではあらせられます。今回行かれる山には大型の闇獣はまずおりませんし、中型もあまりおりませんのでBランクパーティが二つあれば十分だとお伝えはしたのですが……」
「ふむ。クレマンやディオンでもなく、僕なんだね?」
「はい、サイリール様をご指名なさいました。多分ですが、以前のあの強いダンジョンを討伐なさったからかもしれません。装備品についての情報は一切漏らしておりませんが、ダンジョンの情報はどうしても残りますので……」
「うん、まぁそれは仕方ないね。という事は僕の装備品を探りたいのかな?」
「それはないとは思うのです。多分ですが、単純に強い方だからだと思います。アンスガー様はそれなりに危険な所への調査へ赴く事が多いそうで、その調査地の一番近くにいる一番強い方に指名依頼をなさるそうですので……」

 サイリールは少し考えた結果、特に問題はないだろうと結論を出した。

「そう。うん、まぁいいか。受けるよ」
「ありがとうございます」
「ただ、一つ確認だけどもいいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「彼がしつこく僕に装備品について聞いてきた場合、僕はその場で依頼破棄をするけど、構わないよね?」

 ラウラは一瞬押し黙り、何か考えていたがすぐに返事をした。

「はい、構いません。その場合は依頼破棄によるペナルティーは発生致しません。アンスガー様にもそのようにお伝えしておきます」
「そうか、ありがとう」

 そうして指名依頼の内容について詳しく聞く事になった。
 合流日は今から3日後、ここ、オルペの街のギルドで朝の10時に待ち合わせとなるが、一応護衛同士として9時に集合し、Bランクパーティと顔合わせをしておく。
 アンスガー公爵自身の護衛はBランクパーティが、闇獣が出たり危険な生物に対してはサイリールが攻撃排除をするというのが今回の役割だ。
 待ち合わせの後、馬車と馬に乗ってオルペから3日程離れた場所にある小さな山へ向かう。
 特に正式に名前のある山ではないが、地元の人にはゼルトザーム山と呼ばれているそうだ。
 意味としては奇妙な山、という事らしい。
 というのも、その山以外はそこは平地で、その山だけが不自然にぽこりと立っているのだ。
 周りが平地なので強い闇獣もあまりいないのだが、地元の人は昔からあまりその山には近づかないらしい。
 特に何かおかしな事があったわけでもないそうだが、なんとなく誰も近づかないのだそうだ。
 そんな山の話しを聞いたアンスガー公爵が興味を持ったそうで、その調査をするというのが今回の依頼内容という事らしい。

 ちなみに、アンスガー公爵は道楽とは言っているが、かなりの功績を残していたりする。
 有名な話しとしては、以前調査に赴いた地で、薬草に似ているが少し形の違う草を発見した。
 それを採取し、3年かけて詳しく調査分析した所、その草には特別な効能があり、その成分を抽出して摂取すれば、これまで治療法がないとされていた、手足から木のような硬さの鱗が生え、それが手足中に広がり最終的には全身に広がって死に至る病、これの治癒、または症状の緩和が出来る事が確認されたのだ。
 初期に治療すれば完治し、全身に広がっていた場合は完治は難しい物の、手足などに鱗が残り歩きにくかったり手を動かしにくかったりはあるが、死に至る事はなくなった。
 これについては本当にすごい発見だったので国王から勲章を授けられている。
 公爵自身はあまり勲章に興味はないようではあったそうだが。

 話しを聞き終えたサイリールはラウラと別れ屋敷へと戻った。
 今回はその日からすぐというわけでもなかったので、セドリックに待ち合わせの日までは仕事をするよと伝えたのだが、せっかくだからお休み下さいと説得され、待ち合わせの日までゆっくりと過ごす事にした。
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