独々々々占欲

ルノ

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吸血鬼

久遠ひさめの独占欲6

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目を覚ましたとき、私は病室のベッドの上にいた。
光がまぶしくて、頭がぼうっとしていて。
ただ、最初に見えたのは泣き崩れながら私を抱きしめている母の姿だった。

その温もりで、少しだけ現実を思い出した。
両親は安堵と涙の混じった顔で、色々と教えてくれた。
倒れた私は、病院に運ばれて数日間眠っていたこと。
あの事故に遭った女性は、無事に病院に搬送され、奇跡的に助かったこと。

そして。

「優奈ちゃん、毎日お見舞いに来てくれてたのよ」

嬉しくて、少し泣きそうになった。
だけど。

「昨日、引っ越しちゃったの。急にだったみたい」

それを聞いた瞬間、何かが胸の奥で崩れ落ちた。

やっと、ヒーローになれたと思ったのに。
やっと、彼女の隣に立てたと思ったのに。
どうして。
どうして、そんな終わり方をするの。

私は、ヒーローになんてならなければよかった。
そしたら、優奈は。
あのままずっと、私の隣にいてくれたかもしれないのに。

病室の窓が開いていた。
冷たい風が吹き込んで、私の火照った身体を撫でていった。
その風は、あのとき優奈の隣で燃えていた“熱”を、確かに冷まし始めていた。


不思議なことがあった。
倒れて以来、私の血の病気は少しずつ改善していったのだ。

短距離だけでなく、長距離も走れるようになった。
身体が軽くなっていく。
それでも私の胸の中には、空いたままの穴が残っていた。


だから、私は走り続けた。
走っていれば、いつか彼女に見つけてもらえるかもしれないから。
陸上の大会にも出た。
全国で優勝したとき、私はスタンドを何度も見上げた。
でも、そこに彼女の姿はなかった。



そして。
高校で、私は再び優奈に出会った。

毎日が楽しくなった。
陸上部で練習していると、時々、優奈が見に来てくれるから。

今日も来てくれるだろうか。
そんな期待を胸に、私は廊下を歩いていた。

ふと、優奈の姿が見えた。
そして、声をかける前に気づく。
彼女の隣には、小柄で表情の薄い女子生徒が歩いている。

不思議に思う。
どうして。
どうして、隣を歩いてるんだろう。
あそこは私の位置のはずなのに。
どうして。




立ち止まるひさめの傍を、数人の女子生徒たちがすれ違う。
少し離れた場所で、彼女たちは噂話を始めた。

「久遠さんじゃん、ここの学校に入ってたんだ」

「久遠って、久遠ひさめ?全国優勝の?」

「この学校の陸上部でも、めっちゃ期待されてるって聞いたよ」

「でも、あの子ってさ……なんか変な噂なかったっけ?」

一人が囁く。

「そうそう、全国大会の控室で、自殺未遂したって」



     大会のプレッシャー

                    誰よりも速かったのに

               吸血鬼



  観客席を見て何時も誰かを

                    持病があったらしい

               探してた



        控室の床が血まみれで

                        吸血鬼



    カッターナイフで

                首を

 

一人の少女が眉をひそめる。

「いや、吸血鬼って何?それ、誰が言い出したの?」

別の子が戸惑いながら答えた。

「うーん、そういう噂もあるってだけだけどさ」

「だって、変だったんだよ」

「久遠さんが倒れてるのを見つけたの、引率の先生と数人の生徒たちだったんだけど……」

「救護室の先生呼んで戻ったときには、床の血が全部消えてたんだって」

「それで、彼女は何事もなかったみたいに普通に大会で優勝したって話」

そして、誰かが、笑うように言った。

「でね、会場の裏で目撃されたらしいのよ」

「赤いマントを羽織って、宙を飛ぶ」

「吸血鬼の姿を」
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