『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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夏に散った桜

やっぱり私は君が好き〜私は向き合う。眠れる真実に〜

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佳奈美さんが寝室から出て台所にやってきた。峻兄さんが佳奈美さんを抱きしめる。
「蓮くん…」
死人のように生気のない声。
「蓮くんのこと、嫌いなんかじゃない。ごめん…拒んでごめん…ずっと、私の近くにいて?」
「…佳奈美」
蓮は立ち上がると、佳奈美さんをしっかりと抱き締めた。
「俺は死ぬまで傍にいたいよ」
…蓮、今、プロポーズしなかったか?神様、頼む。これ以上、二人を引き裂こうとしないでくれよな。


✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮✮


昨日、りこちゃんと圭吾くんが桜大兄ちゃんに連れられて、風に吹かれた煙のように跡形もなく姿を消してしまった。

その日、蓮くんにりこちゃんは本当は亡くなっているかもしれない、自分達が生きていると思い込んでいるだけかもしれないという話を聞かされて、私は必死に信じないように意識していた。少しでも、私一人だけでもりこちゃんの命を疑ってしまったら、りこちゃんが本当に逝ってしまうって思ったから。

なのに、蓮くんの話に納得している自分もいた。

小学校の低学年の娘が家にずっといないことに気付かない親がいるわけない。だから、りこちゃんが亡くなっているなら、りこちゃんのご両親にとっては、いない存在なんだから、警察に娘の行方不明届を提出したりするようなこともあるはずがないって。

だから、りこちゃんの身体が透明になってきたとき、私は自分のせいだと自分を責めた。

私がりこちゃんの存在を疑ってしまったからって。

私がりこちゃんを、死後の世界に送り出してしまったんだって。


なのに、私は蓮くんを罵った。


私に「すき」の気持ちをという教えてくれた蓮くんを。

私が失禁してしまっても、ためらうことなく汚れた畳を拭いてくれた蓮くんを。

りこちゃんが消えてしまうかもしれないことに泣きじゃくる私を、ひたすら抱き締めていてくれた蓮くんを。

私が罵ってもなお、こうやって優しく抱き締めてくれている蓮くんを。

「…ごめん…なさい…」

私は桜大兄ちゃんを罵ってしまった。

圭吾くんにも満たない年齢で、生きたかった未来を奪われた桜大兄ちゃんを。

私は、ただ自分の気持ちが一番大事になってしまって、蓮くんの気持ちも桜大兄ちゃんの気持ちも踏みにじってしまった。

「ごめん…なさい」

蓮くんのTシャツの襟が私の涙で濡れて、大きなシミがついている。峻兄ちゃんは私の頭を撫でてくれている。

「佳奈美、ごめんな。俺だって佳奈美が突然消えてしまったら、狂ってしまう。佳奈美にとって、りこと圭吾は家族だったのにな。ごめんな」
峻兄ちゃんの大きくて温かい手。優しくて、面白くて、時にバカで、私が宇宙の何百倍も何千倍も大好きな蓮くんは、私を受け入れてくれるんだ。

「佳奈美さん、大丈夫?」
蓮くんの肩越しに、バットたちが台所のテーブルで私を心配そうに見つめているのが見える。

「もう一回ぐらい、大泣きする?」
圭吾くんが隣にいないエメラルドの瞳から、寂しいというエメラルド自身の本心が垣間見えた。

子供たちの笑い声が聞こえない。

寂しい。会いたい。

だけど、私は知らなくちゃいけない。

圭吾くんと、りこちゃんと、桜大兄ちゃんのことを全部。

私は涙を拭って、蓮くんの手を引いて、バットたちのいる台所のテーブルに座った。蓮くんが私の右隣に座って、手を握ってくれている。峻兄ちゃんが私の左隣に座って、背中に手を添えてくれている。テーブルの真向かいには、サファイヤが座っている。私が狂ってしまっている間に、たった一人で王国から記憶を読み取ってきてくれた。
「佳奈美さん、王国の記憶の続きは、さっき皆にはもうした。だけど、もう一度伝えるね。蓮たちももう一度よく聞いてて。伝えそびれたこともあるし。俺たち、てっきり王国の問題は解決したように勘違いしちゃってるから」

サファイヤはそう言って、リビングから蓮くんのノートを持ってくると、新しいページを開いてインクが残り少なくなったボールペンで書きつけた。

『日下部透と宮司龍臣は結局誰?』

『圭吾は何故王国での死後に、灰色の世界にいたのか』

『灰色の世界って、そもそも何?』

『圭悟はどうして流産後、圭吾になったか』

サファイヤは四行を書き終えると、それをくるりと私に向けた。
「佳奈美さん、圭吾たちは戻ってくるって桜大が約束してくれた。試しに、峻兄さんのスマホに残っている桜大の顔写真の瞳を観察してみたけど、桜大は絶対に嘘をつかない人。だから、佳奈美さん、安心して」

峻兄ちゃんは、少し震えている手を優しく握ってくれている。
「佳奈美、お前は定期的に感情を外に出した方が良い。恥ずかしがらずに泣けばいい」

峻兄ちゃんの手があったかい。峻兄ちゃんの温もりが、身体全身に流れていく。
「うん、みんな、ありがとう。これからもどうか、よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
私たち全員はしばらく、頭を下げていた。時計の針がチクタクと時を刻んでいく。
「…なんの時間やねん」
「ふふっ」
私の隣の蓮くんが、私に優しく微笑んでくれている。
「良かった。やっと佳奈美の笑顔が見れた」

時計の針は、もう五時を指している。
「…中途半端な時間だから、今日くらいはグダグダとお菓子でも食べながら過ごすか」
峻兄ちゃんは台所の隅に置かれた段ボールからポテトチップスの巨大な袋を取り出すと、私たちの前に置いた。
「お前ら、食え。今までは、りこと圭吾にお手本を示さないといけなかったから俺も栄養には気を付けていたけど、りこと圭吾は桜大と一緒にお出かけ中だ。そいつらが戻ってくるまでの間くらい、好きなものばかり食っていこう。人生、完璧すぎない方が味があって良いもんだ」
峻兄ちゃんは袋を開けると、ポテトチップスを何枚か掴んで口の中に雑に放り込んだ。


ポテトチップスの袋は、峻兄ちゃんの頭が二つ分丸ごと入ってしまいそうなくらいに巨大だったから、なかなか食べ終わらないかと思いきや、合計6人もいると、あっという間に袋の中からはポテトチップスのかけらのようなものしか出なくなった。サファイヤは冷蔵庫からジュースを何種類か出してきて、バットたちと宴会のようなことをしている。
「サファイヤ」
フルーツミックスジュースをバットのコップに注いでいるサファイヤが私を向いた。
「教えてくれる?王国で読み取ってきてくれた記憶を」
サファイヤは注ぎ終えると、しっかりとペットボトルのキャップを閉めて他のジュースも全部冷蔵庫にしまった。そして、テーブルに蓮くんのノートを広げて置いた。

「必要だったら、好きにメモとって。じゃあ、佳奈美さん以外は繰り返しになるけど、もう一回聞いてて」

そう言って、サファイヤは王国での記憶を語りだした。
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