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愛の罪
死の真実を暴け!
しおりを挟む『生まれた…』
産声。少し大人びた彗星の、疲れたような、でも嬉しそうな声。
『一裕さん、私たちの子供よ』
『ありが…とう』
すぐ近くから一裕の嗚咽も聞こえる。
段々と記憶が見えてきた。
獣神国とは正反対に、真っ白な木が沢山生えて、真っ白な空に包まれた森の中に俺たちはいた。
ここは、澄白国か?
土も、空も、木も、花も、何もかもが純白だ。
人間姿の彗星が大きな木に持たれるようにして、一人の人間の赤ちゃんを胸に抱えていて、一裕が二人に寄り添っている。赤ちゃんは元気に産声を上げている。彗星が一裕に赤ちゃんを手渡すと、赤ちゃんはもっと大きな声で泣き出した。一裕が一生懸命にあやしている。
『ほらほら、怖くない。パパだよ?』
一裕のあやし方が下手なのか、赤ちゃんは全く泣きやまない。見かねた彗星が歌を歌って赤ちゃんをあやすと、赤ちゃんは小さな寝息を立てて一裕の腕の中で眠り始めた。
『一裕さん…名前…は?』
彗星が急に意識を失ったように横に倒れた。
『彗星?!』
一裕が赤ちゃんをしっかりと胸に抱いて落とさないように気を付けながら、彗星を揺すり始めた。
『彗星?!大丈夫?彗星、しっかりして!』
彗星の真っ黒な瞳が少し濁っている。そういえば、人間は宇宙人に比べると貧弱で死にやすいって、前に彗星が言っていたな。人間の身体になって出産したから無理が祟ったのだろうか。
『私…お母さんになれて…良かった』
彗星が最後の力を振り絞って、赤ちゃんの頭を撫でた。
『一裕さん…あなたには永遠に生きていて欲しい』
『そんな…』
一裕は彗星の最期を悟ったのか、彗星の手を強く握っている。彗星は最後に諦めたような笑みを浮かべると、首がガクンと後ろに倒れた。ピンク色だった肌がサーッと白くなっていく。
『なんで?なんで?一緒にパパとママになろうよ。逝かないでよ』
彗星はまだ死んでいないようだ。ぼやけた視界。一裕が必死になって彗星を揺すって目を覚まさせようとしている。
『ごめんね…私の赤ちゃん』
「死んだ…?」
彗星の弱弱しい声を最後に記憶の映像は途切れた。
「翠ちゃん…死んじゃった?」
一裕がカタカタと震えている。
「大丈夫。地球にいる彗星はちゃんと生きてる。ね?」
サファイヤが一裕の背中をさすった。
「結局…あの赤ちゃんが楓なのは確かだけど、その後に何があったかまでは分からないな。楓はあの後、どうなったのか。一裕はどういった経緯で獣神国にやってきたのか」
エメラルドがサファイヤの胸に抱かれている燈火の姫を見つめながら言った。
「澄白国に私の友人がいる」
アドルフたちにまで記憶の映像が見えていたのかは分からない。だが、澄白国に行かないといけないという俺たちの気持ちを読み取ったのだろうか。アドルフが俺たちに、澄白国に行ってはどうかと提案してくれた。
「大丈夫だ。私の友人になるような者だ。地球を嫌ってはいない。どうだ」
『行かせてください』
ランドルフが、孤独の窟のあたりを申し訳なさそうに背中を丸めて見ている。
「もっと早くに気付いてやれば…」
「フロストの元を尋ねると良い」
フロスト?
アドルフの友人の名前か?
「フロストさんですね、畏まりました」
エメラルドと俺と、サファイヤ、一裕の4人を緑色の光が包み込んだ。
「私は仕事があるため獣神国に残るが、何かあれば直ちに連絡を寄こせ。協力を惜しむつもりは毛頭ない」
「ありがたく存じます」
俺たちの身体がフワッと軽くなった。
「エメラルド、フロストって誰?」
「兄上に地球を教えてくれた人だ」
「来たか」
緑色の光が消えると、俺たちの前に真っ白な肌を持って目だけが異様に大きくて黒い宇宙人が立っていた。
「俺はフロストだ。アドルフから話は聞いたよ。遠いところからご苦労様」
俺は周りを見渡した。真っ白な床に真っ白な天井に真っ白な壁。真っ白な机に真っ白な棚。
この国には、本当に白と黒以外の色が存在しないのか?
「地球は鮮やかな星だからね」
フロストはフフッと笑うと、俺たちにソファに腰かけるようにと促した。ソファも真っ白。コーヒーを溢したら大変なことになる。腰を下ろすと、ソファがふわりと俺の身体を包んだ。
「アドルフが驚いていたよ。変貌自在に姿を操れる友人を地球に弟が二人も持っているとな」
それはきっと俺とサファイヤのことだ。バットもいるんだけどな。まあいいや。
「…何故君は生きている」
「俺ですか?」
フロストがソファに腰を下ろして、あり得ないと言った表情で一裕の顔を覗き込んでいる。
「君は処刑されたと筈だが…」
一裕が…処刑……?
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