『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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真実との対峙

覚悟しろ

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俺はリオネルとエメラルドに挟まれて、彼らが何かしら打ち合わせのようなことを話し合っているのを黙って聞いていた。彼らは俺が理解できないように、俺が知る限り地球の言葉でない言語で話していたが、やはり俺のドラゴンとしての異能が働いた為か、彼らが話している内容が分かってしまった。

「だったら、今の俺から記憶を奪って下さいよ」

彼らは、地球とは別の星にある獣神国に暮らしている宇宙人で、適宜相手の記憶を奪ったり改竄したり出来る能力を持っていたのだ。

俺の言葉に、リオネルは心底驚いたような表情を、エメラルドは諦めたような表情で俺の方を見た。

「ええ。図らずも貴方に知られてしまったように、我々には記憶改竄・奪取能力があります」

俺は、彼らに前世の記憶を奪ってもらえれば、この変な異能が現れることもなく万事解決出来て、平穏に暮らせると思っていた。

だが、それは違った。

彼らとて、地球人よりも知能が高いとは言え、決して万能ではなかった。

「我々の記憶改竄・奪取能力が及ぶ範囲は、あくまで顕在意識です。無意識下の記憶に対しては何の効力も持ちません」

リオネルはそう言って、俺がさっきから気になっていた例の黒い錠剤入りの瓶を、エメラルドにも見えるように俺に見せた。漆で塗ったように真っ黒な、直径5ミリほどの小さな錠剤が3粒、透明な瓶の底を転がっている。


「こちらは獣神国に生息する昆虫である、黒憶虫から抽出したエキスを改良して固めたものです」


そう言ってリオネルは、その虫について俺に説明をしてくれた。その虫は生命体の心臓に寄生する寄生虫で、最も辛い記憶と最も幸せな記憶を餌に蔓延り、黒い煙のような胞子を体外に放出させることで寄生範囲を広げるという、本来は獣神国でも恐れられて厳重に管理されてきたという。

「エキスを黒憶虫から抽出した上で、患者様から幸せな記憶まで奪わないように、そして心臓に寄生してしまわないように試行錯誤して改良しましたから、安心して摂取して頂けます」

リオネルはそう言って、黒い錠剤を瓶の底をコロコロと転がせた。そして、薬の安全性を示した、被験者が何と百万人にも及ぶ実験結果をまとめたプリントを俺に見せた。副作用が全くなく、前世で自分が持っていた異能が発現しなくなったという被験者からの意見が、プリントの上から下までズラリと並んでいる。だが、初対面の存在から貰った薬を安安と飲むほど俺は無謀じゃない。

「摂取の強制は致しません」

リオネルはそう言って瓶を持った手を背中の後ろに回し、俺からは見えないようにした。

「ですが、今から貴方が取り戻す前世の記憶は、かなり残酷なものになる可能性が高い、とサファイヤから連絡を受けました」

そうやって俺に淡々と話すリオネルの手から、エメラルドが瓶を取って、底を転がる小さな錠剤を観察するようにまじまじと見つめた。

「記憶を取り戻した後、貴方は罪悪感と嫌悪感から逃れるために、衝動的に薬を飲む事を選択するでしょう。しかしそれは、インフォームドコンセントの概念に反すると私は考えております。まだ記憶を見る前の貴方に薬の説明をしておきたかったのです」

コン……

エメラルドが瓶を、座席の肘掛けの平らな部分に静かに置いた。

「飲むも飲まないも、ソクヒョンさん、貴方の自由です」

俺が、前世の残酷な記憶を忘れることが出来るなら、どれだけ心が晴れるだろうか。

だが、もしも俺が前世でドラゴンの禁忌を犯したことが、残酷な記憶に当てはまるとしたら、俺は罪を償う事もせずに逃げることになる。なんと無責任で身勝手なことか。

だからといって、人間の俺が人間世界で、どうやってドラゴンが犯した罪を償えるというのか。

いずれにせよ、俺は知らなければならない。

過去の自分の所業を。


「正気を失わないようには用心します。見せて下さい。俺の前世を」

俺はエメラルドの隣の座席にゆっくりと腰を下ろした。上質な生地で出来た、赤茶色の柔らかいクッションが、俺の体重に抗うように俺の尻を支える。目の前には、真っ白の眩い光を放つスクリーンが、静かに立ちはだかる。エメラルドとリオネルの黒いシルエットが明確な輪郭線を持っていて、白い背景を穴抜きしたようだ。エメラルド色の瞳と、若草色の瞳が、確かに俺の姿を捉えていた。

「…それでは、貴方の前世の再現映像をお見せします」

リオネルはゆっくりと後ろを振り向き、もといたスクリーンの裏側へと歩いていった。

コツ…コツ…

リオネルの硬い足音が、無機質な空間に響く。

リオネルがスクリーンの裏側へと姿を隠して暫くすると、常夜灯くらいの明るさだった照明がフッと消えて、俺たちは闇に包まれた。

「隣、失礼しますね」

姿は殆ど捉えることが出来なかったが、彼が俺の隣の座席に静かに腰を下ろした感触が伝わってきた。

「万が一の為にお隣に控えさせてもらいますが」

何も見えない暗闇を、真っ白なスクリーンとエメラルドの瞳だけが明るく照らしている。

「映画を観るくらいの気分でいてください」

エメラルドが静かな声でそう囁いた時、スクリーンの白い光が段々と弱くなり始めた。いよいよ、俺たちは暗闇に飲まれていく。


俺の知らない俺が姿を現す。


分かりきっていた筈の事に今更微かな恐怖心を抱いた俺が唯一心の拠り所に出来たのは、皮肉にも、俺の記憶を奪う能力を持ったエメラルドだった。

みんな…。

KORJAのメンバーの皆の顔が浮かぶ。

ごめん。俺、ひょっとしたら、呑気に生きていて良い人間じゃなかったのかもしれない。

俺は自分の拳を固く握りしめた。

長く伸ばした爪が、俺の生命線にギリギリと刺さった。
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