『狭間に生きる僕ら 第二部  〜贖罪転生物語〜 大人気KPOPアイドルの前世は〇〇でした』

ラムネ

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幸か不幸か

our dad

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「おい…おい…ウルフ」

俺の肩がバットに強く揺すぶられ、眠っていた俺の意識が重たい身体をゆっくりと持ち上げた。

「ガチ寝してたわ」

俺がそう言って目を擦り、辺りを見回せば、そこには広大で色とりどりの花が咲き乱れる花畑が広がっていた。

「ここが、ソクヒョンの夢の中…?」

ソクヒョンが語る悪夢の世界は、殺風景な砂漠のような荒れ果てたもののはずだった。これではまるで、悪夢というよりもずっと天国のようではないか。

バットは遠い眼差しを何処かに向けながら、俺に背中を向けるようにして立っている。

「ウルフ。ここ、あれだ」
「なんだ」
「龍の墓地」

『龍の墓地』

バットのその静かで、覚悟を決めたような声に、俺の心臓が胸の奥でゴクリと唾を飲み込んだ感じがした。

人間の墓地みたいに墓石が並んでいるわけではなく、代わりに、生前の龍の鱗が1枚、円の形になるように植えられた花々の中心にそっと置かれている。その鱗の真下に、竜が眠っているのだ。バットが立っている所の真隣に、黄色い小さな花たちに守られるようにして囲まれて眠っている幼獣の小さな鱗が、静かに横たえられていた。

「ウルフ…あれ…」

バットは言葉を口からポロリとこぼし、遥か向こうの大きな紫色の岩を指差した。バットの後ろ姿は、海の向こうを指差す某アニメの主人公の後ろ姿を彷彿とさせた。

「ソクヒョンだ……宮司龍臣だ…」

俺が岩だと思っていたのは、巨大な龍だった。地面にひれ伏すようにして、苦しそうに藻掻きながらうめき声を上げているのが、怖いくらいに穏やかで優しいそよ風に乗って微かに聞こえてくる。宮司龍臣は、真っ青な龍の筈だ。それが紫色になっているということは、徐々に吸血鬼化して赤くなり始めている段階か。

「行こう。バット」

俺達は、足元の花を踏み潰さないように気を付けながら、ソクヒョンのもとに向かった。柔らかな土が、俺達の足の裏を包み込んでいく。息苦しいほどの花の香が、風に乗って俺達を吹き抜けていく。一歩一歩土を踏み締め歩んでいくほど、龍のうめき声が強くなっていく。


急がないと。


俺は理由もなく、直感的にそう感じて、足元の花々を気にすることもせず、ソクヒョンに向かって一直線に勢い良く走り出した。バットも同じように、俺の後ろを走ってついてくる。

ソクヒョンにとって、この世界は地獄なのだろうか。

美しい花に囲まれていることも知らず、罪の意識に苛まされ続けてきたのだろうか。

人間として転生した後も、ソクヒョンの罪の意識はずっと龍獅国に留まったままだったのだろうか。

そんな事を考えているうちに、いつしか俺達はソクヒョンのところまで後50mくらいの地点まで来た。ソクヒョンは……いや、宮司龍臣は俺達の姿に気が付かない。数分前まで紫色だった身体は、今は血のような赤に染まっている。今もまだ、エメラルドが奪ってやれなかった記憶に蝕まれているのだ。



自分の息子2人の命で賭けをしてしまった記憶に。



夢の中にいるからだろうか。体感的に1kmくらいは走った筈だが、息が切れることはなく身体も何処か軽い気がする。俺とバットは、走るのをやめて、残りの約50mをゆっくりと歩いた。龍のうめき声が空気を震わせ地を揺らす。龍の苦しみが地面を伝って心臓に響く。

「お父さん」

宮司龍臣まで、後20mくらいのところで、バットが徐ろに立ち止まり、静かにそう口にした。すると、バットの声に反応するように、龍はうめき声を上げるのをピタリと止めた。そして、真っ赤に染まった口から、鋭くて大きな牙を覗かせた竜が、ゆっくりと俺達の方に顔を向けた。

龍は、紛れもなく、メイプル第一王女様の守護龍だった龍で、クランシーを食ったあの龍だった。色は違えど。間違いなく、彼だった。龍の顔は、何となくソクヒョンに似ている気がした。

バットは俺の一歩手前に立ち、高層ビルのように巨大な真っ赤な龍を見上げていた。バットの短い前髪が、蒸し暑い煙のような龍の息にゆらゆらと揺れていた。
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