【1月3日完結!】冥刻の子守唄――許されないことをした俺は――

ラムネ

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第一章 蛍の光

咲き誇れ

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田園に囲まれてポツリと建てられた小学校の校舎。普段は沢山の子供たちがドッジボールや鬼ごっこをして遊んでいる校庭には、今日は沢山の車がズラリと並んでいる。

校庭を囲うようにして植えられた桜の木々は満開。校門のすぐ近くに植えられた桜の木は一際大きく、鮮やかなピンク色の花を誇らしげに咲かせている。

蛍は校舎3階の教室の窓から、窓に両手を付いて額を押しつけるようにして、その桜の木を見下ろしていた。

「全員、体育館に集合して下さーい!」

いつもはジャージを着ている担任も、今日は上質なスーツに身を包み、何処か寂しげな表情を見せている。先生が教室の電気を消し、生徒を廊下に整列させ、1階の渡り廊下の先にある体育館へとゾロゾロと引き連れていく。

蛍は教室を出る直前、黒板にふと目をやった。薄暗い黒板の真ん中には、「6年4組」と大きく書かれていて、それを囲うように色とりどりのチョークで「ありがとう」や「また会おう」と沢山書き付けられていた。今朝、小学校最後の登校日に蛍たちが自主的に綴っていった想いだった。



式も終わり、いよいよ蛍たちがこの学校を去る日。蛍にとっては、6年間の友人に別れを告げねばならぬ日でもあった。

卒業生とその親達は、式が終わっても尚、名残惜しそうに校庭でお喋りを楽しんでいる。蛍の両親が他の親と話している間、蛍は世央と並んで朝礼台に腰掛けて、ボンヤリと快晴の空を見上げていた。
「そう言えば…」
世央が蛍に声を掛けようと口を開いたその時。
「蛍くん!」
黒い礼服に身を包んだ大人たちの中から、蛍を呼ぶ一人の女性の声がした。声がした方を見ると、水色の着物を着た女性が蛍たちの方に駆け寄ってくるのが見えた。余りにも世央と瓜二つだったので、言われずとも世央の母親であることが一目見て分かった。
「蛍くん、合格おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
卒業生たちが、まだ彼らには大きい地元の公立中学の制服をダボッと着ている中、蛍だけは淡い紫色のブレザーに身を包んでいた。
「寂しいけど、頑張ってね」
世央の母親は蛍の手を取り、そして強く握った。蛍も両手で世央の母親の手を握り返した。
「あ、世央くんのお母さん。いつも息子が…」
「いいえ、こちらこそ息子がいつも……」
遠くの方から、紺色の礼服を着た蛍の母親が、世央の母親に気が付いてこちらに向かってくるのが見えた。
「蛍、お前、県外の名門校に行くんやってな……っ…」
世央は、自分の母親と蛍の母親が何やら盛り上がっているのを朝礼台に腰を掛けたまま、黙って見つめていた。世央は最後に何かを言い掛けたが、すぐにそれを飲み込んだ。蛍はそれに気付いていない様子だった。

冬の寒さをごく僅かに残した春の風が、世央の髪の毛を撫でるように吹いていった。


その様子を陽炎は、蛍の隣に腰掛けて見守っていた。陽炎には、世央の方を向いている蛍の後頭部しか見えなかった。

「蛍、卒業おめでとう」

陽炎のその言葉を、想いを聞いた者は、何処にもいなかった。陽炎は空を見上げた。雲一つない青空。暖かな光とそよ風に抱かれる桜の木。桜の花びらがユラユラと、踊るように舞う。

陽炎には、この世界が悲しいくらいに優しく見えた。
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