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第25話「葛藤と後悔」
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(……あ、水城)
ちらっと視界の隅に入った影に意識が募る。
香織は、綾乃の「今日学食に行かない?」という提案で、弁当を持ってきていた仲の良い友だちも一緒に食堂でランチを楽しんでいた。
実は綾乃の提案には裏があって、例の彼が日頃この食堂で学食を食べているという話を知っていたらしく、「せっかくだから見に行こうよ」と香織に言ったのがきっかけだ。とは言っても言い出しっぺの綾乃が委員会があるとのことで遅刻している。
提案を持ちかけられたときは、水城とは学校で話すことがないし、もし見かけたとしても気まずくなるかもしれないから遠慮しておく。と言ったのだが、見るくらいならいいじゃんと引き下がらなかったので渋々了承していた。
そうは言っても、内心はいつもと違う水城が見られるかもしれないとちょっとだけ楽しみにしていた。
(日替わりランチセットって……)
ほぼ毎日食堂に通っているらしかったので何か好物のメニューでもあるのかな、と想像していたがそれはただの空論で、どうやら偏った食事にならないように気を使っているようだ。
チケットを食堂のおばさんに渡した水城が隅の席に移動する。そして彼が席に着いた時、香織の前の席で弁当を頬張っていた遥香《はるか》が口を開いた。
「ねぇ……あれって水城だよね。香織と何か噂になってるらしいじゃん」
「え……?」
「あー知ってる。私と仲いい友だちも言ってたけど、『そんなやつ香織が相手にするわけないっしょ!』って言ってやったわ」
近くに座っていた友達が「なにそれチョーうけるんだけど」と笑い飛ばす。
だがそんな噂は初耳で内心穏やかではなかった香織は「噂になっている」とはどういう事だろうと勘繰っていた。
「しかも球技大会の日の帰りに事故に遭って病院に運ばれたらしいじゃん」
「ねー。伊達とかが言ってたんだけど、『球技大会で調子に乗ったプレーしてたからそのツケが回ってきた』だってさ」
球技大会の試合はずっと見ていたが、調子に乗ったプレーなんて水城はしていなかった。それどころか、よくテレビで見かけるような凄い技を使っていて凄いなと思っていた。それに放課後に病院に運ばれたのは一年生の後輩の女の子を助けたからだ。
本当はこの事実を言ってしまいたいが、言ったところで自分との噂がさらに悪化するかもしれないのと、もしそれで友達が水城に目を付けてしまって彼を横取りされるのが嫌だった。
正直に物を言えない自分が情けない、と腹を立てていると、今の自分達の話題に上がっていた伊達と他のクラスの生徒が一緒に食堂に入ってきた。
すると食券販売機を通り過ぎて、隅の席に座っている水城の方に向かって行った。
(え……なんで)
少なくとも先程の話題から伊達と水城は仲は良くないはず。でも何でわざわざ水城に話しかけているんだろう……と二人の話に耳を澄ませていると、次の瞬間伊達が水城に冷水をぶちまけた。
(え……)
突然の事で目を丸くしていると、周囲からクスクスと笑い声が耳に流れ込んできた。食堂の中をさりげなく見渡すと、どういうわけか水城が冷水をかけられた光景を見て笑っていた。
(……あ)
一瞬、水城と目が合った。……だが襲い掛かる後ろめたさからすぐに目を逸らしてしまった。
(やっちゃった……)
今水城の目には自分の行動がどう映っただろうか。客観的に見るとなれば、助けを乞う人間を見捨てたように見えるだろう。
ここで自分が何かを発言したとしても水城と一緒になって笑われるだけだ。かと言って周りの友達の水城に対するレッテルの弁明をしたとしても今の仲を壊れるような気がして口に出せない。
どうしよう……と思考を巡らせる。だがそうこうしているうちに水城はその場を片付けて食堂を出て行ってしまった。
(水城……)
拒絶。水城が食堂を出て行くときに見せた背中はそう言っているような気がした。
結局昼休みが終わるまで、香織は口を開くことが出来なかった。
ちらっと視界の隅に入った影に意識が募る。
香織は、綾乃の「今日学食に行かない?」という提案で、弁当を持ってきていた仲の良い友だちも一緒に食堂でランチを楽しんでいた。
実は綾乃の提案には裏があって、例の彼が日頃この食堂で学食を食べているという話を知っていたらしく、「せっかくだから見に行こうよ」と香織に言ったのがきっかけだ。とは言っても言い出しっぺの綾乃が委員会があるとのことで遅刻している。
提案を持ちかけられたときは、水城とは学校で話すことがないし、もし見かけたとしても気まずくなるかもしれないから遠慮しておく。と言ったのだが、見るくらいならいいじゃんと引き下がらなかったので渋々了承していた。
そうは言っても、内心はいつもと違う水城が見られるかもしれないとちょっとだけ楽しみにしていた。
(日替わりランチセットって……)
ほぼ毎日食堂に通っているらしかったので何か好物のメニューでもあるのかな、と想像していたがそれはただの空論で、どうやら偏った食事にならないように気を使っているようだ。
チケットを食堂のおばさんに渡した水城が隅の席に移動する。そして彼が席に着いた時、香織の前の席で弁当を頬張っていた遥香《はるか》が口を開いた。
「ねぇ……あれって水城だよね。香織と何か噂になってるらしいじゃん」
「え……?」
「あー知ってる。私と仲いい友だちも言ってたけど、『そんなやつ香織が相手にするわけないっしょ!』って言ってやったわ」
近くに座っていた友達が「なにそれチョーうけるんだけど」と笑い飛ばす。
だがそんな噂は初耳で内心穏やかではなかった香織は「噂になっている」とはどういう事だろうと勘繰っていた。
「しかも球技大会の日の帰りに事故に遭って病院に運ばれたらしいじゃん」
「ねー。伊達とかが言ってたんだけど、『球技大会で調子に乗ったプレーしてたからそのツケが回ってきた』だってさ」
球技大会の試合はずっと見ていたが、調子に乗ったプレーなんて水城はしていなかった。それどころか、よくテレビで見かけるような凄い技を使っていて凄いなと思っていた。それに放課後に病院に運ばれたのは一年生の後輩の女の子を助けたからだ。
本当はこの事実を言ってしまいたいが、言ったところで自分との噂がさらに悪化するかもしれないのと、もしそれで友達が水城に目を付けてしまって彼を横取りされるのが嫌だった。
正直に物を言えない自分が情けない、と腹を立てていると、今の自分達の話題に上がっていた伊達と他のクラスの生徒が一緒に食堂に入ってきた。
すると食券販売機を通り過ぎて、隅の席に座っている水城の方に向かって行った。
(え……なんで)
少なくとも先程の話題から伊達と水城は仲は良くないはず。でも何でわざわざ水城に話しかけているんだろう……と二人の話に耳を澄ませていると、次の瞬間伊達が水城に冷水をぶちまけた。
(え……)
突然の事で目を丸くしていると、周囲からクスクスと笑い声が耳に流れ込んできた。食堂の中をさりげなく見渡すと、どういうわけか水城が冷水をかけられた光景を見て笑っていた。
(……あ)
一瞬、水城と目が合った。……だが襲い掛かる後ろめたさからすぐに目を逸らしてしまった。
(やっちゃった……)
今水城の目には自分の行動がどう映っただろうか。客観的に見るとなれば、助けを乞う人間を見捨てたように見えるだろう。
ここで自分が何かを発言したとしても水城と一緒になって笑われるだけだ。かと言って周りの友達の水城に対するレッテルの弁明をしたとしても今の仲を壊れるような気がして口に出せない。
どうしよう……と思考を巡らせる。だがそうこうしているうちに水城はその場を片付けて食堂を出て行ってしまった。
(水城……)
拒絶。水城が食堂を出て行くときに見せた背中はそう言っているような気がした。
結局昼休みが終わるまで、香織は口を開くことが出来なかった。
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