恋が始まらない

北斗白

文字の大きさ
25 / 48

第25話「葛藤と後悔」

しおりを挟む
 (……あ、水城)

 ちらっと視界の隅に入った影に意識が募る。
 香織は、綾乃の「今日学食に行かない?」という提案で、弁当を持ってきていた仲の良い友だちも一緒に食堂でランチを楽しんでいた。
 実は綾乃の提案には裏があって、例の彼が日頃この食堂で学食を食べているという話を知っていたらしく、「せっかくだから見に行こうよ」と香織に言ったのがきっかけだ。とは言っても言い出しっぺの綾乃が委員会があるとのことで遅刻している。
 提案を持ちかけられたときは、水城とは学校で話すことがないし、もし見かけたとしても気まずくなるかもしれないから遠慮しておく。と言ったのだが、見るくらいならいいじゃんと引き下がらなかったので渋々了承していた。
 そうは言っても、内心はいつもと違う水城が見られるかもしれないとちょっとだけ楽しみにしていた。

 (日替わりランチセットって……)

 ほぼ毎日食堂に通っているらしかったので何か好物のメニューでもあるのかな、と想像していたがそれはただの空論で、どうやら偏った食事にならないように気を使っているようだ。
 チケットを食堂のおばさんに渡した水城が隅の席に移動する。そして彼が席に着いた時、香織の前の席で弁当を頬張っていた遥香《はるか》が口を開いた。

 「ねぇ……あれって水城だよね。香織と何か噂になってるらしいじゃん」
 「え……?」
 「あー知ってる。私と仲いい友だちも言ってたけど、『そんなやつ香織が相手にするわけないっしょ!』って言ってやったわ」
 
 近くに座っていた友達が「なにそれチョーうけるんだけど」と笑い飛ばす。
 だがそんな噂は初耳で内心穏やかではなかった香織は「噂になっている」とはどういう事だろうと勘繰っていた。
 
 「しかも球技大会の日の帰りに事故に遭って病院に運ばれたらしいじゃん」
 「ねー。伊達とかが言ってたんだけど、『球技大会で調子に乗ったプレーしてたからそのツケが回ってきた』だってさ」
 
 球技大会の試合はずっと見ていたが、調子に乗ったプレーなんて水城はしていなかった。それどころか、よくテレビで見かけるような凄い技を使っていて凄いなと思っていた。それに放課後に病院に運ばれたのは一年生の後輩の女の子を助けたからだ。
 本当はこの事実を言ってしまいたいが、言ったところで自分との噂がさらに悪化するかもしれないのと、もしそれで友達が水城に目を付けてしまって彼を横取りされるのが嫌だった。
 正直に物を言えない自分が情けない、と腹を立てていると、今の自分達の話題に上がっていた伊達と他のクラスの生徒が一緒に食堂に入ってきた。
 すると食券販売機を通り過ぎて、隅の席に座っている水城の方に向かって行った。

 (え……なんで)

 少なくとも先程の話題から伊達と水城は仲は良くないはず。でも何でわざわざ水城に話しかけているんだろう……と二人の話に耳を澄ませていると、次の瞬間伊達が水城に冷水をぶちまけた。

 (え……)

 突然の事で目を丸くしていると、周囲からクスクスと笑い声が耳に流れ込んできた。食堂の中をさりげなく見渡すと、どういうわけか水城が冷水をかけられた光景を見て笑っていた。

 (……あ)
 
 一瞬、水城と目が合った。……だが襲い掛かる後ろめたさからすぐに目を逸らしてしまった。
 
 (やっちゃった……)

 今水城の目には自分の行動がどう映っただろうか。客観的に見るとなれば、助けを乞う人間を見捨てたように見えるだろう。
 ここで自分が何かを発言したとしても水城と一緒になって笑われるだけだ。かと言って周りの友達の水城に対するレッテルの弁明をしたとしても今の仲を壊れるような気がして口に出せない。
 どうしよう……と思考を巡らせる。だがそうこうしているうちに水城はその場を片付けて食堂を出て行ってしまった。

 (水城……)

 拒絶。水城が食堂を出て行くときに見せた背中はそう言っているような気がした。
 結局昼休みが終わるまで、香織は口を開くことが出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...