55 / 91
第4章第17節 魔女裁判の開幕
しおりを挟む
大聖堂の地下墓地。
レンは、バルタザールが展開した「対魔導結界装置」の重圧に耐えながら、冷や汗を流していた。魔力を持たないレンにも、その結界の物理的な圧力は作用し、まるで鉛のコートを着せられたように体が重い。
バルタザールは、レンの苦しむ様子を見て、満足げに笑った。
「……どうだ、賢者殿。……これが、神の力だ」
「……神の力、ね。……ただの魔道具だろう?」
レンは、精一杯の虚勢で言い返した。声が震えるのを、必死に抑えながら。
「……フフフ。……強がりもそこまでだ。……お主が、魔力を持たない『ただの人間』であることは、既に調べがついている」
バルタザールが、爆弾発言をした。
レンの心臓が、ドクリと大きく跳ねた。
(……バレてる!? ……嘘だろ!? ……誰が漏らした? ……ルナか? ……いや、あいつは絶対に裏切らない。……じゃあ、誰だ?)
レンの脳裏に、様々な可能性が駆け巡った。だが、今はそれを考えている余裕はない。バルタザールの言葉が真実なら、レンの「賢者」としての立場は、完全に崩壊する。
「……証拠は、あるのか?」
レンは、最後の抵抗を試みた。
「……証拠? ……フン。……そんなものは、必要ない」
バルタザールが、冷酷な声で言った。
「……お主が魔力を持たないこと。……そして、エリナを言葉巧みに操っていること。……それらは、全て『自白』してもらう」
バルタザールが、合図を送ると、闇の中から数人の屈強な審問官が現れた。彼らは、レンの両腕を乱暴に掴み、拘束した。
「……さあ、賢者殿。……場所を変えようか。……もっと『ふさわしい場所』へな」
バルタザールが、ニヤリと笑った。
レンは、抵抗する力もなく、そのまま引きずられていった。
(……終わった。……今度こそ、本当に終わった……)
レンの意識は、絶望の淵へと沈んでいった。
翌日。
アルカディアの大聖堂に隣接する、巨大な裁判所。
その中央にある大法廷は、数千人の傍聴人で埋め尽くされていた。彼らの目的はただ一つ。「稀代の魔女」の断罪を見届けることだ。
法廷の空気は、熱気と殺気で満ちていた。人々は、口々に「魔女を殺せ!」「火あぶりにしろ!」と叫び、その声は地鳴りのように響き渡っていた。
その中心にある被告人席に、アリアが座らされていた。
彼女の両手には、魔力を封じる手枷がかけられ、首には、昨日のエリナの首輪とは違う、無骨な鉄の首輪が嵌められている。
だが、アリアの表情に、恐怖の色は一切なかった。
彼女は、むしろその状況を楽しんでいるかのように、ニヤニヤと笑っていた。
「……ククク。……素晴らしい! ……これぞ、魔女裁判(ウィッチ・トライアル)! ……深淵の徒に相応しい、最高の舞台ではないか!」
アリアは、傍聴席に向かって、挑発的な視線を送った。
「……静粛に! ……静粛に願います!」
裁判長が、木槌を叩いて静粛を求めた。
裁判長席には、聖教国の高位神官たちがずらりと並んでいる。その中央に、バルタザールが座っていた。彼は、異端審問局長官として、この裁判の全てを取り仕切っている。
「……これより、被告人アリアの、魔女裁判を開廷する」
バルタザールが、厳粛な声で宣言した。
検察側の席には、異端審問局のエリートたちが座っている。彼らは、アリアを有罪にするための「証拠」を、山のように用意していた。
そして、弁護側の席には……誰もいなかった。
アリアは、弁護人をつけられていないのだ。これは、最初から結論ありきの「魔女狩り」だった。
「……まず、検察側の冒頭陳述を」
バルタザールが、検察官に促した。
検察官が立ち上がり、朗々とした声で、アリアの罪状を読み上げ始めた。
「……被告人アリアは、教会の許可なく、強力な古代魔法を使用した。……これは、神への冒涜であり、国家反逆罪に相当する。……さらに、被告人は、禁書指定されている魔導書を所持し、邪悪な『深淵の力』を研究していた……」
検察官は、昨日、バルタザールがアリアの部屋に「発見」させた魔導書を証拠として提出した。
「……異議あり!」
その時、法廷の扉が開き、一人の男が堂々と入ってきた。
レンだ。
彼は、昨夜の地下墓地での出来事が嘘のように、いつもの「賢者」の装束に身を包み、余裕綽々の笑みを浮かべていた。
その左手の薬指には、依然としてエリナと繋がる「聖縛の鎖」が巻きついている。
法廷の空気が、一瞬で凍りついた。
数千人の視線が、レンに集中する。
「……賢者レン・クロウリー! ……貴様、ここで何をしている!」
バルタザールが、驚愕の声を上げた。
彼は、レンが地下墓地で完全に心を折られ、使い物にならなくなったと思っていたのだ。
レンは、バルタザールの視線を無視して、被告人席のアリアに歩み寄った。
「……待たせたな、アリア。……少し、寝坊してしまったよ」
「……ククク。……遅いぞ、盟友(マスター)。……待ちくたびれたではないか」
アリアが、嬉しそうに笑った。
レンは、裁判長席に向き直り、堂々と宣言した。
「……私は、被告人アリアの弁護人として、この裁判に参加する」
法廷が、どよめきに包まれた。
「賢者」が、「魔女」の弁護をする? それは、教会に対する完全な敵対行為だった。
(……やべえ、足震えてる。……心臓バックバクなんだけど。……でも、やるしかない。……ここで引いたら、アリアも、俺も、終わりだ!)
レンは、内心の恐怖を必死に押し殺し、バルタザールと視線を合わせた。
バルタザールの目は、驚きから、憎悪と殺意に変わっていた。
「……面白い。……ならば、受けて立とうではないか、賢者殿」
バルタザールが、冷酷な笑みを浮かべた。
こうして、一人のハッタリ詐欺師と、巨大な宗教国家との、命を賭けた「法廷バトル」の幕が切って落とされた。
レンの武器は、心理学と話術、そしてハッタリのみ。
勝率は、限りなくゼロに近い。だが、彼には退路はなかった。
(……さあ、ショータイムの始まりだ。……見てろよ、クソジジイ。……お前の作ったシナリオ、全部ぶち壊してやる!)
レンは、自分自身を鼓舞するように、不敵な笑みを浮かべた。
レンは、バルタザールが展開した「対魔導結界装置」の重圧に耐えながら、冷や汗を流していた。魔力を持たないレンにも、その結界の物理的な圧力は作用し、まるで鉛のコートを着せられたように体が重い。
バルタザールは、レンの苦しむ様子を見て、満足げに笑った。
「……どうだ、賢者殿。……これが、神の力だ」
「……神の力、ね。……ただの魔道具だろう?」
レンは、精一杯の虚勢で言い返した。声が震えるのを、必死に抑えながら。
「……フフフ。……強がりもそこまでだ。……お主が、魔力を持たない『ただの人間』であることは、既に調べがついている」
バルタザールが、爆弾発言をした。
レンの心臓が、ドクリと大きく跳ねた。
(……バレてる!? ……嘘だろ!? ……誰が漏らした? ……ルナか? ……いや、あいつは絶対に裏切らない。……じゃあ、誰だ?)
レンの脳裏に、様々な可能性が駆け巡った。だが、今はそれを考えている余裕はない。バルタザールの言葉が真実なら、レンの「賢者」としての立場は、完全に崩壊する。
「……証拠は、あるのか?」
レンは、最後の抵抗を試みた。
「……証拠? ……フン。……そんなものは、必要ない」
バルタザールが、冷酷な声で言った。
「……お主が魔力を持たないこと。……そして、エリナを言葉巧みに操っていること。……それらは、全て『自白』してもらう」
バルタザールが、合図を送ると、闇の中から数人の屈強な審問官が現れた。彼らは、レンの両腕を乱暴に掴み、拘束した。
「……さあ、賢者殿。……場所を変えようか。……もっと『ふさわしい場所』へな」
バルタザールが、ニヤリと笑った。
レンは、抵抗する力もなく、そのまま引きずられていった。
(……終わった。……今度こそ、本当に終わった……)
レンの意識は、絶望の淵へと沈んでいった。
翌日。
アルカディアの大聖堂に隣接する、巨大な裁判所。
その中央にある大法廷は、数千人の傍聴人で埋め尽くされていた。彼らの目的はただ一つ。「稀代の魔女」の断罪を見届けることだ。
法廷の空気は、熱気と殺気で満ちていた。人々は、口々に「魔女を殺せ!」「火あぶりにしろ!」と叫び、その声は地鳴りのように響き渡っていた。
その中心にある被告人席に、アリアが座らされていた。
彼女の両手には、魔力を封じる手枷がかけられ、首には、昨日のエリナの首輪とは違う、無骨な鉄の首輪が嵌められている。
だが、アリアの表情に、恐怖の色は一切なかった。
彼女は、むしろその状況を楽しんでいるかのように、ニヤニヤと笑っていた。
「……ククク。……素晴らしい! ……これぞ、魔女裁判(ウィッチ・トライアル)! ……深淵の徒に相応しい、最高の舞台ではないか!」
アリアは、傍聴席に向かって、挑発的な視線を送った。
「……静粛に! ……静粛に願います!」
裁判長が、木槌を叩いて静粛を求めた。
裁判長席には、聖教国の高位神官たちがずらりと並んでいる。その中央に、バルタザールが座っていた。彼は、異端審問局長官として、この裁判の全てを取り仕切っている。
「……これより、被告人アリアの、魔女裁判を開廷する」
バルタザールが、厳粛な声で宣言した。
検察側の席には、異端審問局のエリートたちが座っている。彼らは、アリアを有罪にするための「証拠」を、山のように用意していた。
そして、弁護側の席には……誰もいなかった。
アリアは、弁護人をつけられていないのだ。これは、最初から結論ありきの「魔女狩り」だった。
「……まず、検察側の冒頭陳述を」
バルタザールが、検察官に促した。
検察官が立ち上がり、朗々とした声で、アリアの罪状を読み上げ始めた。
「……被告人アリアは、教会の許可なく、強力な古代魔法を使用した。……これは、神への冒涜であり、国家反逆罪に相当する。……さらに、被告人は、禁書指定されている魔導書を所持し、邪悪な『深淵の力』を研究していた……」
検察官は、昨日、バルタザールがアリアの部屋に「発見」させた魔導書を証拠として提出した。
「……異議あり!」
その時、法廷の扉が開き、一人の男が堂々と入ってきた。
レンだ。
彼は、昨夜の地下墓地での出来事が嘘のように、いつもの「賢者」の装束に身を包み、余裕綽々の笑みを浮かべていた。
その左手の薬指には、依然としてエリナと繋がる「聖縛の鎖」が巻きついている。
法廷の空気が、一瞬で凍りついた。
数千人の視線が、レンに集中する。
「……賢者レン・クロウリー! ……貴様、ここで何をしている!」
バルタザールが、驚愕の声を上げた。
彼は、レンが地下墓地で完全に心を折られ、使い物にならなくなったと思っていたのだ。
レンは、バルタザールの視線を無視して、被告人席のアリアに歩み寄った。
「……待たせたな、アリア。……少し、寝坊してしまったよ」
「……ククク。……遅いぞ、盟友(マスター)。……待ちくたびれたではないか」
アリアが、嬉しそうに笑った。
レンは、裁判長席に向き直り、堂々と宣言した。
「……私は、被告人アリアの弁護人として、この裁判に参加する」
法廷が、どよめきに包まれた。
「賢者」が、「魔女」の弁護をする? それは、教会に対する完全な敵対行為だった。
(……やべえ、足震えてる。……心臓バックバクなんだけど。……でも、やるしかない。……ここで引いたら、アリアも、俺も、終わりだ!)
レンは、内心の恐怖を必死に押し殺し、バルタザールと視線を合わせた。
バルタザールの目は、驚きから、憎悪と殺意に変わっていた。
「……面白い。……ならば、受けて立とうではないか、賢者殿」
バルタザールが、冷酷な笑みを浮かべた。
こうして、一人のハッタリ詐欺師と、巨大な宗教国家との、命を賭けた「法廷バトル」の幕が切って落とされた。
レンの武器は、心理学と話術、そしてハッタリのみ。
勝率は、限りなくゼロに近い。だが、彼には退路はなかった。
(……さあ、ショータイムの始まりだ。……見てろよ、クソジジイ。……お前の作ったシナリオ、全部ぶち壊してやる!)
レンは、自分自身を鼓舞するように、不敵な笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
クラス全員が転生して俺と彼女だけが残された件
兵藤晴佳
ファンタジー
冬休みを目前にした田舎の高校に転校してきた美少女・綾見(あやみ)沙羅(さら)は、実は異世界から転生したお姫様だった!
異世界転生アプリでクラス全員をスマホの向こうに送り込もうとするが、ただひとり、抵抗した者がいた。
平凡に、平穏に暮らしたいだけの優等生、八十島(やそしま)栄(さかえ)。
そんな栄に惚れ込んだ沙羅は、クラス全員の魂を賭けた勝負を挑んでくる。
モブを操って転生メンバーを帰還に向けて誘導してみせろというのだ。
失敗すれば、品行方正な魂の抜け殻だけが現実世界に残される。
勝負を受ける栄だったが、沙羅は他クラスの男子の注目と、女子の嫉妬の的になる。
気になる沙羅を男子の誘惑と女子の攻撃から守り抜き、クラスの仲間を連れ戻せるか、栄!
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた
歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。
剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。
それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。
そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー
「ご命令と解釈しました、シン様」
「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」
次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。
筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~
九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。
ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。
そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。
しかも精霊の力に満たされた異世界。
さて…主人公の人生はどうなることやら。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る
こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する
オカさん
ファンタジー
たった一人で敵軍を殲滅し、『死神』と恐れられた男は人生に絶望して自ら命を絶つ。
しかし目を覚ますと500年後の世界に転生していた。
前世と違う生き方を求めた彼は人の為、世の為に生きようと心を入れ替えて第二の人生を歩み始める。
家族の温かさに触れ、学園で友人を作り、世界に仇成す悪の組織に立ち向かって――――慌ただしくも、充実した日々を送っていた。
しかし逃れられたと思っていたはずの過去は長い時を経て再び彼を絶望の淵に追いやった。
だが今度こそは『己の過去』と向き合い、答えを導き出さなければならない。
後悔を糧に死神の新たな人生が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる