ステータスなしの元人気メンタリスト、異世界の最強ドラゴンをお手だけで服従させる~目を見ただけで思考が読めるので、魔法使いが詠唱してくれません

マーマー

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第5章第18節 悪夢の朝と、深淵からの招待状

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 翌朝、レンは最悪の目覚めを迎えた。

 「……うぅ……。頭痛い……。胃が……胃が燃えてる……」

 魔王城の客室に用意された、人間界では見たこともないほど巨大でフカフカのベッドから体を起こした瞬間、脳天を突き抜けるような激痛と、胃袋を雑巾のように絞り上げられるような不快感に襲われた。

 昨夜の「歓迎の宴」は、レンにとって地獄絵図そのものだった。
 次々と運ばれてくる毒々しい深淵料理の数々。どれもこれもが、一口食べるごとにHPを削り取っていくような破壊力を持っていた。セシリアやアリアが平然と(一部苦戦しつつも)食べている手前、リーダーである自分が残すわけにはいかず、必死のポーカーフェイスで笑顔を作りながら完食したのだ。

 (……何が「魔力が体に染み渡る」だよ……。毒素が全身に染み渡ってるだけじゃねえか……。絶対、寿命縮んだわ……)

 レンは重い体をベッドから引き剥がし、洗面台に向かった。
 鏡に映った自分の顔は、死人のように青白く、目の下にはクマがくっきりと刻まれていた。

 「……最悪だ。……これが『賢者』の顔かよ……」

 冷水で顔を洗い、何とか意識を覚醒させる。そして、ローブの隠しポケットから、非常用の強力な胃薬を取り出し、水もなしに飲み下した。
 苦い粉末が食道を通り過ぎていく感覚が、少しだけ安心感をもたらす。

 (……よし。これで何とか、外面だけは取り繕えるはずだ……)

 レンは鏡の前で深呼吸をし、顔面の筋肉をマッサージしてこわばりをほぐすと、いつもの「不敵な笑み」を作ってみた。
 完璧ではないが、遠目に見れば「疲労を隠せない賢者」くらいには見えるだろう。

 その時、部屋の扉がノックされた。

 「……レン様、起きておられますか?」
 セシリアの声だ。

 「……ああ、入ってくれ」
 レンは、努めて穏やかな声を出しながら、ローブを羽織った。

 扉が開き、セシリアが入ってきた。彼女は、完璧に整えられた騎士の正装に身を包み、顔色もすこぶる良い。どうやら、昨夜のゲテモノ料理は彼女の鋼鉄の胃袋には全くダメージを与えなかったようだ。

 (……羨ましい……。その健康な体が、切実に羨ましい……)

 レンは内心で嫉妬しながら、優雅に微笑んだ。
 「……おはよう、セシリア。……昨夜はよく眠れたかい?」

 「はい。レン様のおかげで、安心して休むことができました。……レン様こそ、お顔色が少し優れないようですが、大丈夫ですか? ……やはり、昨夜の料理が……」

 「……フッ。……問題ない。……少し、深淵の魔力に体が適応しようとしているだけだ」
 レンは、ハッタリで誤魔化した。ここで「胃が痛い」と認めてしまえば、ヒロインたちの過剰な心配と、新たな騒動を引き起こしかねない。

 「……そうですか。……レン様がそう仰るなら、安心ですが……」
 セシリアはまだ少し心配そうだが、レンの言葉を信じることにしたようだ。

 「……ところで、ベルゼブブ殿は?」
 レンは話題を変えた。

 「はい。先ほど、レン様が目覚め次第、広間へ案内するようにとの伝言を預かっております。……魔王様も、お待ちだそうです」

 「……魔王殿が?」
 レンの眉が、ピクリと動いた。

 (……げっ、朝っぱらからラスボスと対面かよ……。……昨日の「共犯者」って話、まだ有効だよな? ……一晩寝て、「やっぱり人間は皆殺しだ」とか気が変わってないよな……?)

 レンの胃痛が、胃薬の効果を打ち消す勢いで再発した。

 「……わかった。……すぐに行こう」
 レンは、心の中で血の涙を流しながら、セシリアの後に続いて部屋を出た。

 広間へ向かう廊下には、すでにエリナとアリア、そしてガウが待機していた。

 「……レン様ぁ♡ おはようございますぅ♡」
 エリナが、朝から全開の笑顔でレンに抱きついてきた。

 「……ぐふっ!? ……お、おはよう、エリナ……」
 レンは、物理的な衝撃と、濃厚すぎるバラの香りに包まれながら、何とか挨拶を返した。彼女の腕力は、朝でも健在だ。

 「……ククク。……目覚めし深淵の王よ。……昨夜の深淵料理は、その身に新たな力を宿したか? ……私は、今にも闇の波動が体から溢れ出しそうです……ブツブツ……」
 アリアは、相変わらず独自の解釈で自己完結している。目の下にできたクマが、昨夜のダメージを物語っているが、本人はそれを「深淵の影響」と信じ込んでいるようだ。

 「……レン様。……昨日は、すいませんでした。……俺、ビビって、何もできなくて……」
 ガウが、申し訳なさそうに頭を下げた。彼の巨体が、借りてきた猫のように小さくなっている。

 レンは、ガウの肩を軽く叩いた。
 「……気にするな、ガウ。……あれは、誰でもそうなる。……お前の忠誠心は、十分に伝わっているよ」

 これは半分本音で、半分はハッタリだ。ガウのような単純なパワー系キャラは、こうして褒めておけば、勝手にモチベーションを上げて忠誠を誓ってくれる。

 「……レン様……! ……俺、一生ついていきます!」
 ガウの瞳が、感動で潤んだ。

 (……よし、チョロい……。……じゃなくて、良い部下を持ったな、俺は……)

 レンは心の中で苦笑しながら、一行を引き連れて広間へと向かった。

 広間では、すでに魔王が玉座に座り、ベルゼブブがその脇に控えていた。
 魔王の姿は、昨夜と変わらず、完璧な美しさと威圧感を放っていた。だが、その漆黒の瞳がレンを捉えた瞬間、ほんの微かに、口角が上がったように見えた。

 「……よく来たな、我が友よ。……昨夜は、よく眠れたか?」
 魔王の声は、静かだが、昨夜よりも親愛の情が込められていた。

 レンは、深く一礼した。
 「……ああ。おかげさまで、深淵の夜を満喫させてもらったよ。……感謝する、魔王殿」

 (……満喫ってレベルじゃねえよ! ……地獄を見たわ! ……でも、とりあえず機嫌は良さそうで助かった……)

 レンの内心とは裏腹に、ヒロインたちは魔王の「我が友」という発言に、再びざわついた。

 「……友? ……レン様が、魔王と友達、ですの?」
 エリナが、理解が追いつかないといった様子で小首をかしげる。

 「……ククク。……さすがは師匠。……一夜にして、深淵の王を懐柔するとは……!」
 アリアが、勝手に感動して震えている。

 魔王は、そんなヒロインたちの反応を気にする様子もなく、レンに視線を固定したまま続けた。

 「……さて、賢者レンよ。……いや、観測者よ。……本題に入ろう」

 魔王の声が、少し低くなった。広間の空気が、一気に張り詰める。

 「……我々が『共犯者』となった以上、今後の行動方針を決めねばならん。……貴様も、そのつもりで来たのだろう?」

 レンは、喉が鳴らないように細心の注意を払いながら、ゆっくりと頷いた。
 「……ああ。……もちろんだ。……そのために、私はここへ来た」

 (……やばい、何も考えてねえ……。……今後の行動方針って何だよ? ……世界征服? ……神殺し? ……どっちにしろ、俺のキャパシティを遥かに超えてるんですけど!?)

 レンの胃痛が、胃薬の防壁を突破し、再び彼を苛み始めた。

 「……クク。……良い目だ。……迷いがない」
 魔王は、レンの必死のポーカーフェイスを「覚悟の表れ」と都合よく解釈し、満足げに頷いた。

 そして、魔王は玉座からゆっくりと立ち上がり、宣言した。

 「……では、始めようか。……この世界の『歪み』を正すための、我々の『聖戦』を」

 広間に、魔王の圧倒的な魔力が渦を巻いた。それは、レンたちを飲み込まんとする、新たな混沌の始まりを告げる合図だった。

 (……もう、帰りたい……。……誰か、俺をこのブラック企業から解放してくれ……!)

 レンの心の中の叫びは、誰にも届くことなく、深淵の闇の中へと消えていった。

***
第5章 完
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