異世界勇者のアフターライフ

あきょう

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異世界勇者、世界を少し変える

勇者、魔法を教える。あとばあちゃんが興奮する

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「よし、まずは集中だ。体の中の魔力を胃袋からへそのあたりに感じろ」

「う、うーん、これで合ってるんですかね?」

 あの後家に帰り、仙台駅の方で色々あったから危なかっただのなんだのと話をしながら夕食を食べた後、信吾の魔法練習をしていた。

 確かに身体強化しか使えない俺だが、知恵の勇者を舐めないでもらいたい。札を作る際に魔法の出し方、起こり、組み立て方は熟知してないと作れないんだよ。当然、他人に教えるのも相当自信がある。

 身体強化を目だけに使い、信吾の魔力変動を見ると、しっかり魔力は腹に溜まっている。なかなか筋がいいじゃないか。

「大丈夫だ、合ってるぞ。それから腹に感じた魔力を、指の先に移動させるんだ。どの指でもいいぞ」

 右手の人差し指を立てて、そこに魔力を流し込む。凄いな、これが出来るまで相当の遠距離魔法使いが苦戦するんだぜ?しばらくはここを練習させようと思っていたが、予定変更。このまま次に進もう。

「よし、そのまま指の先に球体を思い浮かべるんだ。体の中にあるものを、元からそこにあったように出す」

 信吾に指示を出すと、朧げな青い光の玉ができ、そのあとすぐにはっきりと光るようになる。とんでもない逸材じゃないか。王室お抱えの宮廷魔導士でもこうはいかない。

「筋がいいな、なら今度は魔力を別のものに変換するんだ。そうだな、初めてだから水がいいかもしれないな。少しずつ置き換わっていくところをイメージしよう」

 流石にこれは難しいぞ。なんてったってない物をあるかのように作り出さなけりゃいけないんだ。魔力の半分を水にできるまで早くても2週間。完全に自分のものにするまで3年は


 できてる


「て、天才か?」

「え?ぼく出来てます?ほんとだ出来てる!」

 無邪気に喜ぶ慎吾を見て震える。どんな天才だよお前は。アージュに見せたら気絶すんじゃねぇだろうか。いやアイツも天才の類だから凄い気に入るかもしれんし、求婚してくるかもしれんな。信吾に。

「シモンさん、この手順何かに似てるなって思ったんですけど、これプログラミングにすごい似てるんですよ。自分の中のリソースを使って、現象を動かす。条件を別のものに設定してしまえば水以外にも、ほら、火も電気も、光も」

「うおおおおおおお!?!?!!?」

 思わず叫んでしまった。原因は信吾の出した光魔法。本来であれば世界に1人発現するかどうかの超超超希少魔法で、小規模でも使えた時点で光魔法を神聖なものとして祀っている宗教での神職は確定。大規模になれば無条件で勇者として選ばれる最強属性だからだ。

 出せない理由は至極単純、人間は光を具現化できない。太陽から降り注ぐ物を固めてみろなんて無理難題は、到底出来ないからだ。

 しかし信吾の手のひらにあるのは紛れもなく光魔法。俺にはわかる、この白銀のような強烈な光は何度も見てる。なんせパーティメンバー随一の若さを誇る光の勇者、ミヤが戦闘で使っていた光そのものだからだ。

「……なぁ、俺の世界こないか?多分3回くらい人生遊んで暮らしてもまだまだ有り余るほどの金が手に入ると思うんだけど」

「嫌ですよそんなの。特撮の見れない世界なんて御免ですからねぼくは。それとシモンさん、多分ですけどこれ、プログラミングができる人なら誰でも出来ますよ?」

 何気ない信吾の一言が、俺の常識にひびを入れた。

「そうですね、簡単に説明します。魔法がプログラミングに似ているっていうのは『コマンド入力次第で自由に現実に干渉する』過程の話なんですよ。それでいて通常のプログラミングより分かりやすい。例えば単純に炎を出したい時でも炎を出す!って命令じゃ出ないんです。『手の先100㎜に魔力を出す、魔力が出たとき、それを触媒として中心温度800度の発火現象を出す』って感じで出してあげることが出来るんですね」

 たぶんここまではシモンさんも知っていると思いますよねと信吾に言われ、頷く。確かにその感覚はあってる。本来はもう少し緩い術式でも成り立つのだが、原理自体は全く持ってその通りで、その原理を更に細かい注文として独自の言語を発動条件とし、札に落とし込んだのが俺の主力武器だからな。

「それで、この光の正体はすごく単純ですね。今出した命令内容はこうです。『手の先100㎜に魔力を出す。その時魔力が剥離するまで加熱、発光させる』。つまり魔力を使ってプラズマ現象を起こしているってことです。これだけのことなんですよ。簡単ですね」

 事も無げにいう信吾。だが俺にとってはあまりにも革命すぎる。信吾の説明は、そのまま札に使えるほど正確かつ精密だ。そうか、魔力自体を加熱するのは歴代の大魔導士もやってはいただろうが、剥離、つまり一定の条件を加算しないと光となることはなかったということなんだな。
 つまり札を使えばだれでもお手軽に光魔法が使えるようになるってことなのか?宗教の重要な立ち位置にもなれるあの魔法を?というかその魔法をこっちの人間は少し考えるだけですぐさま光魔法が使えて、何ならこの説明を受けた人間は光魔法が使えるようになる??

 うん、これはだめだ。こっちの人間を俺の世界に連れて行ってはだめだ。俺も札にしちゃだめだ。作ったとして元の世界に持ってけない。俺が宗教に殺される。

「そ、そっかぁ。それは、そっかぁ」

「シモンさん?顔色が悪いですけど、何かありました?」

 心配してくれてありがとうな信吾、でも俺の心配事を作ったのはお前だぞー。勝手に心配しているだけとも言えるが……

 ミヤはこんな高度なこと考えて戦ってたのか。いや、もしかしたらもっとえげつない事を考えているのかもしれない。バンバンぶっ放してたもんな、敵相手に。そしてバンバン消失していたもんな、敵。怖いわマジで。バイオレンス少女だったなアイツ。

「信吾、その光魔法な、ぶつかったものを問答無用で消すからマジで注意な?俺、それで消したものは指とかでも回復できないからあんまり使わない方がいいと思う」

「ええ!?そんなに恐ろしい物なんですか??というかシモンさんだって光の剣を使って敵と戦ってたじゃないですか!あれと何が違うんです?」

「……見た方が早いか」

 俺の切札に疑問を持った信吾。分かりやすいうえに量産も容易になった今、実際に見た方が理解しやすいかと躊躇なく切札を発動する。

「これが俺の切札。さっき信吾の出した光魔法と光り方が違うだろ?こっちは淡い青っぽい色で、信吾の光はまさしく光って感じだ。簡単に言わせてもらえば、俺のはただ単純に魔力の塊で、信吾のは光になった魔力だ。魔力だけでもとんでもない切断力を持ってはいるんだが、これに属性を付与すると切れ方が変わる」

 炎なら切断面が焼け、水ならより鋭利に切れるって感じだ。その説明をより詳しく、俺の世界における魔力と派生することのできる各属性に紐づけられる関連性を含めて話した。

「なるほど、リソースを使えば使うほど強力になるんですね」

「そうだな、魔力は使えば使うほど強力なものになるが、その分次に回せる魔力は少なくなるし、自分の魔力量に見合わない強大な魔法を使うことはできない」

「パソコンのスペックによっては実行できないコマンドがあるってことですね」

 しっかりとうなずく俺。信吾のたとえ話も理解できる翻訳魔法ほんとありがとう。変な齟齬や聞き返す間が生まれなくて超助かる。怖いけど。

「実際自身の魔力量を底上げする方法もあるが、そんなに劇的に変わることはない。だから魔力量の差で色々面倒なことになったりもする」

 そこを自身の体を鍛えたり、戦闘の経験を積んだり、なんなら術式を組み換えたりすることで強くなっていくんだ。

 と、信吾に説明したところで今日はもう寝ることにした。明日もまだ休日ではあるようだし、魔法の鍛錬もしてみようか。






 翌朝、朝食を食べているときに流していた番組の中で、俺の戦闘場面がばっちりとテレビに映っていた。信吾がこっそり全国に流れていることを教えてくれたが、ネットに流れた時点で口は噤めないであろうことはなんとなく分かっていたから動揺することはない。

 それよかよしえさんが凄いこっちを見ていることの方が怖かった。絶体なんか勘づいてるよこの人。

「ご、ごちそうさまでした」

 こっちの信仰、というか考えに合わせた食事終わりの挨拶をして二階に上がる。神や妖精に与えられたものではなく、自然から頂くものという考え、嫌いじゃないぜ俺。

「あ、ぼくもごちそうさま!」

 信吾がついてきてくれるの本当に心強いというか、あの婆さんの隠れ蓑になってくれている気持ちになる。

「さてと、それじゃあ今日は魔力の変形と、ついでに浮遊魔法を教えよう」

「やった!浮遊魔法だ!」

 ははは、そんなに嬉しいか。子犬のように喜びおって。

 あれだな、学びを喜んでくれて、尚且つ吸収が滅茶苦茶早い生徒を持つとすごい教えるのが楽しくなるな。







 魔法を教え始めて3時間、信吾の飲み込みは非常に早く、もう体の周りを炎、水、雷、氷がそれぞれ弓の形に整えて浮遊させ、足元から風を吹かせて自在に室内を飛び回っている。俺が教えたのは護身用に使える程度の知識なのに、今じゃ大魔法使いに匹敵する魔法まで会得する勢いだ。ちょっとこいつ天才が過ぎないか?

 信吾の天才たる所以ゆえんは、何も覚えの早さだけではない。魔法に使う魔力の中抜き具合が絶妙なのだ。信吾曰く「オブジェクトをただ置くのではなく、必要な個所以外は抜いてCPUの負担を軽くするのはプログラマーとして常識」とのことだったが、絶対そうじゃないと思う。なんとなくだけど。

「そういえば信吾、友達と遊んだりしないのか?俺にばかり構わなくてもいいんだぞ?」

「何をおっしゃいますか!こんなにも知識欲がくすぐられるイベント、何にも代えがたいですよ!」

 友達も代えがたいものだとは思うが、そこは人それぞれということで黙っておくことにする。それにしてもこれだけの逸材、俺だけの指導じゃあ本当に申し訳なくなるな。知識だけでここまで魔法を自在に操れるのなら、アージュあたりに預けたら一晩で誇張抜きに世界一の魔法使いになれるだろうに。

 などと思いながら何気なく俺の後ろ、ドアの方向を見ると




 よしえさんが無表情でじっとこっちを見ていた。




 ヤバイ。見られてる。怖っ。じゃない。どのタイミングで見られていたかは全く不明だが、まず間違いなく空飛ぶお孫さんは見られてる。俺がこの状況をどうやって説明したものかと頭を悩ませていると

「よくやった信吾!!!!!!!」

 勢いよく扉を開け放ち、今まで聞いたことのない大声で信吾をほめた。信吾も驚いて魔法が溶け、地面に墜落した。

「シモンさんもよく教えてくれた!ありがとうねぇ!」

 つかつかと近づいてきて笑顔で俺の手を握るよしえさん。すっごい力だやばっ。

「い、いや、信吾の才能が突出しているだけで俺はほんと何も」

「お、おばあちゃんいつから見てたの!?」

 落ちてなお驚きが止まらない信吾。そりゃそうだ。自分の部屋で秘密の特訓してたと思ったら、急に自分の婆さんが褒めちぎりながら自室に入ってきたんだ。誰だって怖いわ。

「アンタたちがこの部屋に入った時からさ!」

 え?そんなとこから?気配遮断できるの?それとも俺の勘が鈍ったとか?

「それよか忙しくなるよ!アタシはこのまま魔法関連のことに関して特許を取る。信吾、アンタの事だ、パソコンのどこかに魔法についてのコツとかノウハウを仕様書として書き留めたんだろう?そいつを回しな!シモンさん、アンタはそうさね、魔法に関する特別な何かの道具かなんかがあったら教えておくれ!うまくいけば特許料でうちはとんでもないことになるよ!」

 矢継ぎ早にいろんな言葉を浴びせられて若干面食らったが、なるほど情報をこちらである程度統制しようという事だな?

 統制の大元側にいれるのであれば、それはメリット以外の何者でもない。

「信吾に教えた部分を、もっと詳細に書き記してお伝えしましょう。この世界でも技術として通用するように。それと魔法の道具ですが、コレは短時間魔法の効果を使うことのできる札です。危険性が少なく魔法の存在を簡単に証明できる浮遊札を札の作成例としてつけておきましょう」

「上等!やっぱりアンタは只者じゃあなかったね!」

「ち、ちょっとシモンさん、いいんですか?こんなに簡単に情報を渡して!」

 俺の提案にニッカリ笑うよしえさんと、慌てふためく信吾。

「信吾、魔法技術は魔物が溢れ出て来ている以上、遅かれ早かれ世間に広まるもんだ。それならいち早く制御側に回って情報を小出しに、使えるものも限定的にするのが現状の最善手だ」

 最悪は何もせず技術が垂れ流しになってしまう事。一度魔物達の技術を極秘裏に研究した結果、国民に水面下で共有され大変なことになった国を知ってるから尚更だ。

「それにね信吾、『中学生アンタでも使えた』ってのは、本当に恐ろしいことなんだよ。シモンさん、テレビで戦ってたの、アンタだろう?」

 よしえさんの言葉に頷く。

「世間様はアタシらが思うより阿呆だよ。アレだけの兵器みたいな事が、子供でもできると思い込むもんさ。そうなる前に、危ないもんじゃ無いって触れ込みをさせとかないと、危険に晒されるのは若者ってことになっちまう」

「おばあちゃん……」

 よしえさん、思ったより考えていた。よかった守銭奴じゃなくて。

「だからアンタは存分に魔法を学びな!危ないとこも危なく無いとこも含めてだよ!この世界初めての魔法省長官を目指すつもりでやりな!」

……守銭奴じゃ無いけど、見栄は張るたちなのかもしれない。





ある日のSNSは、1つの投稿からとんでもない騒ぎになった。

『おいとんでもない特許きてるぞ』

出願日:2022-10-28 ほか1
出願人:早上工業
名称:早上式遠距離魔法及び身体強化魔法、魔法札
要約:【課題】特別超害獣の一部が要する特殊技能のシステム解析及び独自プログラムとしての再構築。
 【解決手段】目視による現状把握..
続き chizai-watch.com/p/~~~~

『図2の魔方陣的なの印刷して使ってみたけど全然動かんし……嘘じゃね?』

『魔法のシステム解析ってことは、つまりみんな魔法使いになれる…ってコト!?』

『フローチャートだけだと分かりずらいけどコレはマジじゃね?俺30までに魔法使えるかしら』

 等々、さまざまな書き込みがネット上で散見され、総合掲示板には専用スレがいくつも立ち、ブログは一斉にこの事を記事にし、特別超害獣対策本部は突然の特許申請に頭を抱えるのであった。

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