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  平三景虎

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 寺に入り六年ほど経つと、父が亡くなった。
 すると兄の晴景が、寺を出て城に戻れと言う。
 人手が足りぬとの事だ。
 どうやら功徳を積むより、寺社を取り込むより、侍として自分に手を貸せと言う事らしい。
 虎千代とすれば、望むところ。
 すぐに虎千代は春日山城に戻る。

「よう、戻った」
 長兄の晴景が、城の本丸で迎えてくれた。
 ハハッ、と虎千代は頭を下げる。

 これが兄上か・・・・。
 チラリと顔を見る。
 色の白い、痩せた細長い顔をしている。
 年は虎千代よりも、二十ほど上のはずだが、もっと上の老人の様に見えた。

「すぐに父の葬儀を行う」
 顔を上げ、はい、と虎千代は答える。
「その後、お前の元服じゃ」
 承知しました、と虎千代は、兄に頭を下げた。

 敵が春日山に迫っていると言う事で、父の葬儀は鎧を着けて行った。
 慌ただしい事だと思いながら、虎千代は、父の棺を見送る。
 兄晴景の記憶は全く無いが、父の方もあまり無い。
 かすかに、頭を撫でてくれた大きな手と、少し酒臭かった臭いを思い出すだけだ。
 顔は思い出せない。

 葬儀が終わり、すこし経つと、虎千代の元服の儀が執り行われた。
「今日からお前は、平三景虎だ」
 そう告げる兄に、ハハッと虎千代改め景虎は、頭を下げる。
「さっそくで悪いが平三、お前にやってもらう事がある」
 そう晴景は静かな声で命じる。
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