私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

文字の大きさ
52 / 167

  迂回

しおりを挟む
「一旦、引くか・・・・」
 武田信繁の籠る旭山城と、北条綱成の籠る上田城を眺めながら、景虎は呟く。
 敵も動く気配が無い。このまま見合うより、一旦、兵を引き態勢を立て直し、一戦やる方が良い。

 そうと決まれば、景虎は早い。
 直ぐに高梨政頼の居城、飯山城に引く。

 そして旭山と上田の中間にある、尼飾城を攻め、信繁と綱成を誘い出そうとする。
 だが二人は乗って来ない。
 勇将として名高い二人だが、猪突猛進の馬鹿ではない。
 ジッと構えて動かない。
 
 やりにくいねぇ・・・・。

 そう景虎が二将と睨み合っていると、武田晴信が密かに自ら軍勢を率い、迂回して葛山の北の上野原に出ようとしていると、斥候から報告が入った。
 
 小癪な真似を、と景虎は唇を噛む。
 どうやら晴信は、信繁と綱成を囮にして、景虎を旭山城に釘付けにしいる内に、退路を断とうというのだ。

 当然すぐさま兵をまとめて、上野原に向かう。

 上野原で向かい合った、景虎と晴信。
 予想通り、景虎が現れれば、晴信は引く。

 いい加減、うんざりする。
 これほど戦さをして噛み合わない相手も、いないような気がする。
 と言うより、戦さになっていない。
 
 晴信はとにかく戦いを避ける。
 兵を損じる事を嫌い、敵が来れば引いて、謀(はかりごと)で切り崩そうとする。
 そんな晴信に、武士なら戦え、と景虎は思ってしまうのだ。

 おそらく晴信にとって、戦いうというものが、景虎とはまったく別のものなのだろう。

 景虎にとっては、軍勢を率いて、戦場で雌雄を決することが戦いである。
 しかし晴信にとっては、駆け引きをして相手の心の掴む、或いは出し抜くことが、戦さなのだ。


 
「・・・・・こんなところか」
 葛山城に戻り、ため息を吐いて、景虎は呟く。

 時間切れだ。
 季節は葉月。もうすぐ稲刈りの時期。
 景虎は越後に戻らないといけないし、晴信もそうだろう。

 葛山城に村上義清を残し、景虎は飯山城に向かう。
 政頼は嫌な顔をしたが、
「また何かあれば、来ますよ」
 と景虎は告げた。

 正直、二度と来たくない。

 晴信とは、まったく違う土俵で戦っているのだ。
 出来ればこちらの土俵に持ち込みたい。
 だがそれは出来ない。
 そうしてズルズル戦さを続けていれば、それこそ義清の様に、晴信の土俵に引きずり込まれ、謀で負けるだけだ。

 だから出来れば、晴信との戦さはもうしたくない。
 とはいえ人生、やりたくない事を、しないですむわけにはいかない。

 また、戦わねばならぬのだろうなぁ・・・・。

 はぁ、と溜め息を吐き、うんざりしながら景虎は越後に戻る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

 【最新版】  日月神示

蔵屋
歴史・時代
 最近日月神示の予言本に不安を抱いている方もあると思うがまったく心配いらない。  何故なら日月神示では「取り越し苦労や過ぎ越し苦労はするな!」 「今に生きよ!」  「善一筋で生きよ!」  「身魂磨きをせよ!」  「人間の正しい生き方」  「人間の正しい食生活」  「人間の正しい夫婦のあり方」  「身も心も神さまからお借りしているのじゃから夜になって寝る前に神さまに一旦お返しするのじゃ。そうしたら身と心をどのようにしたらよいか、分かるじゃろ!」  たったのこれだけを守れば良いということだ。  根拠のない書籍や情報源等に惑わされてはダメだ。  日月神示も出口王仁三郎もそのようなことは一切言っていない。  これらの書籍や情報源は「日月神示」が警告する「臣民を惑わすものが出てくるから気をつけよ!」 という言葉に注目して欲しい。  今回、私は読者の皆さんに間違った解釈をされている日月神示を分かりやすく解説していくことにしました。  どうか、最後までお読み下さい。  日月神示の予言については、私が執筆中の「神典日月神示の真実」をお読み下さい。    

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

処理中です...