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甘えと脅し
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「殿・・・・・実は・・・・」
北条景広が顔を歪めて輝虎を見る。
「如何した?」
「その・・・・・」
モジモジと景広は、言いにくそうにする。
北条景広は父親以上の勇士だ。
特に今は若い事もあり、鬼の弥五郎と呼ばれるほどの、勇敢な若武者だ。
その景広が、困惑顔で告げる。
「父がそのぉ・・・・・もし・・・そのぉ・・・・・代わりの方を使わして頂けないならば・・・・そのぉ・・・・」
「なんじゃ?」
輝虎は強い口調で問うと、顔を伏せて小さな声で景広は答える。
「小田原に降るしか無いと」
「なんじゃと」
輝虎が大声を上げる。
「ですから、その、父もその位追い詰められておると言う事です」
顔を上げて早口に景広は言う。
「だからと言ってそんな事、口にするな」
出来もせぬくせに、と輝虎は心の中で怒鳴る。
北条高広が小田原の北条家に降ることは、絶対にあり得ない。
別に高広が忠義の士だからではない。
もし万が一に高広が小田原に寝返れば、困るのは高広だからだ。
高広は城代として、厩橋に居る。
だがもちろん領地は越後だ。
だからもし、絶対にあり得ないが高広が北条に寝返れば、その領地は没収して、高広と仲の悪い安田景元あたりに与える事になる。
そうなれば困るのは高広自身だ。
輝虎が景広を返してやったのも、領地という人質があるからだ。
それに領地には高広の妻と、景広以外の子供らも居る。
裏切れば当然、皆処刑される。
だから高広が裏切るわけがない。
要は脅しだ。
主君を脅すとは、と輝虎は腹が立った。
甘えがある。北条高広は輝虎に対して甘えがあるのだ。
勿論、輝虎にも高広に対して甘えがある。
城代の件、柿崎景家や直江景綱に命じなかったのは、資質の事もあるが、二人に嫌な顔をされると強く言えないからだ。
その点、高広には言える。
輝虎は人として、北条高広が好きだ。
陽気で大雑把な性格の高広が、人として好ましく思っているのだ。
だから、
「まぁ、そう言わず頼む」
と言って、無理矢理、押し付ける事が出来るのだ。
しかし高広の方から甘えて脅してくると、腹が立つ。
自分勝手だが腹が立つ。
「おい、弥五郎」
輝虎が口を開くと、ゴホン、と直江景綱が咳払いをする。
大方、輝虎が、
「やれるものなら、やってみいと親父に言うておけ」
とでも言うと思ったのだろう。
確かに喉まで出掛かったが、流石に輝虎も抑えた。
言うわけないだろう、と景綱を睨んだ後、景広の方を見る。
困惑している。当然だろう。
おそらく景広は父親に、
「そんなこと、殿に言いたくない」
と言ったのだろう。
景広は小姓として輝虎の側にいた。輝虎は景広を可愛がっていたし、景広も輝虎を慕っている。
だから脅すなどと無礼だろと、言ったのだろう。
しかし高広が言えと強く命じた。
言って代わりの者を必ず送る様、確約を取って来いと厳命したのだろう。
ふぅうううう、と輝虎は大きく息を吐く。
「必ず代わりの者を送るから、今少し我慢してくれと親父を宥めておいてくれ」
頼む、と輝虎が言うと、
「はぁ、分かりました」
と景広は気の無い返事をする。
北条景広が顔を歪めて輝虎を見る。
「如何した?」
「その・・・・・」
モジモジと景広は、言いにくそうにする。
北条景広は父親以上の勇士だ。
特に今は若い事もあり、鬼の弥五郎と呼ばれるほどの、勇敢な若武者だ。
その景広が、困惑顔で告げる。
「父がそのぉ・・・・・もし・・・そのぉ・・・・・代わりの方を使わして頂けないならば・・・・そのぉ・・・・」
「なんじゃ?」
輝虎は強い口調で問うと、顔を伏せて小さな声で景広は答える。
「小田原に降るしか無いと」
「なんじゃと」
輝虎が大声を上げる。
「ですから、その、父もその位追い詰められておると言う事です」
顔を上げて早口に景広は言う。
「だからと言ってそんな事、口にするな」
出来もせぬくせに、と輝虎は心の中で怒鳴る。
北条高広が小田原の北条家に降ることは、絶対にあり得ない。
別に高広が忠義の士だからではない。
もし万が一に高広が小田原に寝返れば、困るのは高広だからだ。
高広は城代として、厩橋に居る。
だがもちろん領地は越後だ。
だからもし、絶対にあり得ないが高広が北条に寝返れば、その領地は没収して、高広と仲の悪い安田景元あたりに与える事になる。
そうなれば困るのは高広自身だ。
輝虎が景広を返してやったのも、領地という人質があるからだ。
それに領地には高広の妻と、景広以外の子供らも居る。
裏切れば当然、皆処刑される。
だから高広が裏切るわけがない。
要は脅しだ。
主君を脅すとは、と輝虎は腹が立った。
甘えがある。北条高広は輝虎に対して甘えがあるのだ。
勿論、輝虎にも高広に対して甘えがある。
城代の件、柿崎景家や直江景綱に命じなかったのは、資質の事もあるが、二人に嫌な顔をされると強く言えないからだ。
その点、高広には言える。
輝虎は人として、北条高広が好きだ。
陽気で大雑把な性格の高広が、人として好ましく思っているのだ。
だから、
「まぁ、そう言わず頼む」
と言って、無理矢理、押し付ける事が出来るのだ。
しかし高広の方から甘えて脅してくると、腹が立つ。
自分勝手だが腹が立つ。
「おい、弥五郎」
輝虎が口を開くと、ゴホン、と直江景綱が咳払いをする。
大方、輝虎が、
「やれるものなら、やってみいと親父に言うておけ」
とでも言うと思ったのだろう。
確かに喉まで出掛かったが、流石に輝虎も抑えた。
言うわけないだろう、と景綱を睨んだ後、景広の方を見る。
困惑している。当然だろう。
おそらく景広は父親に、
「そんなこと、殿に言いたくない」
と言ったのだろう。
景広は小姓として輝虎の側にいた。輝虎は景広を可愛がっていたし、景広も輝虎を慕っている。
だから脅すなどと無礼だろと、言ったのだろう。
しかし高広が言えと強く命じた。
言って代わりの者を必ず送る様、確約を取って来いと厳命したのだろう。
ふぅうううう、と輝虎は大きく息を吐く。
「必ず代わりの者を送るから、今少し我慢してくれと親父を宥めておいてくれ」
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「はぁ、分かりました」
と景広は気の無い返事をする。
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