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寵臣
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「あの・・・・・・」
緊張した顔で、河田長親が口を開く。
「そのお役目、ぜひ拙者にお命じください」
「・・・・・・だから今、命じておるだろう」
輝虎は首を捻る。
「上方に行って、神余隼人と浪人を集めてこい」
「いえ、そうではなく」
意を決した様に、長親は大きな声で言う。
「その浪人衆を率いるお役目、ぜひ拙者にお命じください」
ほぉ、と輝虎は皮肉な笑みを浮かべる。
「兵を率いて戦さをする自信があるのか?」
ニヤニヤ微笑みながら、輝虎は続ける。
「それほど戦さ上手であったとは、知らなかったぞ」
「いえ、その様なことではなく」
慌てて長親は首を振る。
「ですが・・・・・その機会を頂ければ、修練を積み・・・・・」
「将に修練は要らぬ」
長親の言葉を遮り、冷めた声で輝虎が告げる。
「将に必要なのは腹を据えることじゃ、覚悟を決めることじゃ」
笑みを消し、強い眼差しで長親を見つめる。
「親しい家臣が死んでも心を動かさず、それを受け入れることじゃ」
「・・・・・っ」
長親は何も言えずに黙る。
「戦さとは詰まるところ、一千人の家臣を殺し、三千人の敵を殺すことじゃ」
「・・・・・・・」
「それがお前に出来ると言うのか?」
ううっ、と呻き、長親は顔を伏せる。
厳しい顔で長親を見つめながら、内心、輝虎は微笑んでいる。
将の話、勿論本心だ。
戦さとはそう言うものであり、輝虎もそういう気持ちで臨んでいる。
しかし半分は、長親を苛めてからかっている。
上方に赴いた時、美童を見つけて気に入り、国に連れて帰って側に置いている。
誰がどう聞いても、国を滅ぼす君主の典型の様なことを輝虎はやっている。
確かに長親は賢いし、機転も効く。
だがそれが、国を滅ぼす寵臣の資質であると、輝虎ですら思う。
現に北条高広や斎藤朝信、それに甘粕景持らは、長親を嫌っている。
だから長親は出来るだけ、目立たないようにしている。輝虎の寵を笠に来て、威張るような事はしていない。
輝虎も、上方の使い以外あまり長親を仕事を与えていない。
それが自ら軍勢を率いたいと言ってきた。
うい奴、と輝虎は思った。
だから苛めてみたくなったのだ。
「まぁ、良かろう」
輝虎の言葉に、えっ、と長親は顔を上げる。
「あてはあるのか?」
「は、はい」
慌てて長親が答える。
「拙者の親類、縁者、それにその知人を集めれば、二百人にはなるかと・・・・」
「五百集めろ」
輝虎の命に、ハハッ、と長親は頭を下げた。
長親が使えればそれで良いし、使えなければ、集めた浪人の中から使える者を探せば良い。
うい奴だが、それだけで終わるかどうか、それは長親が決めることだ。
まぁ、頑張ってみろと、輝虎は笑みを浮かべて長親を見つめる。
緊張した顔で、河田長親が口を開く。
「そのお役目、ぜひ拙者にお命じください」
「・・・・・・だから今、命じておるだろう」
輝虎は首を捻る。
「上方に行って、神余隼人と浪人を集めてこい」
「いえ、そうではなく」
意を決した様に、長親は大きな声で言う。
「その浪人衆を率いるお役目、ぜひ拙者にお命じください」
ほぉ、と輝虎は皮肉な笑みを浮かべる。
「兵を率いて戦さをする自信があるのか?」
ニヤニヤ微笑みながら、輝虎は続ける。
「それほど戦さ上手であったとは、知らなかったぞ」
「いえ、その様なことではなく」
慌てて長親は首を振る。
「ですが・・・・・その機会を頂ければ、修練を積み・・・・・」
「将に修練は要らぬ」
長親の言葉を遮り、冷めた声で輝虎が告げる。
「将に必要なのは腹を据えることじゃ、覚悟を決めることじゃ」
笑みを消し、強い眼差しで長親を見つめる。
「親しい家臣が死んでも心を動かさず、それを受け入れることじゃ」
「・・・・・っ」
長親は何も言えずに黙る。
「戦さとは詰まるところ、一千人の家臣を殺し、三千人の敵を殺すことじゃ」
「・・・・・・・」
「それがお前に出来ると言うのか?」
ううっ、と呻き、長親は顔を伏せる。
厳しい顔で長親を見つめながら、内心、輝虎は微笑んでいる。
将の話、勿論本心だ。
戦さとはそう言うものであり、輝虎もそういう気持ちで臨んでいる。
しかし半分は、長親を苛めてからかっている。
上方に赴いた時、美童を見つけて気に入り、国に連れて帰って側に置いている。
誰がどう聞いても、国を滅ぼす君主の典型の様なことを輝虎はやっている。
確かに長親は賢いし、機転も効く。
だがそれが、国を滅ぼす寵臣の資質であると、輝虎ですら思う。
現に北条高広や斎藤朝信、それに甘粕景持らは、長親を嫌っている。
だから長親は出来るだけ、目立たないようにしている。輝虎の寵を笠に来て、威張るような事はしていない。
輝虎も、上方の使い以外あまり長親を仕事を与えていない。
それが自ら軍勢を率いたいと言ってきた。
うい奴、と輝虎は思った。
だから苛めてみたくなったのだ。
「まぁ、良かろう」
輝虎の言葉に、えっ、と長親は顔を上げる。
「あてはあるのか?」
「は、はい」
慌てて長親が答える。
「拙者の親類、縁者、それにその知人を集めれば、二百人にはなるかと・・・・」
「五百集めろ」
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長親が使えればそれで良いし、使えなければ、集めた浪人の中から使える者を探せば良い。
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まぁ、頑張ってみろと、輝虎は笑みを浮かべて長親を見つめる。
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