私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  牛田行正

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 尻垂れ坂で門徒に大打撃を与えた上杉軍は、そのまま富山城を攻め落とし越中制圧を目指す。

 門徒を指揮するのは、杉浦玄任という本願寺の坊官である。
 玄任は越前の人間だが、加賀や越中、能登にも力を及ぼす門徒の大将だ。
 一度、本拠地である越前に戻り、加賀や能登の門徒を引き連れ、再び戻って来るだろう。

 厄介な事だ・・・・・・。
 謙信は頭を抱えた。

 取り敢えず河田長親に魚津城を与え、越中の守りを任せる。

「任せたぞ」
 そう謙信が告げると、ハハッ、と長親は頭を下げる。

 かつての美貌の寵童も既に三十路手前。
 手を汚している為か、顔に渋みや苦みが見える。
 だがそのくらいの方が、城主になるなら丁度良い。


 越後に戻ると、直江景綱がすぐに報告に来た。
「織田より、使者が参っております」
 会おう、と言って謙信は引見する。

 織田からの使者は牛田行正という者だった。
 四十過ぎの実直そうの男である。
「門徒どもには我らも手を焼いております」
 そう行正は告げた。

 織田信長の周辺は、この数年で激変している。
 足利義昭を奉じて上洛したのに、その義昭と対立し、更に妹婿の浅井長政とも敵対しているのだ。
 自分たちだけでは信長に勝てないと思った義昭は、武田信玄に助太刀を頼む。
 しかし信玄は甘い男でない。
 今、信長には勢いがある。正面から戦うのは避けたい。
 そこで謙信に使ったのと同じ手を使う。
 本願寺の門主、顕如を動かし、門徒の一揆を起こさせたのだ。
 これには流石の信長も手こずっている。

「門徒どもと戦うのに手を組みたいと?」
 景綱が問うと、はい、と行正は答える。
「それだけ・・・・・ですか?」
 意味深な景綱の問いに、分かっているのかいないのか、鈍い表情で行正は、はい、と応じる。

 あくまで門徒との戦いで手を結ぶ。しかしその元凶である信玄とは事を構えない。
 そういう事だ。
 

 武田信玄と織田信長の関係は微妙だ。
 敵対はしていない。そんなところだ。

 信玄は義昭の命を受け、上洛し信長を討つと公言している。
 しかし口でそう言っているが、実際の動きは違う。
 信玄は甲斐信濃、そして駿河を領有している。
 義昭からすれば、信濃から織田の本拠地がある美濃を攻めて欲しい筈。それなのに信玄が攻めているのは遠江なのである。

 それに信玄は、嫡子義信を処刑した後、跡継ぎを庶子で諏訪家に養子に出した四男、諏訪四郎の息子にしている。
 三つかそこらの、それも嫡孫でも無い孫を跡継ぎにした理由は、誰の目に明らかだ。
 その孫の母親が、信長の姪で養女なのである。
 つまり自分の跡継ぎは信長の血筋であると、周囲にそして信長に見せているのだ。

 信玄は信長と事を構える気はない。そしてそれは信長の方も同じである。
 信長としても今、信玄に美濃を攻撃されれば一巻の終わりだ。
 なんとしてそれだけは避けたい。

 だからあくまで門徒との戦いの共闘であり、信玄と直接戦うというのでないという事だ。

 うむ、と謙信は呟く。
 険しい顔を牛田行正に見せているが、謙信もそれは望むところだ。

 北信濃は落ち付いているし、上野も静かだ。
 無理に戦さをしたくは無い。

 それに何より、信玄の目が遠江に向いているのは助かる。
 戦さ場での駆け引きなら信玄など敵ではないが、謀になると謙信は何度もしてやられている。
 その謀の矢面に立ちたくはない。

 目で景綱に合図を送る。
「分かりました、しばしお待ちくだされ」
 そう景綱が言うと、牛田行正が退がる。



「取り敢えず、手を結ぼう」
 承知しました、と謙信の言葉に景綱が頷く。
「少し鉄砲と玉薬を融通して貰っておけ」
 続けて山吉豊守に言うと、ハハッ、と応じる。
 しかし・・・・・と景綱が硬い表情で告げる。
「公方さまが良い顔をしませぬよ」
 その通りだ。
 足利公方義昭にすれば、信長を討つために信玄に加勢を頼んでいる。
 それなのに謙信は、信長と手を結ぼうとしている。
 義昭とすれば、許せぬ話だろう。

「困ったもだ」
 はぁ、と謙信が溜息を吐くと、
「ではこうされては、いかがでしょうか」
 と景綱が言う。
「公方さまに我らと武田の、和睦をお願いするのです」
「・・・・・・・」
 謙信は眉を寄せる。
「我らとは和睦をしているので、信玄入道は安心して織田を討てると公方さまに言うのです」
 ふっ、と謙信は鼻で笑う。
「二股を掛けろと言うのか?」
「あくまで我らは、門徒と戦さをするだけです」
 なるほどね、と謙信は腕を組む。
 
 悪く無い。
 大義名分は立つし、信玄も信長も文句は言わぬだろう。
 しかし・・・・・・。
「どっちにしろ、公方さまは怒るぞ」
「上方の風向きはよく変わります」
 確かに景綱の言う通りだ。ついこの間まで、信長と義昭の関係はそれこそ蜜月だった。
 それがいきなり追討されている。
「ここはこのぐらいが宜しいかと・・・・・・」
 うむ、と謙信は呟く。

 少し思案した後、
「分かったそれでいこう」
 と謙信が命じると、承知しました、と景綱が頭を下げた。
 
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