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信玄没す
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謙信は越後に戻った。
関東の方は読み通り、氏政は動かなかった。やはりまだ家中を纏めきれていいないらしい。
しかしいずれは、上野に攻めてくるだろう。
こちらも準備を整えねばならない。
関東出陣の準備を終えて、一段落したある夜、
「酒をもて」
と小姓の安田景元の息子の弥九郎に命じた。
はぁ、と謙信は溜息を吐く。
謙信も四十三。戦さ場を駆け回るのも、国を行き来するのも疲れる年だ。
弥九郎が酒を運んで来た。謙信は杯を持ち上げる。
「お注ぎすれば宜しいのですかな?」
その声を聞いて、謙信はギョとする。
亡くなった長野業正のものだったらかだ。
ハッとして謙信は相手を見る。
「お前は・・・・段蔵」
そこに居たのは弥九郎では無く、飛び加藤こと加藤段蔵であった。
「何をしておる?弥九郎はどうした?」
「疲れておるようだったので、わしが代わってあげたのですよ」
その場にどかりと段蔵は座る。
「なぜここにおる?」
段蔵は甲斐にいるはずだ。
「暇を出されまして・・・・」
懐からお猪口を取り出し、勝手に酒を飲み始める。
「暇?」
謙信は眉を寄せた。
「お前がわしの密偵だと、信玄に気づかれたのか?」
ハハハハハッ、と段蔵は笑う。
「そんなものはなから、武田の御屋形さまはご存知ですよ」
その言葉に謙信は戸惑う。
では段蔵の寄越した、武田が駿河に攻めるという書状は、信玄の承知済みと言うことか?
確かに考えてみれば、信玄の目的はあくまで北条氏康と今川氏真が油断させること。謙信が本庄繁長に攻めることを決断したくれた方が、安心して駿河に攻められる。
むむむっ、と唸る。
信玄の謀の巧妙さに、謙信は言葉も出ない。
しかし・・・・・。
「なぜ今更、暇を出された?」
「そう、それですがねぇ」
酒を呑みながら、軽い調子で段蔵が答える。
「武田の御屋形さまが、亡くなったのですよ」
「・・・・・・・えっ?」
謙信の驚きを他所に、クイっと段蔵が酒を呑む。
「今、なんと申した」
「ですから、武田の信玄入道が亡くなったのです」
「まっ、まっまこ」
「まことでござる」
謙信が言う前に、段蔵が答える。
まさかと思ったが、同時に確かにとも納得出来た。
遠江三河に攻め込んだ武田軍の様子が、明らかに変だったのだ。
戦さに勝ったのに、兵を引いたのである。
「死んだ・・・・?」
「ええっ、病で」
「それで・・・・それで?」
「それで・・・・・と申されましても」
段蔵はわざとらしく首を傾げる。
確かにその通りだ。
「まぁ、そうだが」
「信玄入道は、自分が死んだ事を三年隠せと命じたそうです」
段蔵が酒を呑みながら告げる。
そうか、と謙信は呟く。
いかにも信玄らしい指示だと、謙信は思う。
段蔵が報せてくれなければ、三年武田が動かなくても、何か信玄の謀なのではないかと、謙信をはじめ周囲の諸侯は疑うだろう。
死してなお、厄介な相手だ。
関東の方は読み通り、氏政は動かなかった。やはりまだ家中を纏めきれていいないらしい。
しかしいずれは、上野に攻めてくるだろう。
こちらも準備を整えねばならない。
関東出陣の準備を終えて、一段落したある夜、
「酒をもて」
と小姓の安田景元の息子の弥九郎に命じた。
はぁ、と謙信は溜息を吐く。
謙信も四十三。戦さ場を駆け回るのも、国を行き来するのも疲れる年だ。
弥九郎が酒を運んで来た。謙信は杯を持ち上げる。
「お注ぎすれば宜しいのですかな?」
その声を聞いて、謙信はギョとする。
亡くなった長野業正のものだったらかだ。
ハッとして謙信は相手を見る。
「お前は・・・・段蔵」
そこに居たのは弥九郎では無く、飛び加藤こと加藤段蔵であった。
「何をしておる?弥九郎はどうした?」
「疲れておるようだったので、わしが代わってあげたのですよ」
その場にどかりと段蔵は座る。
「なぜここにおる?」
段蔵は甲斐にいるはずだ。
「暇を出されまして・・・・」
懐からお猪口を取り出し、勝手に酒を飲み始める。
「暇?」
謙信は眉を寄せた。
「お前がわしの密偵だと、信玄に気づかれたのか?」
ハハハハハッ、と段蔵は笑う。
「そんなものはなから、武田の御屋形さまはご存知ですよ」
その言葉に謙信は戸惑う。
では段蔵の寄越した、武田が駿河に攻めるという書状は、信玄の承知済みと言うことか?
確かに考えてみれば、信玄の目的はあくまで北条氏康と今川氏真が油断させること。謙信が本庄繁長に攻めることを決断したくれた方が、安心して駿河に攻められる。
むむむっ、と唸る。
信玄の謀の巧妙さに、謙信は言葉も出ない。
しかし・・・・・。
「なぜ今更、暇を出された?」
「そう、それですがねぇ」
酒を呑みながら、軽い調子で段蔵が答える。
「武田の御屋形さまが、亡くなったのですよ」
「・・・・・・・えっ?」
謙信の驚きを他所に、クイっと段蔵が酒を呑む。
「今、なんと申した」
「ですから、武田の信玄入道が亡くなったのです」
「まっ、まっまこ」
「まことでござる」
謙信が言う前に、段蔵が答える。
まさかと思ったが、同時に確かにとも納得出来た。
遠江三河に攻め込んだ武田軍の様子が、明らかに変だったのだ。
戦さに勝ったのに、兵を引いたのである。
「死んだ・・・・?」
「ええっ、病で」
「それで・・・・それで?」
「それで・・・・・と申されましても」
段蔵はわざとらしく首を傾げる。
確かにその通りだ。
「まぁ、そうだが」
「信玄入道は、自分が死んだ事を三年隠せと命じたそうです」
段蔵が酒を呑みながら告げる。
そうか、と謙信は呟く。
いかにも信玄らしい指示だと、謙信は思う。
段蔵が報せてくれなければ、三年武田が動かなくても、何か信玄の謀なのではないかと、謙信をはじめ周囲の諸侯は疑うだろう。
死してなお、厄介な相手だ。
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