私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  喜平次景勝

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 利根川を挟んで北条氏政が隙も乱れも無い陣形で、しっかり守っている。
 容易に攻める事が出来ない。

 如何する?

 いつもの謙信だったら、ここで無理矢理攻める。
 
 戦さに必要な事は賢さではない。
 度胸だ。腹を据える度胸だ。
 所詮戦さなど、損得勘定で計れば無駄な事。
 その無駄な事を押し通す度胸。
 それが大将に必要なものだ。
 そしてそれを謙信は持っている。

 しかし謙信は、今回攻撃をかけない。

 理由は二つある。

 一つは小島貞興がいない事だ。
 謙信が戦さ上手と言われているのは、無理な攻撃をしかけるからだ。
 そして無理な攻撃が行えたのは、越後の鬼と呼ばれた勇士、小島弥太郎貞興がいたからである。
 謙信の采配は、一騎当千の勇士、貞興をどう暴れさせるかにある。
 貞興が思う存分暴れればその戦さは勝てるし、貞興を活かしきれなければその戦さは負ける。
 そう言っても良いくらいだ。

 その越後の鬼も寄る年波には勝てず、隠居してしまった。
 貞興が居なければ、謙信も躊躇してしまう。




 そしてもう一つ、謙信が攻撃しない理由がある。

「喜平次・・・・・如何見る?」
「・・・・隙の無い陣です」
 謙信の問いかけに甥で養子の、長尾喜平次景勝は静かに答える。

 此度の戦さ、謙信は景勝を伴った。
 理由は信玄が死んだからである。
 信玄が死んだから景勝を伴っても、越後で妙な事が起き無いと思ったからだ。
 留守はもう一人の養子の、長尾三郎景虎と宿老の直江景綱、柿崎景家に任せている。

「如何攻める?」
「・・・・・・無理に仕掛けず、じっくりと腰を据えるべきかと思います」
 景勝の答えに、ふむ、と謙信は頷く。

 景勝を伴ったのは、実際の戦さを見せて、如何考えるか確かめたかったのである。
 そしてそれは謙信から見れば、面白くない考えだ。

 確かに景勝の言うことは正しい。無理をしても勝てはしない。
 しかしそれでは見合っているだけだ。
 景勝の答えに満足はしないが、それでもそれを取り上げ、攻めない事にした。

 信玄が死んだ時、自分より十歳上ということを、謙信は少し考えてしまった。
 単純に自分が十年後に死ぬとは思わない。
 それでも十年で、何をどの程度やるかというのは、如何しても考えてしまう。

 そして周りの事も考える。

 北条氏政は謙信より八つ年下で、武田勝頼は十五年下だ。
 別に謙信が先に死ぬとは限らないが、やはりそう考えてしまう。
 景勝は謙信より二十五下で、まだ十六である。
 謙信亡き後、彼らとの戦いが待っている。
 だから出来るだけ、戦さを見せて、戦さに触れさせたいのだ。

 十六の若者にしては、景勝は慎重すぎる。
 もっと決起盛んである方が、謙信としては好ましい。
 間違ってはいないがつまらない。

「そうか・・・・そうだな」
 謙信は呟いて景雄を見つめた。
 少し暗い目で、こちらの様子を窺っている。
「では、じっくり構えるか・・・・・・・」
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