152 / 167
山崎専柳斎秀仙
しおりを挟む
ううううううっ、と謙信は頭を抱える。
謙信にとって青苧の商いは、絶対に維持せねばならぬものだ。
そしてそれを売るのは、上方が一番なのである。
信長が送ってきた屏風を思い出す、そこには人が行き交い活気に溢れる京が描かれていた。
その京に青苧を売るのが、最良である。
親綱もまったく売れないとは言っていない。
売れなくなって来ていると言っているのだ。
どうする?
数を減らしては、と親綱は言った。
しかしそれが根本的な解決で無いことは、謙信にも分かる。
青苧が売れることを前提に、謙信は今まで国を治めてきた。
それを減らすわけにはいかない。
ならもう一つの策・・・・・・。
西国に売る。毛利と手を結ぶ。
しかしそうなれば信長が黙っていない。
謙信も信玄と同じで、信長と事を構えたくない。
信長には勢いがある。勢いがある者と勢いがある時に戦うのは、ただの馬鹿だ。
今相手にする事はない。
その勢いが弱まった時に、叩けば良い。
そうしたい。
だがこちらの都合で、物事は動かない。
最善の道を、決していつも選べるわけではない。
悩む。
いま青苧の商いで稼いだ銭は、その殆どを越中の河田長親率いる浪人衆の為に使っている。
浪人を雇うだけではない。鉄砲を買い揃え、玉薬を用意するに多くの銭を使っているのだ。
そしてその鉄砲を使い、加賀越前の門徒たちと戦っている。
だが毛利と結べば、本願寺との和睦を進めることができる。
そうすれば銭がいらなくなる。
しかしそうなれば、織田との対決は避けられない。
悩む。
が、本庄繁長が裏切った時の事を、謙信は思い出す。
散々悩んだ挙句、評定まで開いて上手くいかなかった。
結局悩んだところで、決断するしかない。
上手くいくかどうかは、神のみぞ知るだ。
よし、と謙信は決断した。
「安芸に向かってくれ」
謙信は山吉豊守に命じた。
信長と手を切り、毛利と結ぶことにしたのである。
「承知・・・・ゴホォゴホォ・・・しました」
咳き込みながら豊守が応える。
「・・・・・大丈夫か?」
「あっ、はい・・・・」
穴でも開いているのか、胸を押さえてゼイゼイヒュウヒュウと嫌な音をさせる。
取り次ぎ衆として他国に赴き、色々な交渉を行って謙信を支えてきた山吉豊守も、既に五十。
病にかかるとすぐには治らぬらしい。
「殿」
直江景綱が口を挟む。
「山崎専柳斎どのに任せてみては、いかがでしょうか?」
そうだな、と謙信は呟く。
山崎専柳斎秀仙は儒学者で、食客として春日山城にいる。
元々は常陸の佐竹家の食客だった。使者として越後にやって来て、そのまま居着いているのである。
儒学者や禅僧というのは、教養があり弁が立つ。彼らは諸国を周り、諸侯に食客として仕え、他国との交渉を任せられる者が多い。
「分かった、専柳斎に任せてみよう」
「・・・・・・申し訳ありませぬ」
豊守が頭を下げる。
真面目な男だ。謙信が命ずると、どんな難題でも一生懸命取り組む。
優れた智略があるわけでは無いが、その真面目さが謙信も、そして周りの者の好むところである。
「しっかり養生しておけ」
謙信はそう告げた。
お前は必要な男なのだから。
謙信にとって青苧の商いは、絶対に維持せねばならぬものだ。
そしてそれを売るのは、上方が一番なのである。
信長が送ってきた屏風を思い出す、そこには人が行き交い活気に溢れる京が描かれていた。
その京に青苧を売るのが、最良である。
親綱もまったく売れないとは言っていない。
売れなくなって来ていると言っているのだ。
どうする?
数を減らしては、と親綱は言った。
しかしそれが根本的な解決で無いことは、謙信にも分かる。
青苧が売れることを前提に、謙信は今まで国を治めてきた。
それを減らすわけにはいかない。
ならもう一つの策・・・・・・。
西国に売る。毛利と手を結ぶ。
しかしそうなれば信長が黙っていない。
謙信も信玄と同じで、信長と事を構えたくない。
信長には勢いがある。勢いがある者と勢いがある時に戦うのは、ただの馬鹿だ。
今相手にする事はない。
その勢いが弱まった時に、叩けば良い。
そうしたい。
だがこちらの都合で、物事は動かない。
最善の道を、決していつも選べるわけではない。
悩む。
いま青苧の商いで稼いだ銭は、その殆どを越中の河田長親率いる浪人衆の為に使っている。
浪人を雇うだけではない。鉄砲を買い揃え、玉薬を用意するに多くの銭を使っているのだ。
そしてその鉄砲を使い、加賀越前の門徒たちと戦っている。
だが毛利と結べば、本願寺との和睦を進めることができる。
そうすれば銭がいらなくなる。
しかしそうなれば、織田との対決は避けられない。
悩む。
が、本庄繁長が裏切った時の事を、謙信は思い出す。
散々悩んだ挙句、評定まで開いて上手くいかなかった。
結局悩んだところで、決断するしかない。
上手くいくかどうかは、神のみぞ知るだ。
よし、と謙信は決断した。
「安芸に向かってくれ」
謙信は山吉豊守に命じた。
信長と手を切り、毛利と結ぶことにしたのである。
「承知・・・・ゴホォゴホォ・・・しました」
咳き込みながら豊守が応える。
「・・・・・大丈夫か?」
「あっ、はい・・・・」
穴でも開いているのか、胸を押さえてゼイゼイヒュウヒュウと嫌な音をさせる。
取り次ぎ衆として他国に赴き、色々な交渉を行って謙信を支えてきた山吉豊守も、既に五十。
病にかかるとすぐには治らぬらしい。
「殿」
直江景綱が口を挟む。
「山崎専柳斎どのに任せてみては、いかがでしょうか?」
そうだな、と謙信は呟く。
山崎専柳斎秀仙は儒学者で、食客として春日山城にいる。
元々は常陸の佐竹家の食客だった。使者として越後にやって来て、そのまま居着いているのである。
儒学者や禅僧というのは、教養があり弁が立つ。彼らは諸国を周り、諸侯に食客として仕え、他国との交渉を任せられる者が多い。
「分かった、専柳斎に任せてみよう」
「・・・・・・申し訳ありませぬ」
豊守が頭を下げる。
真面目な男だ。謙信が命ずると、どんな難題でも一生懸命取り組む。
優れた智略があるわけでは無いが、その真面目さが謙信も、そして周りの者の好むところである。
「しっかり養生しておけ」
謙信はそう告げた。
お前は必要な男なのだから。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助
蔵屋
歴史・時代
わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。
何故、甲斐国なのか?
それは、日本を象徴する富士山があるからだ。
さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。
そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。
なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。
それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。
読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。
影武者の天下盗り
井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」
百姓の男が“信長”を演じ続けた。
やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。
貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。
戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。
炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。
家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。
偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。
「俺が、信長だ」
虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。
時は戦国。
貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。
そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。
その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。
歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。
(このドラマは史実を基にしたフィクションです)
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる