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柴田勝家
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「殿・・・・・・」
いつもの陰気な顔で、千坂景親が報告に来た。
「敵の兵を捕らえました」
そうか、よくやった、と謙信は頷く。
加賀に入り、織田との戦さの支度をする。
どう攻めるか、謙信は考えた。
奇襲、夜襲を仕掛けるか、或いは誘き出し、伏兵で始末するか。
どちらにしろ地形と敵の動きが分からなければ、話にならない。
そこで景親に命じ、四方に斥候を走らせ、地形と敵の動きを探らせていたのだ。
「ここに連れてこい」
謙信が言うと、黙って頭を下げ景親は退がる。
少しすると、景親とは対照的な満面の笑みを浮かべ、小島弥太郎一忠がやって来た。
「お殿さま、捕まえてきたよ」
縄で縛った男を突き出し、一忠は告げる。
「よくやった、弥太郎」
謙信が褒めると、十四歳の弥太郎は、えへへっと少年の顔で笑う。
「さて・・・・・・」
謙信は縛られた男を眺める。泥だらけで膝と肩に傷を負っていた。
「織田はどの辺りまで来ておる?」
あっ・・・・あっ、と震えながら、男は声を漏らす。
くくっ、と笑い、一忠が男の怪我をしている膝を蹴った。
ぐわっ、と呻いて男はその場に倒れる。
一忠は更に、傷を負っている男の肩を、ぎゅうぎゅうと踏み付けていく。
「ぐぁああああっ、ああああっ」
男は叫び声を上げた。
「やめい、弥太郎」
謙信が命じると、一忠は一応止める。しかし納得していないのか、何故?と言うように、キョトンとした顔で、首を傾げた。
「どこにいる?」
「手取川の手前に・・・・」
男は早口に答えた。
そうか、と謙信は頷く。
「数はどのくらいおる?」
「そ、それは・・・・・・」
ニコニコと微笑む一忠を見て、男はすぐに答える。
「よ、四万、四万ほどおります」
「四万か・・・・・」
思わず謙信は声を上げる。
織田は羽振りがよく、銭をばら撒いて浪人たちを集めていると聞いていたが、こんな戦さの後詰めに四万もの大軍とは予想外だ。
こちらは河田長親の浪人隊を中心に、越中能登の地侍を加えた一万五千程度。
「多いなぁ・・・・・」
謙信がそう呟くと、あっ、あっ・・・と男が声を漏らす。
「何か隠しておるな?」
そう問うと、男は慌てて顔を伏せた。
今度こどはと、一忠が肩を踏みつけようとする。
「じ、実は・・・・」
踏まれる前に、男は口を割る。
「羽柴さまが、奉行の羽柴さまが、引こうと・・・・・」
「なに?」
コクコクと男は頷く。
「城が落ちたのだから能登に行っても意味が無い、だから引き揚げましょうと・・・・・」
まぁそうだろう、普通考えればそうだ。
「しかし大将の柴田さまが引かぬと・・・・・」
「なぜだ?」
さぁ、と男は首を傾げる。
「それで柴田さまが、嫌なら帰れ、と言ったので、羽柴さまは仕方なく引き揚げたのです」
ふむ、と謙信は顎に手をやる。
考えてみれば、浅倉や上杉の家中に派閥争いがあるのなら、織田にもあるはずだ。
おそらく奉行である羽柴とやらは、戦さ手伝いでやって来ただけなのだろう。
別に勝っても、手柄は柴田勝家のものになる。無理をして戦う必要はない。
しかし勝家の方は、武将だから奉行の仕事で手柄は立てられない。戦さしかできないのだ。
だから無理をしてでも、戦さしたがる。
そんなところだろうか。
しかし・・・・・・・。
謙信は男の顔をジッと見る。
男は思わず顔を伏せた。
一忠が何かしようとするの手で制し、謙信は声を掛ける。
「わしらと戦さをするのは嫌か?」
「あっ・・・・・あっ」
男は顔を上げた。
「お前さんの顔に、羽柴とやらと一緒に帰りたいと書いておるぞ」
そう謙信が言うと、はぁ、と男は息を吐く。
「越後には、人を喰う鬼がいると聴いております・・・・それで・・・・」
ふふっ、と謙信は苦笑する。
鬼は居たがもう居ないし、人も喰わない。
「戦さをしとうないです」
「お前さんだけか?」
男は首を振る。
「皆にございます」
そうか、と頷くと、謙信は一忠の方に顔を向ける。
「放してやれ」
えっ?と目を大きく見開いて、一忠は驚く。
「敵なのでしょう?殺すのではないのですか?」
よい、と眉を寄せて謙信は首を振る。
不満げに口を尖らせるが、一忠は男の縄を解く。
男は、あああっ、と呻き、走って逃げる。
あの様子なら織田の陣に帰って、越後には恐ろしい小鬼がいると、一忠の事を言いふらすだろう。
そうなれば織田勢は更に浮き足立つ。
いつもの陰気な顔で、千坂景親が報告に来た。
「敵の兵を捕らえました」
そうか、よくやった、と謙信は頷く。
加賀に入り、織田との戦さの支度をする。
どう攻めるか、謙信は考えた。
奇襲、夜襲を仕掛けるか、或いは誘き出し、伏兵で始末するか。
どちらにしろ地形と敵の動きが分からなければ、話にならない。
そこで景親に命じ、四方に斥候を走らせ、地形と敵の動きを探らせていたのだ。
「ここに連れてこい」
謙信が言うと、黙って頭を下げ景親は退がる。
少しすると、景親とは対照的な満面の笑みを浮かべ、小島弥太郎一忠がやって来た。
「お殿さま、捕まえてきたよ」
縄で縛った男を突き出し、一忠は告げる。
「よくやった、弥太郎」
謙信が褒めると、十四歳の弥太郎は、えへへっと少年の顔で笑う。
「さて・・・・・・」
謙信は縛られた男を眺める。泥だらけで膝と肩に傷を負っていた。
「織田はどの辺りまで来ておる?」
あっ・・・・あっ、と震えながら、男は声を漏らす。
くくっ、と笑い、一忠が男の怪我をしている膝を蹴った。
ぐわっ、と呻いて男はその場に倒れる。
一忠は更に、傷を負っている男の肩を、ぎゅうぎゅうと踏み付けていく。
「ぐぁああああっ、ああああっ」
男は叫び声を上げた。
「やめい、弥太郎」
謙信が命じると、一忠は一応止める。しかし納得していないのか、何故?と言うように、キョトンとした顔で、首を傾げた。
「どこにいる?」
「手取川の手前に・・・・」
男は早口に答えた。
そうか、と謙信は頷く。
「数はどのくらいおる?」
「そ、それは・・・・・・」
ニコニコと微笑む一忠を見て、男はすぐに答える。
「よ、四万、四万ほどおります」
「四万か・・・・・」
思わず謙信は声を上げる。
織田は羽振りがよく、銭をばら撒いて浪人たちを集めていると聞いていたが、こんな戦さの後詰めに四万もの大軍とは予想外だ。
こちらは河田長親の浪人隊を中心に、越中能登の地侍を加えた一万五千程度。
「多いなぁ・・・・・」
謙信がそう呟くと、あっ、あっ・・・と男が声を漏らす。
「何か隠しておるな?」
そう問うと、男は慌てて顔を伏せた。
今度こどはと、一忠が肩を踏みつけようとする。
「じ、実は・・・・」
踏まれる前に、男は口を割る。
「羽柴さまが、奉行の羽柴さまが、引こうと・・・・・」
「なに?」
コクコクと男は頷く。
「城が落ちたのだから能登に行っても意味が無い、だから引き揚げましょうと・・・・・」
まぁそうだろう、普通考えればそうだ。
「しかし大将の柴田さまが引かぬと・・・・・」
「なぜだ?」
さぁ、と男は首を傾げる。
「それで柴田さまが、嫌なら帰れ、と言ったので、羽柴さまは仕方なく引き揚げたのです」
ふむ、と謙信は顎に手をやる。
考えてみれば、浅倉や上杉の家中に派閥争いがあるのなら、織田にもあるはずだ。
おそらく奉行である羽柴とやらは、戦さ手伝いでやって来ただけなのだろう。
別に勝っても、手柄は柴田勝家のものになる。無理をして戦う必要はない。
しかし勝家の方は、武将だから奉行の仕事で手柄は立てられない。戦さしかできないのだ。
だから無理をしてでも、戦さしたがる。
そんなところだろうか。
しかし・・・・・・・。
謙信は男の顔をジッと見る。
男は思わず顔を伏せた。
一忠が何かしようとするの手で制し、謙信は声を掛ける。
「わしらと戦さをするのは嫌か?」
「あっ・・・・・あっ」
男は顔を上げた。
「お前さんの顔に、羽柴とやらと一緒に帰りたいと書いておるぞ」
そう謙信が言うと、はぁ、と男は息を吐く。
「越後には、人を喰う鬼がいると聴いております・・・・それで・・・・」
ふふっ、と謙信は苦笑する。
鬼は居たがもう居ないし、人も喰わない。
「戦さをしとうないです」
「お前さんだけか?」
男は首を振る。
「皆にございます」
そうか、と頷くと、謙信は一忠の方に顔を向ける。
「放してやれ」
えっ?と目を大きく見開いて、一忠は驚く。
「敵なのでしょう?殺すのではないのですか?」
よい、と眉を寄せて謙信は首を振る。
不満げに口を尖らせるが、一忠は男の縄を解く。
男は、あああっ、と呻き、走って逃げる。
あの様子なら織田の陣に帰って、越後には恐ろしい小鬼がいると、一忠の事を言いふらすだろう。
そうなれば織田勢は更に浮き足立つ。
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