私訳戦国乱世  クベーラの謙信

zurvan496

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  景虎と景勝

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 加賀国の手取川で織田との戦さを終えると、謙信は越後に戻った。
 能登の畠山家の子息を、人質として連れてである。
 これで織田と本格的な戦さになっても、能登はこちらのものだ。
 加賀から織田が攻めてきても、越中と能登で挟み撃ちにできる。
 ますはひと段落である。

 越後に戻ると、謙信は二人の養子を部屋に呼んだ。
 三郎景虎と喜平次景勝である。

 対照的な二人だ。

 景虎は痩せてスラリとしている。
 顔も色白で細面、品もあり色気すらあった。
 一方の景勝は色黒で、顎の張った四角い顔をしている。
 肩幅が広く、ずんぐりとした体つきをしていた。

 性格も違う。
 景勝は無口で、何を考えているのか謙信も周りの者も、今一つよく分からない。
 景虎の方は陽気と言うことはないが、人当たりは良い。
 そして徳というと大袈裟だが、人を惹きつける何かがある。

 北条の人間である景虎を、家中の者の中に警戒するものが幾人もいる。
 そして断固として景虎を赦さない者もいた。
 謙信の名目上の主君であり養父である、前の関東管領上杉憲政である。
 憲政からすれば当然だ。景虎の父氏康は、憲政を攻めたて関東から追い出し、その息子を手にかけている。
 到底、景虎を受け入れることなど出来ない。
 
 謙信が北条と手を結んだ時、憲政は怒り狂ったし、景虎を養子に迎えたと知ると、今すぐ首を切れと言って来た。
「三郎は悪い奴ではありませぬ、光徹(出家後の憲政の号)さまもお会いになればわかります」
 そう謙信は憲政を宥めた。
 嫌がる光徹こと憲政に、景虎を会わせると、
「まぁ・・・・・彼奴が悪いわけではないからな・・・・」
 と簡単に心変わりし、あっさりと赦してしまった。
 景虎には何か、その美貌だけでなく、人を惹きつける魅力がある。


 そして戦さ場での働きも対照的だ。
 北条との戦さに、謙信は何度か景雄を伴っている。
「如何攻める?」
 度々謙信は尋ねるのだか、景雄の答えはいつも同じで、
「じっくり腰を据えて攻めるべきかと・・・・」
 である。

 景勝が正しい、相手が固く守っているのだ。無理に攻めることは無い。
 しかし謙信からすれば、面白みの無い戦さだ。

「喜平次はつまらぬ」
 そう謙信がこぼすと、斎藤朝信などは、いえいえ、と首を振る。
「喜平次さまは、大した大将でございます」
 朝信や甘粕景持ら将兵には、景雄を買っている者が多い。
 城ではムスッとして愛想は無いが、戦さ場に出れば冷静沈着で的確な指示を出す。
 将兵にすれば、優れた大将なのだろう。
 しかし謙信にすれば、少し物足りない。
 若いのだから、向こうみずな事を言うくらいの方が可愛げがある。

 そういうことを言えば、
「殿は堪え性がなさ過ぎです」
 と朝信が答える。
 朝信らにすれば、謙信の方が大将としていかがなものかと言うくらいだ。

 大将が討ち取られば、いかにこちらが優勢でも戦さは負けだ。
 後ろに隠れて居ろとは言わないが、あまり前に出て欲しく無いのだろう。
 何かと言えば前に出て、速戦、力攻めの謙信より、冷静沈着で腰の重い景勝の方が将兵は安心すると言うことだ。

 対して景虎である。
 一度だけ、越中の戦さに伴ったが、まぁ酷いものであった。
 初陣と言うこともある。門徒との凄惨な戦さということもある。
 しかし終始青白い顔をして、何度も、
「失礼します」
 と言っては、陰でゲェゲェ吐いていたのだ。
 いかに言ってもだらしなさ過ぎる。
 
 景勝の時の様に、
「如何攻める?」
 などと尋ねる気にはまったくなれなかった。

 こいつは駄目だな、使い物にならぬ、と謙信は匙を投げた。
 


 戦さは駄目だが、侍として景虎は景勝に勝っているところが一つある。
 子を産む力だ。
 正しく言えば、女子に子を産ませる、孕ませる力だ。
 謙信が言うのも妙だが、侍として、一家の主人として、もっと言えば男として、それは最も重要な力かも知れない。
 景虎は謙信の姪で景勝の姉である華との間に、一男一女をもうけている。
 更に側室との間にも娘がおり、まさに子を産ませることにかけては、なんの問題も無い。
 
 一方の景勝は二十歳を過ぎているのに、妻も娶らず側室も置かない。
 衆道の気があるのか、幼い頃から仕えている小姓だけを側に置き、他人を近づけない。

 謙信の姉であり景勝の母である綾は、心配して、
「どうにかなりませぬか?」
 と謙信に相談するのだが、謙信こそ、五十を過ぎても独り身である。
「まぁ、放っておけば良いのでは・・・・」
 としか答えようがない。

 母親である綾にすれば困った事だが、養父であり主君である謙信からすれば、景虎が子を産んでいるので何の問題もない。


 謙信の二人の養子、三郎景虎と喜平次景勝は、そんな若者だ。

 
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