佐々木と吉田     最も安い人気漫画の作り方編

zurvan496

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自分たちのモノ感を売る

 最も安い人気漫画の作り方

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「あのさぁ・・・・・」
「はい」
「大した話じゃ無いんだけどさぁ」
 その佐々木史朗の言葉に、吉田郷太はクククッと笑い、
「先輩が大した話なんか、した事ないじゃないですか」
と応える。
 うるせい、と佐々木は口を尖らせた。

「それで?」
「昔さぁ、十年か十五年前・・・・」
 首を傾け、佐々木が少し上を向く。
「まだぶらぶらしていた時」
「ぶらぶらしてましたよねぇ・・・」
「いいだろ、今はしてないんだから」
「先輩」
 グイと吉田は顔を突き出す。
「働くのが普通」
「ああ、そうか」
 はははっと佐々木が笑う。

「それで?」
「十年か十五年前にさぁ、家に居て」
「はいはい」
「その・・・・テレビ観てたのね、暇だから」
「はい」
「そしたらアニメやっててね」
「はぁ」
「あっ、アニメやってる、って思って、観てたのね」
「珍しいですね」
 ほんの少し驚いた顔を吉田は向ける。
「アニメとか観ないじゃないですか」
「いや・・・・」
 ニヤリと佐々木は笑う。
「パチンコ行く金が無かったから」
「はははっ、最低だ」


「でね」
「はい」
「パチンコ行く金が無いから、暇でアニメ観てたのね」
「はいはい、人間の屑がアニメ観てたんですね」
「そうそう、人間の屑が・・・うるさいわ」
 吉田が振ると、佐々木が一応のノリツッコミを返す。

「で、そのアニメが男の子が二人で漫画家を目指す、っていうアニメだったのね」
「ああ、はいはい、ありましたねそういうの、て言うかあれもそんなに昔になりますか」
 耳を掻きながら、
「時が経つのは早いですなぁ」
と吉田は呟く。
「それでさぁ・・・・・・話知っている?」
「いや」
 吉田は眉を寄せた。
「絵は浮かぶんですけどねぇ・・・・ちゃんと読んだことないし、アニメも観たことないですねぇ」
「そうか」


「それでね」
「はい」
「そのアニメ見てたんだけど、それがその・・・まぁ・・・俺が観た回が一話目じゃなくてさぁ」
「はい」
「十話か二十話か三十話か分かんないけど、もうだいぶ進んでて、主人公はプロの漫画家になってたのね」
「はいはいはい」

「でね」
 佐々木は首を揉む。
「その漫画雑誌で一番の漫画家を目指そう・・・・みたいな話なのね」
「はい」
「その漫画雑誌が」
「はい」
「週刊少年ナニガシがね」
「何某がね」
 はははっ、と吉田は笑う。
「雑誌にアンケートハガキが付いてて」
 佐々木が指で四角を作る。
「それを読者が送って」
 スッと佐々木は手を伸ばす。
「一位からドベまで決めて」
 両手を広げる。
「一位が巻頭」
 右手を振る。
「ドベが巻末」
 左手を振る。
「ドベが続くと打ち切り」
 左手を振り続ける。
「みたいなシステムなのね」
「はい、そうですね、知ってます」
 少し笑いながら吉田が頷く。

「それでさぁ」
「はい」
「そのアニメで言ってたんだけど」
 今度は右手を振る。
「一位が大体二百票らしいのね」
「そうすか・・・・・えっ?」
 一瞬、流しそうになったが、吉田は軽く驚く。
「えっ?二百票、えっ?えっ?本当ですか?少なくないですか?」
「本当本当」
 佐々木がカクカクと首を振る。
「俺もそのシーンで、えっ?二百票って驚いたのね」
「えええっ、信じられん」


「でね」
「はい」
「漫画雑誌ってさぁ、大体二百円くらいじゃ」
「そうですね」
「買った事ないけど」
「ないんかい」
 軽くツッコミを入れる。
「でね」
「はい」
「一票二百円て事は・・・・」
「えっ?」
「二百円掛ける二百票でさぁ」
「先輩、先輩、何言ってるんですか」
「週四万円で、人気漫画が作れるって事だよね」
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