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◆入学編
回復班へようこそ。
夕方。霧崎紅星は、学園の中央塔から少し離れた「回復塔」へと足を運んでいた。回復班所属の生徒が暮らす寮がある場所で、高い塔の窓から薄い黄色の光が広がっている。
紅星(はぁ…今日は災難だったなぁ。魔力のステータスが0だったせいで、一日中頭が真っ白だったし、昼休みはついつい校舎の裏庭で食べてしまった。完全に魔法学校デビューは失敗だ。)
紅星(でもなんでオレは、東のチュートリアルで熱の魔法を使えたんだろうか。杖のせいとか?ひょっとして杖で唱える呪文は、魔力0でも使える?いや、呪文学の先生が使えないはずだって言ってたな。)
紅星(さて…。ここが回復塔の門か。今日からお世話になる。オレの寮室。)
紅星「おじゃましま~す。」
塔の内側にはぐるりと螺旋状に続く階段があり、紅星はゆっくりと階段を上がっていく。
いたるところに植物の装飾が施され、心なしか空気まで柔らかく感じられた。
紅星「着いた……ここが男子寮、3年A組の寮室、か。」
そう呟いて、紅星は目の前の扉を見上げる。重たそうな木製のドアには「3年A組回復班」と書かれたプレートが掛かっている。
紅星「……入るぞ。」
紅星は意を決したようにノックをしてからドアを開ける。
紅星「お邪魔しまーす。」
室内には、薄明りに照らされる数名の生徒の姿。
柊輝夜と、班長のレグルスが楽しそうにおしゃべりしているのだが……
まるで女子同士のようにきゃっきゃしている。
紅星「え、ええ……?」
紅星は思わず視線をそらし、ドアをバタンッと勢いよく閉めてしまった。
紅星「やばい……ここ、女子寮か?間違えて入っただけなのに変な噂立てられたらやばいぞ。」
鼓動が早くなる。冷や汗をかきつつ紅星は、うろたえた目つきでドアを見つめる。
紅星(でも今朝、レグルスが“魔法少年隊”だと言ってたような……でも、柊は女だし……。やばい、逃げるか……。)
ドアがわずかに開き、柊がひょこっと顔を出す。
柊「どうしたの、紅星さん? 入ってきていいんだよ?」
紅星は息をのんで一歩下がる。
紅星「ひ、柊?……ごめん。男子寮に行くつもりだったのに迷っちまったんだ。案内してくれるか?」
柊はくすっと笑い、紅星の不安げな様子を面白がるように見上げる。
柊「あはは、紅星さん。ここで合ってるよ。正真正銘、男子寮だから安心して。」
柊がにこりと微笑むと、紅星は拍子抜けした顔で肩の力を抜く。
紅星「マジか……そうだったのかよ。」
紅星(今朝のホームルームの時、そういえば柊も男子の列にいたような気がする。魔力0だったのが衝撃すぎて全部忘れてたけど…。)
柊に促されるまま、中へ進むと部屋の左右には2段ベットが並び、向かいの窓の下にはデスクが4つ整然と配置されている。カントリースタイルと似た雰囲気のインテリアで居心地はよさそうだった。
紅星「柊……お前が男だったとは驚いたよ…。」
柊は悪戯っぽく目を伏せる。
柊「うん、そうだよ。言ってなかったっけ?」
紅星「いや……悪魔がお前のこと“魔法少女”とか呼んでたからな。騙されてたわ。」
柊「ふふふ。性別などの情報を誤認させることは、戦闘で大きなアドバンテージになるんだよ。」
紅星は苦笑しながら首を振る。
紅星「そういうもんか……でも……なんで男の聖遺物がヴァルゴなんだ?」
柊はどこか寂しそうに微笑む。
柊「知らないの、紅星さん?ユニコーンは女装した男子が好きなんだよ。永遠に処女だから…………。」
その一言があまりに物悲しいトーンだったので、紅星はこれ以上は突っ込めないと感じ、苦笑いを浮かべる。
紅星「はいはい、わかったよ。これからよろしくな、2人とも。」
レグルスが、紅星に向けて軽く手を振った。
レグルス「よろしくね、紅星君。」
柊「よろしく!」
すると、左上の二段ベッドのあたりから声が上がる。
ベットから飛び出してきたのは、青髪の小柄な少年だった。
?「お前が転校生か…ゼロの」
そこまで言ったところで、柊が枕を投げつける。
?「ぶへッ。霧崎紅星だっけ。」
ホセ「オレはホセ。回復班の最終兵器だ。最強すぎて普段は何もしてないけど、オレが何もしてないってことは幸運ってことなんだからな。チョー偉いオレにひれ伏せよ、アラン。」
紅星「はぁ…よろしくな…ホセ。」
レグルス「ホセ君は、口がめちゃくちゃ悪いから気にしないであげて…。」
レグルス「今日はパジャマパーティを企画してるけど、まずは大浴場で歓迎会と行きましょうか。」
柊「それじゃあ決まりだね。さっそく大浴場に行こっか!」
-----------------------------------------------------------
蒸気が立ち込める魔法学校の大浴場。
ゴシック建築を思わせる石の柱が立ち並び、天井の宗教画が暖かな照明に照らされて輝いている。
霧崎紅星は、この荘厳な空間に息を呑んだ。
紅星「すっげぇ、ここが大浴場か……!」
鼻腔をくすぐる湯気の香りに昂揚感を覚える。
紅星(あいからわずこの世界は、信じられないほどにリアルだな。)
紅星は、少し遅れて入ってきたレグルス達を迎える。
柊「ひゃ~、今日もすっごいね!大きいなぁ。」
レグルス「立派だね。」
ホセ「でかいッ!」
3人とも髪が長く、服を脱いでも性別が迷子だった。
紅星「お前ら…本当に男湯に入ってきて大丈夫なのかよ。」
ホセ「なんだと?紅星…お前の目は節穴なんだな…。」
ホセ「このオレが女に見えるなどありえないッ!」
ホセはボディビルダーのポーズをとる。
ホセ「見ろ。オレの体からあふれ出る、マッスルをッッ!!」ドンッ!
ホセは細身の貧相な体を自信満々に披露する。
紅星「おう!すっげぇワイルドだぜ!」
ホセ「だろ!」
紅星(絵面がやばいな…。せめて乳首を隠せ。18禁になっちまう。)
紅星(特に柊。お前はダメだ。その髪型で男湯をうろつかれると、オレがもたない。)
紅星(よくないインスピレーションが来るからだ。)
~紅星の脳内世界にて~
まひの「紅星君。早くしよ。」「ここ、混浴なんだってさ。」
まひのは一糸まとわぬ姿で、紅星の手を取って大浴場の奥へと誘う。
紅星「まひの…何してんだ。タオルくらい羽織れよ。」
まひの「私ももう18歳なんだから、別にいいでしょ?」
まひの「今日は私のコトを、君の目と脳に刻み付けてよ。」
フンッ!
紅星は、自分の顔面にストレートパンチをキメて正気を取り戻す。
紅星「危なかった。持ってかれるところだった。」
ホセ「何がッ!?」
殴った衝撃で紅星は鼻から血を流す。
ドン引きするレグルスとホセ。柊は心配そうに紅星を見つめる。
紅星「柊…タオルかけよう…。」
紅星はアイテムBOXからバスタオルを取り出すと、柊に羽織らせる。柊は戸惑う。
柊「ひぇぇ。何で?」
紅星「見られてるから…気になっちまう。」
柊「しょ…しょうがないなぁ…。」
タオルを羽織り、お淑やかな振る舞いに変わる柊。
女の子みたいな扱いをされ、顔が真っ赤になる。
ようやく紅星は、落ち着きを取り戻すと、ホセとレグルスがひそひそ話してるのが見えた。
大浴場の壁際には、ローマ風の蛇口が整然と並んでいる。
四人は並んで腰を下ろし、湯で体を洗い流す。
柊だけがタオルを巻いたまま動かずに座っているのに気づいた紅星は、声をかけた。
紅星「どうしたんだ?柊?シャワー嫌いか?」
柊は赤面して答える。
柊「タオル巻いたせいで、脱ぐのが恥ずかしくなっちゃったんだよ……。」
紅星「気にするな、誰も見てないぜ。」
柊「さっきと言ってる事が矛盾してない?」
柊「紅星さんのせいだからね。」
紅星「へいへい。」
そうこうしているうちに、ホセとレグルスは体を洗い終えた。
紅星と柊も体をささっと洗い流し、湯気の満ちる大浴場の中心へ移動する。
中央にあるぶくぶく風呂にいくとそこにはアランがいた。
アラン「ハーハハハッ!ようこそ、紅星くん。大浴場。楽しんでくれてるかな?」
ホセ「ゲッ。アラン。」
ホセは紅星の後ろに隠れる。
アランは湯船でのんびり背伸びをしながら、紅星に話しかける。
アラン「魔法学校での生活はどうだ?」
紅星「まだよくわかんないけど、面白くなりそうな気がする。」
紅星「魔法使えてたら、今日もめっちゃ楽しかったんだろうなぁ。」
紅星が少し寂しげに言うと、アランは大きく頷いた。
アラン「うんうん。痛いほど気持ちが分かるぞ。」
アラン「せっかくだ。今日はこの大浴場が誇るイカれた風呂達に入って嫌な事全部忘れよう!!」
そう言ってアランは立ち上がり、別の風呂へと向かう。
アラン「まずは室内露天風呂だ!世界中のいろんな景色が収録されているぞ!」
アラン「雪山の頂上の景色だ!」
アランがボタンを押すと、突然風呂場の壁が消え、雪山の頂上の景色が再現される。
氷の尖峰がそびえ立ち、吹雪が視覚と聴覚を襲うかのような演出。思わず紅星は歓声をあげる。
紅星「うわぁ!ちょー綺麗だ!肌寒さもリアルでいい感じだなぁ!」
アラン「だろう?」
ところが、周囲から悲鳴が聞こえてくる。
男A「こらっーッ!室内露天風呂起動しやがったのは誰だ!!!!」
男B「寒い!寒すぎるよ!!」
男C「室温が-2度になった。」
アラン「すまん。」
アランが謝りながら急いでスイッチをオフにする。雪山の風景は一瞬にして消え、石の壁面が現れた。
アラン「次は、ジェットバスだ!」
アラン「マッハ3の速さを体感しながら風呂に入れる優れものだぞッ!」
スイッチを押すと、湯が一気に噴き出して強烈な水流を作り出す。
紅星とアランは手すりにつかまりながら歓声をあげる。
紅星「すげー勢いだぜ!」
水飛沫がシャワーのように辺りを叩き、滝行のようになっている。
男D「ぎゃぁぁああああ。風圧で水が飛ぶ!」
アラン「最後は入れ替わり風呂。入ってるものの肉体と魂がランダムで入れ替わる!」
アラン「では、俺はサウナに行くから。あとは楽しんで…」
紅星「何でこんな風呂があるんだよ。どうなるんだ?」
そう言い残してアランは姿を消す。残された紅星、ホセ、レグルス、そして柊は恐る恐る風呂にはいる。
湯口近くのスイッチを押すと、入れ替わり魔法が作動する。。
瞬間、紅星とホセの身体が入れ替わる。
紅星の視界に広がるのは、元・ホセの可愛らしい手足。
毛先がふわっとした髪まで感じられる。
紅星「うわっ!なんだこのかわいい体。」
ホセ「し、失敬な!ぶっ飛ばすぞ!」
ホセがボタンを押すと、再び魔法が作動し、今度は紅星とレグルスが入れ替わった。
紅星「うっ。なんだ……ち◯こがない?いや、しまってるのか?むずむずして、変な感じだな。」
レグルス「フラット貞操帯です。禁欲は神聖力を高めるための修行でして…。2年ほどずっとつけてます。当然、自慰行為も禁止です。」
紅星「な、なんて過酷な修行なんだ……」
さらにホセがボタンを連打し、紅星と柊が入れ替わる。
紅星「うっ。やけに頭が重いような…」
紅星「というか、肌、すべすべだな。」
柊「ふふふ。私の魔法は代謝を活性化させ、健康な肌を維持するんだよ。」
紅星「へー。あれやってみていいか?」
紅星「感度上昇術式。聴覚100倍。遠心性神経感度5倍。あれ…うまくいかないな。」
紅星が柊の体で魔法を真似てみるが、うまくいかない。
柊はにっこり微笑み、手で魔法陣を描くように空をなぞる。
柊「魔法は本人じゃないと使えないかも…はい!」
紅星「すげぇ!めちゃくちゃクリアに聞こえるぜ!体も良く馴染む!」
紅星「今なら、トリプルアクセルすら飛べそうだぜ。」
そう言って、柊の姿の紅星は浴場の床でくるくると回りはじめる。
ホセ「てい!」
その姿をおもしろく思わなかったのか、レグルスの姿になっているホセが足を引っかけてきた。
紅星「うわっ。うそだろ……」
紅星「ナバスッ!」
柊姿の紅星はバランスを崩して、思いっきりこける。
頭を強打して痛い。運動神経の感度を上げたせいか、普段より数倍痛く感じる。
紅星「いってぇぇええええ!!」
ホセはリセットボタンを押す。すると全員の体が元に戻る。
しかし、元の柊の体には強打した痛みが反映されており、柊がのたうち回る。
柊「いったぁぁぁあああ。」
ホセ「ぎゃっはっは。ザマァないぜ、柊。オレのことなめてるからそうなるんだよ!」
柊「感覚拡張術式。接続(コネクト)!」
ホセが嘲笑するや、柊は小さく魔法の詠唱をした。感覚を共有する魔法だ。
ホセ「ぎゃああああ。頭割れるぅぅぅ。」
ホセは絶叫し、隣にいたレグルスが呆れ顔で溜め息をつく。
レグルス「まったく……ホセ君は懲りないな……。そろそろ学習能力を身につけてくれないと…。」
レグルス「小学生じゃないんだよ。」
ドゴォォォンンンン。
歯を食いしばりながらレグルスの背後に回ったホセは、的確な角度で強烈な膝蹴りを急所へ叩き込む。
レグルス「ひょぇぇええええ。」
レグルスは金玉を抑えながら、前傾姿勢で倒れる。
ホセ「うるせぇぞ!班長っ!!」
ホセは頭を抱えながら、レグルスを追撃して金玉を何度も蹴り上げる。
ホセ「オレがッ、いつもッ、どんな気持ちでッ、生きてるのか、わかって言ってるのかぁぁぁ。」
レグルス「うぐぅぅぅ。」
レグルス「うぐぁっうがぁ、うああぁぁッ。」
嗚咽をたらしながら震えるレグルス。もはや惨劇としか言いようがない光景だ。
柊「再接続(リコネクト)!」
柊はホセをとめるために、レグルスに対しても感覚を共有する魔法を発動する。
鋭い痛みがホセと柊を襲う。
ホセ「ぎゃあぁぁああああああああ。オレの金玉がぁぁぁ。ちぬー。」
柊「何これ痛すぎ痛すぎ…ひょえぇぇぇえええ。」
紅星は大声で止めに入る。
紅星「お、お前らストーーップ!!女風呂になっちまう!!」
-----------
湯上がりにパジャマへ着替えた一同。髪を拭いながら、ほっと一息ついている。
柊「風呂上がりといえば、や~ぱコーヒー牛乳だよねぇ!」
紅星「ぷは~~。うめ~~。」
ゴクゴク。
柊と紅星はコーヒー牛乳の瓶を空け、周りも思い思いに好みのドリンクを飲んでいる。
体の芯まで温まったところで、彼らは回復寮へ戻ることにした。
寮室は柔らかな魔石ランプの光で照らされ、床にはフカフカの絨毯が敷かれていて気持ちがいい。
部屋に落ち着いた一同はトランプやボードゲーム、パーティーゲームで大盛り上がり。
ホセが寝落ちすると、最初の一日が静かに幕を閉じようとしていた。
紅星(はぁ…今日は災難だったなぁ。魔力のステータスが0だったせいで、一日中頭が真っ白だったし、昼休みはついつい校舎の裏庭で食べてしまった。完全に魔法学校デビューは失敗だ。)
紅星(でもなんでオレは、東のチュートリアルで熱の魔法を使えたんだろうか。杖のせいとか?ひょっとして杖で唱える呪文は、魔力0でも使える?いや、呪文学の先生が使えないはずだって言ってたな。)
紅星(さて…。ここが回復塔の門か。今日からお世話になる。オレの寮室。)
紅星「おじゃましま~す。」
塔の内側にはぐるりと螺旋状に続く階段があり、紅星はゆっくりと階段を上がっていく。
いたるところに植物の装飾が施され、心なしか空気まで柔らかく感じられた。
紅星「着いた……ここが男子寮、3年A組の寮室、か。」
そう呟いて、紅星は目の前の扉を見上げる。重たそうな木製のドアには「3年A組回復班」と書かれたプレートが掛かっている。
紅星「……入るぞ。」
紅星は意を決したようにノックをしてからドアを開ける。
紅星「お邪魔しまーす。」
室内には、薄明りに照らされる数名の生徒の姿。
柊輝夜と、班長のレグルスが楽しそうにおしゃべりしているのだが……
まるで女子同士のようにきゃっきゃしている。
紅星「え、ええ……?」
紅星は思わず視線をそらし、ドアをバタンッと勢いよく閉めてしまった。
紅星「やばい……ここ、女子寮か?間違えて入っただけなのに変な噂立てられたらやばいぞ。」
鼓動が早くなる。冷や汗をかきつつ紅星は、うろたえた目つきでドアを見つめる。
紅星(でも今朝、レグルスが“魔法少年隊”だと言ってたような……でも、柊は女だし……。やばい、逃げるか……。)
ドアがわずかに開き、柊がひょこっと顔を出す。
柊「どうしたの、紅星さん? 入ってきていいんだよ?」
紅星は息をのんで一歩下がる。
紅星「ひ、柊?……ごめん。男子寮に行くつもりだったのに迷っちまったんだ。案内してくれるか?」
柊はくすっと笑い、紅星の不安げな様子を面白がるように見上げる。
柊「あはは、紅星さん。ここで合ってるよ。正真正銘、男子寮だから安心して。」
柊がにこりと微笑むと、紅星は拍子抜けした顔で肩の力を抜く。
紅星「マジか……そうだったのかよ。」
紅星(今朝のホームルームの時、そういえば柊も男子の列にいたような気がする。魔力0だったのが衝撃すぎて全部忘れてたけど…。)
柊に促されるまま、中へ進むと部屋の左右には2段ベットが並び、向かいの窓の下にはデスクが4つ整然と配置されている。カントリースタイルと似た雰囲気のインテリアで居心地はよさそうだった。
紅星「柊……お前が男だったとは驚いたよ…。」
柊は悪戯っぽく目を伏せる。
柊「うん、そうだよ。言ってなかったっけ?」
紅星「いや……悪魔がお前のこと“魔法少女”とか呼んでたからな。騙されてたわ。」
柊「ふふふ。性別などの情報を誤認させることは、戦闘で大きなアドバンテージになるんだよ。」
紅星は苦笑しながら首を振る。
紅星「そういうもんか……でも……なんで男の聖遺物がヴァルゴなんだ?」
柊はどこか寂しそうに微笑む。
柊「知らないの、紅星さん?ユニコーンは女装した男子が好きなんだよ。永遠に処女だから…………。」
その一言があまりに物悲しいトーンだったので、紅星はこれ以上は突っ込めないと感じ、苦笑いを浮かべる。
紅星「はいはい、わかったよ。これからよろしくな、2人とも。」
レグルスが、紅星に向けて軽く手を振った。
レグルス「よろしくね、紅星君。」
柊「よろしく!」
すると、左上の二段ベッドのあたりから声が上がる。
ベットから飛び出してきたのは、青髪の小柄な少年だった。
?「お前が転校生か…ゼロの」
そこまで言ったところで、柊が枕を投げつける。
?「ぶへッ。霧崎紅星だっけ。」
ホセ「オレはホセ。回復班の最終兵器だ。最強すぎて普段は何もしてないけど、オレが何もしてないってことは幸運ってことなんだからな。チョー偉いオレにひれ伏せよ、アラン。」
紅星「はぁ…よろしくな…ホセ。」
レグルス「ホセ君は、口がめちゃくちゃ悪いから気にしないであげて…。」
レグルス「今日はパジャマパーティを企画してるけど、まずは大浴場で歓迎会と行きましょうか。」
柊「それじゃあ決まりだね。さっそく大浴場に行こっか!」
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蒸気が立ち込める魔法学校の大浴場。
ゴシック建築を思わせる石の柱が立ち並び、天井の宗教画が暖かな照明に照らされて輝いている。
霧崎紅星は、この荘厳な空間に息を呑んだ。
紅星「すっげぇ、ここが大浴場か……!」
鼻腔をくすぐる湯気の香りに昂揚感を覚える。
紅星(あいからわずこの世界は、信じられないほどにリアルだな。)
紅星は、少し遅れて入ってきたレグルス達を迎える。
柊「ひゃ~、今日もすっごいね!大きいなぁ。」
レグルス「立派だね。」
ホセ「でかいッ!」
3人とも髪が長く、服を脱いでも性別が迷子だった。
紅星「お前ら…本当に男湯に入ってきて大丈夫なのかよ。」
ホセ「なんだと?紅星…お前の目は節穴なんだな…。」
ホセ「このオレが女に見えるなどありえないッ!」
ホセはボディビルダーのポーズをとる。
ホセ「見ろ。オレの体からあふれ出る、マッスルをッッ!!」ドンッ!
ホセは細身の貧相な体を自信満々に披露する。
紅星「おう!すっげぇワイルドだぜ!」
ホセ「だろ!」
紅星(絵面がやばいな…。せめて乳首を隠せ。18禁になっちまう。)
紅星(特に柊。お前はダメだ。その髪型で男湯をうろつかれると、オレがもたない。)
紅星(よくないインスピレーションが来るからだ。)
~紅星の脳内世界にて~
まひの「紅星君。早くしよ。」「ここ、混浴なんだってさ。」
まひのは一糸まとわぬ姿で、紅星の手を取って大浴場の奥へと誘う。
紅星「まひの…何してんだ。タオルくらい羽織れよ。」
まひの「私ももう18歳なんだから、別にいいでしょ?」
まひの「今日は私のコトを、君の目と脳に刻み付けてよ。」
フンッ!
紅星は、自分の顔面にストレートパンチをキメて正気を取り戻す。
紅星「危なかった。持ってかれるところだった。」
ホセ「何がッ!?」
殴った衝撃で紅星は鼻から血を流す。
ドン引きするレグルスとホセ。柊は心配そうに紅星を見つめる。
紅星「柊…タオルかけよう…。」
紅星はアイテムBOXからバスタオルを取り出すと、柊に羽織らせる。柊は戸惑う。
柊「ひぇぇ。何で?」
紅星「見られてるから…気になっちまう。」
柊「しょ…しょうがないなぁ…。」
タオルを羽織り、お淑やかな振る舞いに変わる柊。
女の子みたいな扱いをされ、顔が真っ赤になる。
ようやく紅星は、落ち着きを取り戻すと、ホセとレグルスがひそひそ話してるのが見えた。
大浴場の壁際には、ローマ風の蛇口が整然と並んでいる。
四人は並んで腰を下ろし、湯で体を洗い流す。
柊だけがタオルを巻いたまま動かずに座っているのに気づいた紅星は、声をかけた。
紅星「どうしたんだ?柊?シャワー嫌いか?」
柊は赤面して答える。
柊「タオル巻いたせいで、脱ぐのが恥ずかしくなっちゃったんだよ……。」
紅星「気にするな、誰も見てないぜ。」
柊「さっきと言ってる事が矛盾してない?」
柊「紅星さんのせいだからね。」
紅星「へいへい。」
そうこうしているうちに、ホセとレグルスは体を洗い終えた。
紅星と柊も体をささっと洗い流し、湯気の満ちる大浴場の中心へ移動する。
中央にあるぶくぶく風呂にいくとそこにはアランがいた。
アラン「ハーハハハッ!ようこそ、紅星くん。大浴場。楽しんでくれてるかな?」
ホセ「ゲッ。アラン。」
ホセは紅星の後ろに隠れる。
アランは湯船でのんびり背伸びをしながら、紅星に話しかける。
アラン「魔法学校での生活はどうだ?」
紅星「まだよくわかんないけど、面白くなりそうな気がする。」
紅星「魔法使えてたら、今日もめっちゃ楽しかったんだろうなぁ。」
紅星が少し寂しげに言うと、アランは大きく頷いた。
アラン「うんうん。痛いほど気持ちが分かるぞ。」
アラン「せっかくだ。今日はこの大浴場が誇るイカれた風呂達に入って嫌な事全部忘れよう!!」
そう言ってアランは立ち上がり、別の風呂へと向かう。
アラン「まずは室内露天風呂だ!世界中のいろんな景色が収録されているぞ!」
アラン「雪山の頂上の景色だ!」
アランがボタンを押すと、突然風呂場の壁が消え、雪山の頂上の景色が再現される。
氷の尖峰がそびえ立ち、吹雪が視覚と聴覚を襲うかのような演出。思わず紅星は歓声をあげる。
紅星「うわぁ!ちょー綺麗だ!肌寒さもリアルでいい感じだなぁ!」
アラン「だろう?」
ところが、周囲から悲鳴が聞こえてくる。
男A「こらっーッ!室内露天風呂起動しやがったのは誰だ!!!!」
男B「寒い!寒すぎるよ!!」
男C「室温が-2度になった。」
アラン「すまん。」
アランが謝りながら急いでスイッチをオフにする。雪山の風景は一瞬にして消え、石の壁面が現れた。
アラン「次は、ジェットバスだ!」
アラン「マッハ3の速さを体感しながら風呂に入れる優れものだぞッ!」
スイッチを押すと、湯が一気に噴き出して強烈な水流を作り出す。
紅星とアランは手すりにつかまりながら歓声をあげる。
紅星「すげー勢いだぜ!」
水飛沫がシャワーのように辺りを叩き、滝行のようになっている。
男D「ぎゃぁぁああああ。風圧で水が飛ぶ!」
アラン「最後は入れ替わり風呂。入ってるものの肉体と魂がランダムで入れ替わる!」
アラン「では、俺はサウナに行くから。あとは楽しんで…」
紅星「何でこんな風呂があるんだよ。どうなるんだ?」
そう言い残してアランは姿を消す。残された紅星、ホセ、レグルス、そして柊は恐る恐る風呂にはいる。
湯口近くのスイッチを押すと、入れ替わり魔法が作動する。。
瞬間、紅星とホセの身体が入れ替わる。
紅星の視界に広がるのは、元・ホセの可愛らしい手足。
毛先がふわっとした髪まで感じられる。
紅星「うわっ!なんだこのかわいい体。」
ホセ「し、失敬な!ぶっ飛ばすぞ!」
ホセがボタンを押すと、再び魔法が作動し、今度は紅星とレグルスが入れ替わった。
紅星「うっ。なんだ……ち◯こがない?いや、しまってるのか?むずむずして、変な感じだな。」
レグルス「フラット貞操帯です。禁欲は神聖力を高めるための修行でして…。2年ほどずっとつけてます。当然、自慰行為も禁止です。」
紅星「な、なんて過酷な修行なんだ……」
さらにホセがボタンを連打し、紅星と柊が入れ替わる。
紅星「うっ。やけに頭が重いような…」
紅星「というか、肌、すべすべだな。」
柊「ふふふ。私の魔法は代謝を活性化させ、健康な肌を維持するんだよ。」
紅星「へー。あれやってみていいか?」
紅星「感度上昇術式。聴覚100倍。遠心性神経感度5倍。あれ…うまくいかないな。」
紅星が柊の体で魔法を真似てみるが、うまくいかない。
柊はにっこり微笑み、手で魔法陣を描くように空をなぞる。
柊「魔法は本人じゃないと使えないかも…はい!」
紅星「すげぇ!めちゃくちゃクリアに聞こえるぜ!体も良く馴染む!」
紅星「今なら、トリプルアクセルすら飛べそうだぜ。」
そう言って、柊の姿の紅星は浴場の床でくるくると回りはじめる。
ホセ「てい!」
その姿をおもしろく思わなかったのか、レグルスの姿になっているホセが足を引っかけてきた。
紅星「うわっ。うそだろ……」
紅星「ナバスッ!」
柊姿の紅星はバランスを崩して、思いっきりこける。
頭を強打して痛い。運動神経の感度を上げたせいか、普段より数倍痛く感じる。
紅星「いってぇぇええええ!!」
ホセはリセットボタンを押す。すると全員の体が元に戻る。
しかし、元の柊の体には強打した痛みが反映されており、柊がのたうち回る。
柊「いったぁぁぁあああ。」
ホセ「ぎゃっはっは。ザマァないぜ、柊。オレのことなめてるからそうなるんだよ!」
柊「感覚拡張術式。接続(コネクト)!」
ホセが嘲笑するや、柊は小さく魔法の詠唱をした。感覚を共有する魔法だ。
ホセ「ぎゃああああ。頭割れるぅぅぅ。」
ホセは絶叫し、隣にいたレグルスが呆れ顔で溜め息をつく。
レグルス「まったく……ホセ君は懲りないな……。そろそろ学習能力を身につけてくれないと…。」
レグルス「小学生じゃないんだよ。」
ドゴォォォンンンン。
歯を食いしばりながらレグルスの背後に回ったホセは、的確な角度で強烈な膝蹴りを急所へ叩き込む。
レグルス「ひょぇぇええええ。」
レグルスは金玉を抑えながら、前傾姿勢で倒れる。
ホセ「うるせぇぞ!班長っ!!」
ホセは頭を抱えながら、レグルスを追撃して金玉を何度も蹴り上げる。
ホセ「オレがッ、いつもッ、どんな気持ちでッ、生きてるのか、わかって言ってるのかぁぁぁ。」
レグルス「うぐぅぅぅ。」
レグルス「うぐぁっうがぁ、うああぁぁッ。」
嗚咽をたらしながら震えるレグルス。もはや惨劇としか言いようがない光景だ。
柊「再接続(リコネクト)!」
柊はホセをとめるために、レグルスに対しても感覚を共有する魔法を発動する。
鋭い痛みがホセと柊を襲う。
ホセ「ぎゃあぁぁああああああああ。オレの金玉がぁぁぁ。ちぬー。」
柊「何これ痛すぎ痛すぎ…ひょえぇぇぇえええ。」
紅星は大声で止めに入る。
紅星「お、お前らストーーップ!!女風呂になっちまう!!」
-----------
湯上がりにパジャマへ着替えた一同。髪を拭いながら、ほっと一息ついている。
柊「風呂上がりといえば、や~ぱコーヒー牛乳だよねぇ!」
紅星「ぷは~~。うめ~~。」
ゴクゴク。
柊と紅星はコーヒー牛乳の瓶を空け、周りも思い思いに好みのドリンクを飲んでいる。
体の芯まで温まったところで、彼らは回復寮へ戻ることにした。
寮室は柔らかな魔石ランプの光で照らされ、床にはフカフカの絨毯が敷かれていて気持ちがいい。
部屋に落ち着いた一同はトランプやボードゲーム、パーティーゲームで大盛り上がり。
ホセが寝落ちすると、最初の一日が静かに幕を閉じようとしていた。
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