家族の絆〜惨劇の残滓〜

きたじまともみ

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32 二人目保護

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 テントの裏に隠れながら進み、一人見つけた。息を顰めて後ろから近づき、首の後ろに手刀を叩き込んだ。腕と足を掴んで肩に担ぎ、テントに戻る。

 中にはすでに六人いて、すでに父さんもアンディも別の人を捕まえに向かったようだ。
 肩から下ろして、俺ももう一度外に出る。
 もう一人倒して戻ると、父さんが待っていた。

「アンディはまだ帰ってこないの?」
「ああ、だが子供のいるテントを見つけた。啜り泣く声が聞こえてな。見張りもほぼ倒した。アンディが戻り次第そのテントに向かおう」

 聞き出す手間が省けた。
 アンディが一人を担いで戻ってきて、テントに押し込む。
 アンディにも話し、子供のいるであろうテントに向かった。

「中には誰かいるのか?」
「子供とは別に一人だけ。入り口側に見張りで、奥に子供がいるはずだ」

 父さんが言えば、同意するようにアンディが頷く。二人の聴力のおかげで、子供を保護できそうだ。

 中に入ろうとすると、別のテントから続々と人が出てきた。隣のテントからも出てきて、俺たちを見ると叫び声を上げる。
 見つかった!

「少しの間耐えてくれ」

 父さんが子供のいるテントに入る。
 俺とアンディは抜剣して、そのテントに背を向けた。

 斬りかかってくる相手の剣を受け、薙ぎ払うと足に剣を突き刺した。相手は呻いて足を押さえながら地面を転がりまわる。

「子供は無事だ。逃げるぞ」
「お父さんは先に行って! 僕たちが食い止めるから」
「無理だ。人数が多いから逃げるぞ」

 父さんは子供を抱えている。俺とアンディで父さんと子供を守るんだ。

「アンディは前からの敵を倒せ。後ろは俺がやる」
「……わかったよ。お父さんは僕から離れないでね」

 アンディが駆け出すと、父さんがその後を追う。
 アンディは剣で薙ぎ払い、敵を沈める。父さんは子供を両手で抱えているから、別の方向からアンディに振り下ろされた剣を蹴りで弾き飛ばした。

 俺は後ろを向いて襲いかかってくる剣を受け止める。一人を沈めると、すぐに別の方向から剣が振り下ろされた。危ないながらも受け止める。

 二人を追いかけたいのに、囲まれてしまった。相手は怪我人ばかりだ。倒すのは簡単でも、時間はかかる。
 どうにか逃げられないかと辺りに視線を走らせた。

 空に白い光が浮ぶ。月でも星でもない光源に、全員がそちらに気を取られた。俺はその隙に一人を斬り伏せて囲まれた中から抜け出す。
 あれは騎士団で使われている信号弾だ。ネクターが助けに来たんだ。

 父さんとアンディを見失ってしまったが、アンディもネクターが助けに来たと気付いただろう。
 合流するために、アンディたちが進んだ方向に向かって走る。

 次第に馬の蹄が地面を蹴る音が、地響きのように轟いてきた。
 先頭にいるのはネクターで、キョーナの騎士団を率いて声を上げる。

「全員捉える。一人も逃さないように!」

 騎士たちがテントを張っているエリアを囲んだ。
 制圧はあっという間だった。

「スタン、無事か!」

 ネクターが馬から飛び降りて、俺の目の前で着地する。

「子供も無事だ。通信機は使えなかったけど、よくここがわかったな」
「ルプスのように、索敵能力に長ける犬の獣人に連れてきてもらった。私一人では辿り着けなかっただろう」
「それで騎士団長はなんて言ってたんだ?」
「騎士団長も戸惑っていたよ。王に具申すると言っていた。戻る頃には何か答えが返って来ていればいいが」
「大丈夫なのか? 弟なんだろ?」
「私たちの王は愚かではない。身内可愛さにもみ消すなんてしない」

 俺は王様のことをほとんど知らないから疑ってしまったが、ネクターの言葉なら信じられるし安心できた。
 アンディと父さんがこちらに駆けてくる。

 父さんの腕の中にいる子供は泣き疲れたのか眠っていた。鼻を啜り、しゃっくりをあげて瞼を閉じている。

「私が先に戻って医者に連れて行く」

 父さんがネクターに子供を預けた。

「ここはキョーナの騎士団に任せて、キョーナホテルの三号室に来るように」

 ネクターはそれだけ残して、馬に乗るとすぐにキョーナ方面へ馬を走らせた。
 すぐに後続の隊が到着して、全員を連行する準備を始める。

 子供も保護できたし、闇商人も全員捕まった。
 あとはシルヴァンの王弟をどうするのか、だ。

 俺とアンディみたいな末端の騎士がどうにかできることではない。騎士団長やネクターの指示に従うしかない。
 馬を貸してもらい、俺たちはキョーナに向かった。
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