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11 ライリーの実力
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瞼を開く。いつの間にか眠っていたようだ。いつも「お姉ちゃん、お腹減った」と弟が起こしにくるのに、その前に起きられた。
手をついて身体を起こそうとするが、ベッドが柔らかすぎて、手が沈んだ。いつもの硬いベッドじゃない。
隣には穏やかな寝息を立てるクロエさん。
そうだった。私は聖女と言われて、王都から旅立った。昨日のことを思い出して大きなため息を吐く。
クロエさんを起こさないように、そっとベッドを抜け出した。
隣のベッドには、ジーンさんしかいない。ライリーさんはどこにいったんだろう。部屋を見渡しても見つからない。
こんなに朝早くに外へ行ったのかな? 日は登り始めたばかりで、薄い光が窓から差し込んでいる。
髪を束ねて捻り、バレッタで後頭部に留めた。
朝食の準備をしよう。作っている間に、ライリーさんが戻ってくるといいのだけれど。
野菜をカットしていると、微かに扉の開く音がした。音を立てないように、慎重に閉じているのがわかる。ライリーさんが帰ってきたんだ。
「おかえりなさい。どこに行っていたんですか?」
「ああ、ただいま。毎朝稽古をしているから、ホテルの裏で素振りをして、近場を走ってきた」
ライリーさんは汗だくで、浴室に入っていく。
こんなに朝早くから毎日剣の稽古をしているんだ。真摯な気持ちがあるから、ライリーさんは強いんだろうな。
サラダにハムとチーズのホットサンドとキノコのオムレツをダイニングテーブルに並べる。最後にカットしたフルーツも乗せて完成。
タオルで頭を拭きながら、ライリーさんが浴室から出てきた。
「すごいな。全部アメリアが作ったのか?」
「はい。四人分だと楽ですよ。家だと八人分ですから」
「八人か。賑やかで楽しそうだな」
「はい! 兄弟がいっぱいで幸せです。ライリーさんはご兄弟はいますか?」
「俺は三つ下に弟がいるだけだよ」
ライリーさんはすっごく優しそうな顔で話すから、仲が良いのだろうなと想像できた。
「クロエさんとジーンさんを起こしましょうか」
待っていても起きる気配がない。
「俺がジーンを起こすから、アメリアはクロエを頼む」
クロエさんの肩を控えめに揺する。すぐに瞼がゆっくり持ち上がった。
「クロエさん、おはようございます。朝ごはんができました」
「おはよう。一人で準備をさせて悪かった」
「料理は好きなので、気にしないでください」
ジーンさんもライリーさんに起こされ、すぐにダイニングテーブルについた。
四人で手を合わせて「いただきます」と声を揃える。オムレツは王都では一般的なクリームソースにしたけれど、ライリーさんも美味しいと言ってくれた。
「朝起きたらライリーさんがいなかったんですけど、朝早くから剣の稽古をしていたらしいですよ」
「そうなのか? 私を起こしてくれれば、相手になったのに」
ライリーさんのことを話せば、クロエさんが食べる手を止めた。
「いや、ゆっくり寝て欲しかったから」
「出発前にクロエに相手をしてもらってはどうだ? 素振りだけでは、また実践で使おうと思えないかもしれないだろ?」
ジーンさんの提案に、ライリーさんはクロエさんにお願いをしていた。
食事を終えて、身支度を整える。
準備ができると、ホテルを後にした。
ホテルの裏にある開けた場所で、ライリーさんとクロエさんが剣を抜いて向かい合った。
私とジーンさんは離れた場所で見守る。ジーンさんは部屋を出る時にフードを被ったから、また口元しか見えない。口角が上がっているから、すごく楽しそうだ。
「いくぞ」
「いつでも大丈夫だ」
二人が動いたのは分かった。剣戟音が響き渡ったと同時に、クロエさんの剣が地面を滑っていった。私には何があったのか、見えなかった。
隣のジーンさんに目を向けると、口を開けて固まっている。
クロエさんも目を見開いて、戸惑っているようだ。ライリーさんがクロエさんの剣を拾いにいく。
「あの、今、何があったんですか?」
ジーンさんに声を掛けると、ハッと我に返って口を開いた。
「剣がぶつかり、ライリーが力で押して、クロエの剣を薙ぎ払った」
「ジーンさんは見えたんですね。私は動きを追えませんでした。ライリーさんはお強いんですね」
「強いなんてものじゃない。クロエは若手騎士の中で、剣の腕は群を抜いている。その彼女がこんなに早くやられる? ライリーはなんで自信がなさそうにしているんだ?」
ジーンさんは理解ができないと戸惑っている。
クロエさんも同じことを言っていた。私には、ライリーさんが自分のことを、強いと思っているようには見えない。
ライリーさんがクロエさんに剣を渡す。二人は鞘に収めた。
ジーンさんがライリーさんに駆け寄る。私も追いかけた。
「ライリー、お前はそんなに強いのに、なぜ堂々としない」
「えっ? だって俺は、毎日負けているし。自分のことを強いと思ったことなんてないけど」
ライリーさんが、毎日お父さんに負けていると言っていたことを思い出す。
「お父上が強すぎて、自分の実力に気付いていなかったのか」
クロエさんが眉尻を下げた。
「お前は強い! 自信を持て!」
「あ、ありがとう」
ジーンさんに肩を叩かれ、ライリーさんは戸惑いながらもお礼を言う。
「ライリーはこの旅が終わったら、ラミサカに帰るのか?」
「ああ、そのつもりだ」
「残念だ。気が変わって王都に住みたくなったら、僕のところに来て欲しいくらいだ」
「ジーンのところ?」
頷くだけで、ジーンさんが何をしているかは教えてくれなかった。
手をついて身体を起こそうとするが、ベッドが柔らかすぎて、手が沈んだ。いつもの硬いベッドじゃない。
隣には穏やかな寝息を立てるクロエさん。
そうだった。私は聖女と言われて、王都から旅立った。昨日のことを思い出して大きなため息を吐く。
クロエさんを起こさないように、そっとベッドを抜け出した。
隣のベッドには、ジーンさんしかいない。ライリーさんはどこにいったんだろう。部屋を見渡しても見つからない。
こんなに朝早くに外へ行ったのかな? 日は登り始めたばかりで、薄い光が窓から差し込んでいる。
髪を束ねて捻り、バレッタで後頭部に留めた。
朝食の準備をしよう。作っている間に、ライリーさんが戻ってくるといいのだけれど。
野菜をカットしていると、微かに扉の開く音がした。音を立てないように、慎重に閉じているのがわかる。ライリーさんが帰ってきたんだ。
「おかえりなさい。どこに行っていたんですか?」
「ああ、ただいま。毎朝稽古をしているから、ホテルの裏で素振りをして、近場を走ってきた」
ライリーさんは汗だくで、浴室に入っていく。
こんなに朝早くから毎日剣の稽古をしているんだ。真摯な気持ちがあるから、ライリーさんは強いんだろうな。
サラダにハムとチーズのホットサンドとキノコのオムレツをダイニングテーブルに並べる。最後にカットしたフルーツも乗せて完成。
タオルで頭を拭きながら、ライリーさんが浴室から出てきた。
「すごいな。全部アメリアが作ったのか?」
「はい。四人分だと楽ですよ。家だと八人分ですから」
「八人か。賑やかで楽しそうだな」
「はい! 兄弟がいっぱいで幸せです。ライリーさんはご兄弟はいますか?」
「俺は三つ下に弟がいるだけだよ」
ライリーさんはすっごく優しそうな顔で話すから、仲が良いのだろうなと想像できた。
「クロエさんとジーンさんを起こしましょうか」
待っていても起きる気配がない。
「俺がジーンを起こすから、アメリアはクロエを頼む」
クロエさんの肩を控えめに揺する。すぐに瞼がゆっくり持ち上がった。
「クロエさん、おはようございます。朝ごはんができました」
「おはよう。一人で準備をさせて悪かった」
「料理は好きなので、気にしないでください」
ジーンさんもライリーさんに起こされ、すぐにダイニングテーブルについた。
四人で手を合わせて「いただきます」と声を揃える。オムレツは王都では一般的なクリームソースにしたけれど、ライリーさんも美味しいと言ってくれた。
「朝起きたらライリーさんがいなかったんですけど、朝早くから剣の稽古をしていたらしいですよ」
「そうなのか? 私を起こしてくれれば、相手になったのに」
ライリーさんのことを話せば、クロエさんが食べる手を止めた。
「いや、ゆっくり寝て欲しかったから」
「出発前にクロエに相手をしてもらってはどうだ? 素振りだけでは、また実践で使おうと思えないかもしれないだろ?」
ジーンさんの提案に、ライリーさんはクロエさんにお願いをしていた。
食事を終えて、身支度を整える。
準備ができると、ホテルを後にした。
ホテルの裏にある開けた場所で、ライリーさんとクロエさんが剣を抜いて向かい合った。
私とジーンさんは離れた場所で見守る。ジーンさんは部屋を出る時にフードを被ったから、また口元しか見えない。口角が上がっているから、すごく楽しそうだ。
「いくぞ」
「いつでも大丈夫だ」
二人が動いたのは分かった。剣戟音が響き渡ったと同時に、クロエさんの剣が地面を滑っていった。私には何があったのか、見えなかった。
隣のジーンさんに目を向けると、口を開けて固まっている。
クロエさんも目を見開いて、戸惑っているようだ。ライリーさんがクロエさんの剣を拾いにいく。
「あの、今、何があったんですか?」
ジーンさんに声を掛けると、ハッと我に返って口を開いた。
「剣がぶつかり、ライリーが力で押して、クロエの剣を薙ぎ払った」
「ジーンさんは見えたんですね。私は動きを追えませんでした。ライリーさんはお強いんですね」
「強いなんてものじゃない。クロエは若手騎士の中で、剣の腕は群を抜いている。その彼女がこんなに早くやられる? ライリーはなんで自信がなさそうにしているんだ?」
ジーンさんは理解ができないと戸惑っている。
クロエさんも同じことを言っていた。私には、ライリーさんが自分のことを、強いと思っているようには見えない。
ライリーさんがクロエさんに剣を渡す。二人は鞘に収めた。
ジーンさんがライリーさんに駆け寄る。私も追いかけた。
「ライリー、お前はそんなに強いのに、なぜ堂々としない」
「えっ? だって俺は、毎日負けているし。自分のことを強いと思ったことなんてないけど」
ライリーさんが、毎日お父さんに負けていると言っていたことを思い出す。
「お父上が強すぎて、自分の実力に気付いていなかったのか」
クロエさんが眉尻を下げた。
「お前は強い! 自信を持て!」
「あ、ありがとう」
ジーンさんに肩を叩かれ、ライリーさんは戸惑いながらもお礼を言う。
「ライリーはこの旅が終わったら、ラミサカに帰るのか?」
「ああ、そのつもりだ」
「残念だ。気が変わって王都に住みたくなったら、僕のところに来て欲しいくらいだ」
「ジーンのところ?」
頷くだけで、ジーンさんが何をしているかは教えてくれなかった。
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