下町聖女は光を灯す

きたじまともみ

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16 作戦会議

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 コンコンコンコンコン。扉が五回ノックされた。
 ライリーさんに抱かれたチーは、私に腕を伸ばす。私はチーを受け取った。ローが掛け布団に潜り、チーのスペースを開けた。ベッドに降ろすと、チーも布団の中に入って息をひそめる。
 先ほどのことを覚えていて、自分たちで行動してくれたんだ。

『多分クロエさんとジーンさんだよ。でも、本当に二人だってわかるまでは隠れていようね』

 二人が頷いた。
 ライリーさんが確認しにいく。扉が開き、クロエさんとジーンさんが戻ってきた。『出てきていいよ』と声をかければ、ローとチーが這い出てきた。

「問題なかったか?」

 ジーンさんがローブを脱ぎながら確認する。

「もう一人いなくなったって、清掃のおばさんが教えてくれた」

 ライリーさんはジーンさんとクロエさんに、おばさんに渡された紙を見せる。
 二人は胸を抉られたように顔を歪めた。

「招待状は手に入れた。申し訳ないが、女性たちにはもう少しだけ辛抱してもらおう」

 ジーンさんが濃紺の封筒を懐から取り出した。銀色で描かれたネロセビの花が綺麗なのに、背中を冷気が通り抜けた時のように体を震わせる。不気味な印象を受けた。

「どうやって、手に入れたんだ?」

 ライリーさんが疑問をぶつけると、ジーンさんは険しい表情から一変、口角を上げて笑った。

「僕くらいの美しさがあれば、手に入れられないものなんてないさ」

 事実なのか冗談なのかわからない調子で語る。クロエさんが瞼を下ろして、小さく息を吐き出した。本当は大変だったのかもしれない。
 私とライリーさんが知らない、ジーンさんが隠していることと、関係があるのかな?

「ケデミェの騎士団はすぐに出発してくれるようだが、間に合わないかもしれない」
「オークションまで、時間がないんですか?」
「明日の朝五時だ。今から列車に乗っても、この時間では途中までしか進めない」

 明日だから、続けて女性がいなくなったのかもしれない。
 それに、なんでそんなにも早い時間にやるんだろう? ……人が眠っている間にやって、すぐに列車で移動して女性たちを連れていくってこと?

「今回はオークション中に騎士団に突入してもらわなければならない。これより前のオークションで売られた女性の居所を掴むためには、客も全員捕まえる必要がある」

 オークションは朝の五時から何時までなんだろう? 騎士団が間に合うように、なるべく長引かせないといけないってことだよね?

「女性たちも子供たちの親も、僕が全員買う。……人なんて買いたくないが、そうするのが一番安全だ」

 ジーンさんは頭を掻きむしって、下唇を噛んだ。
 ローとチーがベッドを飛び降りる。ジーンさんの服の裾を掴んで引いた。言葉はわからなくても、ジーンさんの辛い気持ちを感じ取って慰めに行ったんだ。

 ジーンさんが二人を抱えて、そのままベッドに腰を下ろした。頭を撫で回されながら、話を続ける。

「オークション会場には武器が持ち込めない。僕は魔法を制限されるブレスレットをつけられた」

 ジーンさんにはみんなでつけているバングルと同じ腕に、金色の細いブレスレットが付けられていた。

「私は剣がなければ、一般人より多少動けるくらいだ。ライリーとアメリアに任せる部分が多くなる」
「俺が全員を守る!」
「私は魔法を制限されないんですか?」

 ライリーさんが力強く頷き、私は疑問を口にする。

「アメリアは光の魔法使いだと言ってある。光魔法には攻撃魔法がないからね。買った人たちの治癒のため、と言えば問題なかった。アメリアは買った人たちを守るために、結界を張って保護して欲しい」
「もちろんです!」
「もし騎士団が間に合わなければ、フロア全体に結界を張り、外に出さないこともできるか?」
「女性たちに小さな結界を張って、さらに大きな結界を張るってことですよね?」

 ジーンさんが頷く。

「できますが、大きくなればなるほど、強度は落ちます」

 以前、豪雨で避難所に行った時に、避難所全体を覆う結界を張ったことがある。雨風はなんとか凌げたけれど、大きな板が飛んできた時にはヒビが入って壊れてしまった。

「一般人が素手で破れるほど弱いか?」
「いえ、それはないと思います」

 部屋の真ん中で床に手をつく。オークション会場がどれくらい大きいかわからないから、避難所で張った結界の強度くらいで小さな結界を作った。
 ジーンさんが力一杯蹴った。びくともしない。

「ライリー、やってみてくれ。君が壊せなければ、問題ない」
「わかった」

 ライリーさんの足が結界を蹴る。ジーンさんの時には聞こえなかった、空を切る音がして、すごい威力なんだと目を丸くした。

「あっ、ヒビが入った」
「えっ? 本当ですか?」

 ライリーさんに言われて、結界に近付く。蜘蛛の巣のようにひび割れしていた。同じところを数回蹴られれば、穴が空いてしまうだろう。
 子供たちが『ライリーかっこいい!』と小さな手で拍手をした。ペチペチと可愛らしい音が鳴る。

「オークション会場が狭いことを祈ろう」

 ジーンさんが頭を抱えた。

「なんかごめん。ヒビを入れちゃって……」

 ライリーさんが謝るが、何も悪くない。生身の人間でも割れるってことがわかって良かったと思う。
 コンコンと扉がノックされた。
 ローとチーが急いで布団の中に潜り込む。
 ここにはみんないるのに、誰だろう。緊張で顔に力が入る。

「大丈夫だ。僕は招待客になったからね。ドレスコードがあるみたいだから、明日の服を頼んでおいた。それに食事も。アメリア、二人が出てこないように見ていてくれ」
「わかりました」

 ジーンさんに続いて、クロエさんとライリーさんが扉へ向かう。扉が開き、入り口で受け取ったようで、部屋に他の人が入ってくることはなかった。

 クロエさんが服をかけ、ジーンさんとライリーさんがお弁当をテーブルに並べた。
 やっぱりお花の香りしかしないより、食べ物の匂いの方が食欲が湧く。

『もう出てきてもいいよ』

 布団を捲り、ソファにローとチーを座らせる。
 六人分あるが、冷めているものは冷製パスタのみ。食べられるのかな?

『まだお腹は減ってる? ローとチーは冷たいパスタは食べられる?』
『いっぱいは食べられないから、半分こする』

 取り分けて、全員で食事を食べ始めた。

「四人で泊まっているのに、六人分の食事は不思議に思われませんでしたか?」
「ライリーが三人前食べることにしておいた」
「俺、そんなに食べられないけど」




 食べ終わるとローとチーの顔を拭き、順番にシャワーを浴びた。
 明日は早起きをしなければいけない。大きなベッドで、私とクロエさんの間にチーが寝転がった。男性陣もローを真ん中にして横たわる。
 スタンドライト以外の光を消して、眠りについた。
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