下町聖女は光を灯す

きたじまともみ

文字の大きさ
34 / 56

34 荷台でおしゃべり

しおりを挟む
 魔王の城には馬車で丸一日掛かるようで、二日後の朝に出発した。
 馬車は二台で、たくさんの木箱が詰められている。
 私の隣にはジーンさんが座った。拳一つ分くらいの距離を空けて。

 ガマさんはもう一方の馬車に乗っている。
 護衛をする執事さんたち。それにクロエさんとライリーさんは、馬に乗って馬車と並走する。

 馬車の荷台は幌で覆われていて、景色が見えない。微かに鳥のさえずりが聞こえてくるけれど、どんなところを走っているのだろう?
 馬の蹄が地面を蹴る音と、車輪のガタガタという音が響き、荷台は小刻みに揺れている。

 今はジーンさんと二人っきりだ。
 聞きたいことを聞いて、答えてくれるかな?
 横目でジーンさんを伺えば、私のことを見ていたようで、視線が交わり、ジーンさんは優しく目を細める。

「ジーンさんはお父さんのことを、よく知っているんですか?」

 顔見知り程度ではないだろう。そうでなければ、お父さんが「人を傷つけるはずがない」とまでは言い切れない。
 ジーンさんは斜め上に目を向ける。遠い昔を思い出しているようだ。

「子供の頃によくガイラに怪我を治してもらったな。走って転んだり、木に登って落ちたりして、生傷が絶えなかったから」
「活発だったんですね」

 ジーンさんは要人のご子息なのかな?
 お父さんが騎士団でどんな仕事をしていたかわからないから、想像することしかできないけれど。

「ガイラが隊長になってからは会わなくなったが、活躍は耳にしていたよ」

 お父さんとジーンさんは、ジーンさんが子供の時に関わっていたことはわかった。
 時間はたっぷりあるんだから、今日はいっぱい質問しよう!

「ジーンさんはクロエさんのお兄さんと仲良しなんですよね?」
「クロエに聞いたのかい? 僕は仲良しだと思っているけれど、向こうはどうかな?」

 ジーンさんは眉尻を下げて笑う。なんだか寂しそうに見えた。

「じゃあクロエさんは?」

 クロエさんは顔見知り程度だと言っていた。
 ジーンさんはパッと顔を輝かせる。

「アメリア、ヤキモチかな? 僕とクロエにはなにもないよ。僕はクロエのことはそんなに知らないし。クロエは僕の母のお気に入りだ。……ああ、安心してくれ、母は君のことも絶対に気に入るだろうから、嫁姑問題になんて発展しないよ。母は兄嫁とも仲良しだからね」

 ジーンさんが身を寄せるから、少し距離を取った。「つれないね」と肩を竦められる。

「じゃあなんでクロエさんは、ジーンさんの名前を呼ばないんですか?」

 顔見知り程度でも、知り合いのはずだ。クロエさんはジーンさんを【貴方】や【彼】と呼ぶ。私とライリーさんのことは、名前で呼ぶのに。

「もしかして僕は、クロエに嫌われているのだろうか?」

 ジーンさんは口に手を添えて、大袈裟なほど驚いた。……これは誤魔化そうとしている?
 無言でジッと見つめると、ジーンさんは顔の横で両手のひらを見せた。
 話してくれるようで、耳を傾ける。

「クロエは兄と似て、真面目すぎるのだろうね。だから呼べないんじゃないのかな? 僕は気にしないのに。そうでなければ、名前で呼びたくないほど嫌われているか、だ」

 クロエさんはジーンさんのことを、異性としては苦手だと言っていたけれど、普段の様子から嫌っているような気はしない。

 騎士のクロエさんが真面目だから呼ばないって、やっぱりジーンさんは身分の高い方なのだろう。貴族なのかな? 
 でもクロエさんは、第一王子様のハロルド殿下のことは名前で呼んでいた。身分が高いからって理由ではないのかもしれない。一つ知れると、わからないことも増える。

 馬車がゆっくりと停止した。休憩をするみたいで、荷台から降りる。
 私はみんなに食べ物と飲み物を配った。
 馬にも水を飲ませる。優しい目をしていて可愛い。
 馬のお世話をしていると、食べ終わったライリーさんが隣に立った。

「アメリアも食べておいでよ。俺が変わるから」
「いえ、私は荷台で座っているだけだし、いつでも食べられるので。ライリーさんが休んでください」

 騎士学校に通っている弟が、馬に乗る授業で全身筋肉痛になったと言っていたことがある。優雅なイメージがあったけれど、馬に乗るのって過酷なことなんだとそれで知った。

 馬は水を飲み終えて、生えてる草を食べる。
 ライリーさんは変わるのではなく、手伝うと言ってくれたから、二人で馬に水を届けた。その際に馬へ体力強化の魔法をかける。馬に乗って、見張ってくれていたみんなにも。
 まだ先は長いし、気休めかもしれないけれど、楽になってくれれば嬉しい。




 小一時間ほど休憩をして、私はまた荷台に乗り、ジーンさんと話した。
 質問はやめて雑談に入ると、ジーンさんはよく喋る。明るくて楽しくて、二人で笑い合った。

 ジーンさんの笑顔を隣で見ていたいのに、ジーンさんの好意を素直に受け入れることができないのは、身分の壁が頭をチラついて離れてくれないから。

 これが物語なら、身分差の恋もハッピーエンドだろう。
 でも実際は? 私が貴族に嫁ぐ? 想像すらできない。十八年間ずっと下町で育って、平民として生きてきたのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...