ギルド《ボンド》

きたじまともみ

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第二章 無償の愛

61 「お母さん」「お父さん」

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 身支度を整えて宿を出る。
 ルルの後をついていくと、木造の一軒家の前で止まった。シャーロットはここに住んでいるのか。

「じゃあ行ってくるから待ってて」
「ありがとう。お願いね」

 チアはスタスタと早足に離れていく。シーナとマイルズが追いかけて両側から支える。
 ルルもその後ろをついていった。

 扉をノックすると、小さな足音が近付いてきてシャーロットが顔を覗かせる。
 俺と目が合うと表情を明るくして家に戻ってしまった。
 呆気に取られていると、すぐに扉が開く。シャーロットは息を弾ませ、興奮気味に口を開いた。

「見て! 今日の新聞にお姉ちゃんが載ってるの!」

 突きつけられたバルディアの新聞には、チアが火事を消す姿が載っていた。『救いの女神』と大きく取り上げられている。ボンドの姫の次は救いの女神か。
 はしゃぐシャーロットとは反対に、ドアの隙間からこちらを伺う両親の顔は険しい。

「チアの魔術は人を助けることのできる力だ」

 シャーロットに目を向けながら話すが、両親に向けた言葉だ。シャーロットは何度も頷いて新聞のチアを目をキラキラさせながら見つめた。

「昨日チアにシャーロットが仲良くしたいって伝えた。今日は返事を持ってきたんだ」

 シャーロットに紙を渡す。

「それ、チアの住所。文通してもいいって」
「ありがとう!」

 シャーロットは両手で受け取って、宝物のように大事に手で包みながら喜ぶ。

「直接会うわけじゃないから、心配なことなんてないよな」

 両親に目を向けると、サッと逸らされる。
 そもそもチアの魔力が暴走することなんてないんだけど。

「列車の時間があるから行くな」
「お姉ちゃんにお手紙書くからって伝えて」
「わかった」

 手を振るシャーロットに見送られてみんなの元に戻る。

「渡してきた。手紙書くって」
「そう」

 チアの返事はそっけない。

「新聞にチアが載ってたぞ」

 チアは興味なさそうだが、マイルズとシーナが「新聞を買いに行く」と騒ぎ出した。二人ともチアが好きすぎる。

 列車に乗る前に店に寄って、マイルズとシーナが新聞を買った。マイルズなんて三部も買った。そんなに必要ないだろう。

「なんでそんなに買うの?」

 チアにも不審な目を向けられている。

「俺の分とチアちゃんの分。あとはバージルさんも欲しがるかなって」

 チアは苦笑して自分の分を受け取る。

「もっといい写真を使ってくれればいいのに」

 魔術を使っている最中だから、表情は険しい。

「すっごくいい写真だよ。チアかっこいい!」

 シーナが褒めると、チアはまんざらでもなさそうに口角を上げる。

「バージルさんにも私が渡す。今日ヴィクトリアさんとバージルさんに会いに行くから」
「うん、お願いね」

 マイルズはチアに新聞を託した。




 列車に乗ってテアペルジに帰る。街の中心で仲睦まじく腕を組んで歩いているバージルさんとヴィクトリアさんに会った。

「おかえり、楽しかった?」
「うん、みんないい人ばかりだった。お土産もいっぱいもらった」

 チアが食材を見せると「あら、美味しそう」とヴィクトリアさんが微笑む。

「あのさ……」
「なに?」
「えっと……」
「どうしたのよ」

 チアが頬を染めて言葉に詰まっている。
 シーナが「チアがんばれ!」と胸の前で指を組んだ。

 はっきりものを言うチアが、言葉に詰まる様子をバージルさんとヴィクトリアさんが心配そうに見つめる。
 チアは大きく息を吐き出して、肩の力を抜いた。

「あのね、今日泊まりに行ってもいい? 私、お母さんの作るキッシュが食べたい!」

 ヴィクトリアさんは大きく目を見開き、少し涙ぐむ。

「ええ、任せて! 美味しいものを作るから」
「みんなまたね。私、このまま帰る」

 チアが手を振り、俺たちも振り返した。

「なにかあったのか? チアが『お母さん』と呼ぶのは初めてだ」

 バージルさんにことのあらましを話せば、険しい表情で「そうか」と呟く。
 ヴィクトリアさんがチアに耳打ちをした。
 こちらを振り返ってチアが手招きをする。

「置いてっちゃうよ、……お父さん」

 バージルさんは盛大に泣いた。すぐにヴィクトリアさんとチアに駆け寄って、二人に挟まれて背をさすられる。
 頼りになるギルドマスターも、妻と娘には敵わないようだ。

「私も帰るね」
「送っていくよ」

 マイルズと別れ、道具屋に向かう。
 扉を開くと「いらっしゃいませ」とマナが出迎えてくれた。

「ただいま」
「お姉ちゃんおかえりなさい」
「一人? アレンは?」

 アレンがマナを一人にすると思えなくて聞けば、カウンターの中から手が伸びて「ここ」と振られる。

「なにしてんの?」
「正座させられてるんだろうね。たまにあることだし、わかっててアレンに店をお願いしてるから」

 シーナは肩を落として眉尻を下げる。
 アレンが正座をさせられるのがたまにあること?
 疑問に思っていると、マナが隣を見下ろす。

「アレンくん、反省した?」
「してない」

 マナは「もう」と頬を膨らませる。

「だって俺は悪くないし」

 アレンは目に入れても痛くないというほどマナを溺愛しているのに、珍しく喧嘩をしているのだろうか。

「立たせてあげたら?」

 シーナが助け舟を出すと、マナは渋々頷いた。
 アレンが立ち上がって、仏頂面を見せる。

「それで? 今回はなにをされたの?」

 シーナがマナに訊ねれば、マナより早くアレンが口を開く。

「会計の時にマナちゃんの手を握って『遊びに行こう』とかぬかしやがった!」
「だからって喉元に剣先を突きつけるのはやりすぎだと思う」
「全然やりすぎじゃないし。俺はそれまでめちゃくちゃ我慢してたし」

 マナのことを舐めるように見ていたとアレンが主張する。

「それで? その人は?」
「ボンドの人がお買い物に来て、アレンくんを止めてくれたの。理由を話したら連れていっちゃった」

 シーナは「そう」と頷いた。

「マナだって自分で断れるんだから、アレンはマナだけじゃどうしようもないって時まで我慢して。お客さんがいなくなったら、お店が潰れちゃう」
「マナちゃんに手を出そうとするやつなんて客じゃない」

 アレンはそっぽを向いた。

「マナとアレンのことってみんな知ってるんじゃねーの?」

 普段のこの二人を見て、アレンの前でマナを口説こうとするやつの気がしれない。

「よその街から来る人もいるからね」

 シーナの言葉に首を捻る。
 それならシーナも誘われたりするんじゃないだろうか。
 モヤモヤするが、シーナが「どうしたの?」と笑顔を向けるから、暗い気持ちは晴れていく。

「問題が起こった時はどうすんの?」
「ボンドの人が来てくれるよ。カウンターの下にあるボタンがギルドハウスの受付に異常を知らせてくれるの。少し前は通信機で連絡してたんだけど、私がファントムに連れて行かれたでしょ? その後にバージルさんが簡単に呼べるようにって取り計らってくれたんだ」
「そっか、それなら安心だ」

 シーナたちに別れを告げて、俺も自宅に帰った。
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