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13 オーナーの仕事
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「みんなありがとう」
セレスティアさんがいたからレオンたちを見つけることができた。
フィンがいたからゴーレムの動きを止められた。
ライナスがいたからギルドの人に助けを呼べたし、素早く繋いだゲートで全員が帰ることができた。
セレスティアさんはいつものように穏やかに笑い、ライナスは「ステラのためじゃなく、お客様のためだ」と素直じゃない言葉を吐くけれど表情は柔らかい。
フィンは眉尻を下げて、少し悲しそうな笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
「いえ、ステラさんの彼氏を助けることができてよかったです」
私の彼氏? もしかしてレオンのこと?
「変なこと言わないで。レオンが彼氏? ありえない!」
全力で否定すると、フィンが目を丸くして何度も瞬きをする。
「違うんですか? レオンさんはかっこよくていい人だし、ステラさんともすごく距離が近かったのに」
「違うに決まってるでしょ。フィンだってどんなに美人でも、イレーネさんとは付き合いたいと思わないでしょ?」
フィンが目を剥く。
「兄妹なんですか?」
「血は繋がっていないけどね。私は孤児院で育ったの。レオンもそう。家族と恋愛なんてできないし、私は二十一年間美味しいもの一筋なの」
それにレオンは彼女いるし。
フィンは「そ……うなんですね」とこぼして徐々に表情を明るくする。
「じゃあ彼氏はいないんですか?」
「いたことないし、欲しいと思ったこともない。でも美味しいものが作れる人なら、考えないこともないかもしれないけど」
「……え?」
またフィンの顔に陰がかかる。
私の幸せは美味しいものを食べること。
恋をして胸がいっぱいで食事が喉を通らない。なんて聞くけれど、私は胸じゃなく、美味しいものでお腹を満たしたい。
「あっ、そうだ。フィンはお客様に書いてもらった同意書をちゃんと見なさいよ」
私とレオンは同じファミリーネームなんだから、家族と思うのが普通だ。
それを彼氏と勘違いするなんて、確認が甘い証拠。
釘を刺すと「はい、すみません」とフィンは素直に謝った。
フィンは体を小さくしてシュンとする。
私は自分の席について机に突っ伏した。
「ステラも頑張ったわね。お疲れ様」
セレスティアさんが湯気の立つブラックコーヒーをくれた。お礼を言ってもらう。
ライナスとフィンも受け取った。
「私からオーナーに報告するわね。みんなはゆっくりしていて。でも、お客様がいらっしゃったら、ご対応よろしくね」
セレスティアさんが事後承諾の同意書を持って店を出て行った。
フーフー、と息を吹きかけてコーヒーを口に含む。
心地よい苦味が口の中に広がり、香ばしい香りが鼻に抜けて心を落ち着けてくれる。
二十分ほどすると、扉が勢いよく開かれた。
肩で息をするオーナーだったが、私たちの顔を見て表情を和ませる。
「怪我はないか?」
息を整えるため、大きく深呼吸しながら足を進める。
私たちが「ありません」と答えると、大きな音を立ててイスに座った。イスが悲鳴のような軋む音を響かせる。
「無事でよかった。よくやったな」
オーナーはホッとしたのか、体から力が抜けて背もたれに背中を預ける。
「すみません、僕は同意書なしに転移魔法を使いました」
ライナスはオーナーの前に移動して頭を下げる。
「セレスティアに聞いた。お客様とのトラブルを避けるために、同意書を頂くルールがある。でもそのルールよりも優先するのはお客様の安全。ライナスは間違った行動は取っていない」
ライナスは「はい」と奥歯を噛み締める。
「俺はお前たちを信用して仕事を任せている。それが俺の判断だ。だから何か問題があったときに責任を取るのは俺。今回のことで気に病むことなんて何もない」
オーナーが話し終わると、扉がゆっくり開いた。
「オーナー、速いです」
息を切らせたセレスティアさんが、ふらつきながら入ってきた。
「ゆっくり来いって言ったろ。セレスティアは自分の体を優先させろ」
オーナーが瞳に剣を含ませて声を荒げる。セレスティアさんはオーナーの隣に腰を下ろした。
怪我で魔法だけじゃなく、運動も制限されているのだろうか?
ライナスが冷たい水をグラスに注いでセレスティアさんに渡した。それをゆっくりと飲み干す。
「少し休憩してから行くか?」
「いえ、すぐにでも行けます」
オーナーの問いに、セレスティアさんが首を振る。
「俺が休憩したいから、セレスティアも休んでいろ。ライナス、俺にあっついコーヒーを淹れてくれ」
「わかりました」
ライナスが口元を緩め、コーヒーを淹れにいく。
セレスティアさんは困ったように笑って「心配性ね」とこぼした。
ライナスがオーナーの前にコーヒーを置く。
オーナーは湯気の登るカップに口をつけて傾けると「あちっ!」とすぐに口を離した。
目を点にしてライナスを見つめ、ライナスは「熱くしすぎましたね」と愛想笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「オーナー、どこに行くの?」
私が声をかければ、オーナーはハッとしてカップを置いた。
「ギルドのギルドマスターに事情を話しに行く。俺はお前たちの行動が最善だと思っている。だが、それはこちらの事情。同意書にサインを頂いた時点で、うちのお客様だ。うちだけで対処できないから、ギルドを頼った。たとえ彼らの仲間を助けるためだとしても、正規の手続きをせずにギルド員を連れ出したんだ。こちらから説明に向かうのが筋だろう」
「協力してくれたギルドの人たちが事情を説明してくれているとは思うけれど、それでこちらが何もしないというのはおかしなことでしょ」
オーナーとセレスティアさんの言うことに納得して頷く。
「それなら僕も行きます。僕が転移魔法を使ったので」
「言ったはずだ。責任を取るのが俺の仕事。セレスティアを連れていくのは、事実だけを客観的に説明できるからだ。それにギルドマスターとも顔見知りだしな」
「大丈夫よ。ギルドマスターは仕事に対しては厳しいけれど、仲間思いの優しい方だから」
オーナーは時計に目を向け、小さく頷いた。
「あと一時間くらいで就業時間だな。時間になったら帰れよ。セレスティアは直帰させるから、待っていても帰ってこないからな」
オーナーは豪快に息を吹きかけ、まだ熱の冷めないコーヒーを飲み干した。
オーナーとセレスティアさんが立ち上がる。
「戸締りよろしくね」
扉を閉める直前で、セレスティアさんの心地良い声が残された。
店内は静寂に包まれる。
無力だ、と項垂れた。
私は戦えないし、レオンを助けて欲しいとオロオロしていただけ。
逃げるためにゴーレムと戦っている場所で、ゲートを繋ぐなんて発想がなかった。
あの状況で魔法陣を書くことに集中できるとも思えないし。
「フィンは大丈夫? 入社した日にこんなことがあって」
言葉数が少ないのが気になり声をかける。
「はい。というより、何が何だかわかっていないという感じです」
フィンは眉を下げて、体を小さくさせた。
就業時間になってもお客様が来なかったから閉店作業をして店を出た。
私が隣のアパートの階段を登ると、フィンがついてくる。
「なにか用があるの?」
振り返ると、私が二段高い位置にいるから、目線が同じくらいになっていた。
「いえ、俺もここに住み始めたので」
そういえば剣を取りに行くと言って、戻ってくるのがものすごく速かった。
ギルドにいた時は、ホテルに住んでいたはずだ。
オーナーの管理するこのアパートに引っ越したのか。
前に向き直って自分の部屋に向かう。フィンは私の隣の部屋に鍵を差した。
「ステラさん、お疲れ様でした。明日からもご指導よろしくお願いします」
「お疲れ様。ゆっくり休むのよ」
私が頷くと、フィンは顔の横で手を振った。
部屋に入って食事の準備をしていると、隣から物を落とす音や叫び声が聞こえて盛大なため息を吐く。
「うるさい」
食事を食べ終わってもまだガタガタと聞こえる。
シャワーを浴びて、ベッドに入る頃には静かにいなっていた。
瞼を下ろすと、すぐに眠気に襲われた。
セレスティアさんがいたからレオンたちを見つけることができた。
フィンがいたからゴーレムの動きを止められた。
ライナスがいたからギルドの人に助けを呼べたし、素早く繋いだゲートで全員が帰ることができた。
セレスティアさんはいつものように穏やかに笑い、ライナスは「ステラのためじゃなく、お客様のためだ」と素直じゃない言葉を吐くけれど表情は柔らかい。
フィンは眉尻を下げて、少し悲しそうな笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
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「血は繋がっていないけどね。私は孤児院で育ったの。レオンもそう。家族と恋愛なんてできないし、私は二十一年間美味しいもの一筋なの」
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フィンは「そ……うなんですね」とこぼして徐々に表情を明るくする。
「じゃあ彼氏はいないんですか?」
「いたことないし、欲しいと思ったこともない。でも美味しいものが作れる人なら、考えないこともないかもしれないけど」
「……え?」
またフィンの顔に陰がかかる。
私の幸せは美味しいものを食べること。
恋をして胸がいっぱいで食事が喉を通らない。なんて聞くけれど、私は胸じゃなく、美味しいものでお腹を満たしたい。
「あっ、そうだ。フィンはお客様に書いてもらった同意書をちゃんと見なさいよ」
私とレオンは同じファミリーネームなんだから、家族と思うのが普通だ。
それを彼氏と勘違いするなんて、確認が甘い証拠。
釘を刺すと「はい、すみません」とフィンは素直に謝った。
フィンは体を小さくしてシュンとする。
私は自分の席について机に突っ伏した。
「ステラも頑張ったわね。お疲れ様」
セレスティアさんが湯気の立つブラックコーヒーをくれた。お礼を言ってもらう。
ライナスとフィンも受け取った。
「私からオーナーに報告するわね。みんなはゆっくりしていて。でも、お客様がいらっしゃったら、ご対応よろしくね」
セレスティアさんが事後承諾の同意書を持って店を出て行った。
フーフー、と息を吹きかけてコーヒーを口に含む。
心地よい苦味が口の中に広がり、香ばしい香りが鼻に抜けて心を落ち着けてくれる。
二十分ほどすると、扉が勢いよく開かれた。
肩で息をするオーナーだったが、私たちの顔を見て表情を和ませる。
「怪我はないか?」
息を整えるため、大きく深呼吸しながら足を進める。
私たちが「ありません」と答えると、大きな音を立ててイスに座った。イスが悲鳴のような軋む音を響かせる。
「無事でよかった。よくやったな」
オーナーはホッとしたのか、体から力が抜けて背もたれに背中を預ける。
「すみません、僕は同意書なしに転移魔法を使いました」
ライナスはオーナーの前に移動して頭を下げる。
「セレスティアに聞いた。お客様とのトラブルを避けるために、同意書を頂くルールがある。でもそのルールよりも優先するのはお客様の安全。ライナスは間違った行動は取っていない」
ライナスは「はい」と奥歯を噛み締める。
「俺はお前たちを信用して仕事を任せている。それが俺の判断だ。だから何か問題があったときに責任を取るのは俺。今回のことで気に病むことなんて何もない」
オーナーが話し終わると、扉がゆっくり開いた。
「オーナー、速いです」
息を切らせたセレスティアさんが、ふらつきながら入ってきた。
「ゆっくり来いって言ったろ。セレスティアは自分の体を優先させろ」
オーナーが瞳に剣を含ませて声を荒げる。セレスティアさんはオーナーの隣に腰を下ろした。
怪我で魔法だけじゃなく、運動も制限されているのだろうか?
ライナスが冷たい水をグラスに注いでセレスティアさんに渡した。それをゆっくりと飲み干す。
「少し休憩してから行くか?」
「いえ、すぐにでも行けます」
オーナーの問いに、セレスティアさんが首を振る。
「俺が休憩したいから、セレスティアも休んでいろ。ライナス、俺にあっついコーヒーを淹れてくれ」
「わかりました」
ライナスが口元を緩め、コーヒーを淹れにいく。
セレスティアさんは困ったように笑って「心配性ね」とこぼした。
ライナスがオーナーの前にコーヒーを置く。
オーナーは湯気の登るカップに口をつけて傾けると「あちっ!」とすぐに口を離した。
目を点にしてライナスを見つめ、ライナスは「熱くしすぎましたね」と愛想笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「オーナー、どこに行くの?」
私が声をかければ、オーナーはハッとしてカップを置いた。
「ギルドのギルドマスターに事情を話しに行く。俺はお前たちの行動が最善だと思っている。だが、それはこちらの事情。同意書にサインを頂いた時点で、うちのお客様だ。うちだけで対処できないから、ギルドを頼った。たとえ彼らの仲間を助けるためだとしても、正規の手続きをせずにギルド員を連れ出したんだ。こちらから説明に向かうのが筋だろう」
「協力してくれたギルドの人たちが事情を説明してくれているとは思うけれど、それでこちらが何もしないというのはおかしなことでしょ」
オーナーとセレスティアさんの言うことに納得して頷く。
「それなら僕も行きます。僕が転移魔法を使ったので」
「言ったはずだ。責任を取るのが俺の仕事。セレスティアを連れていくのは、事実だけを客観的に説明できるからだ。それにギルドマスターとも顔見知りだしな」
「大丈夫よ。ギルドマスターは仕事に対しては厳しいけれど、仲間思いの優しい方だから」
オーナーは時計に目を向け、小さく頷いた。
「あと一時間くらいで就業時間だな。時間になったら帰れよ。セレスティアは直帰させるから、待っていても帰ってこないからな」
オーナーは豪快に息を吹きかけ、まだ熱の冷めないコーヒーを飲み干した。
オーナーとセレスティアさんが立ち上がる。
「戸締りよろしくね」
扉を閉める直前で、セレスティアさんの心地良い声が残された。
店内は静寂に包まれる。
無力だ、と項垂れた。
私は戦えないし、レオンを助けて欲しいとオロオロしていただけ。
逃げるためにゴーレムと戦っている場所で、ゲートを繋ぐなんて発想がなかった。
あの状況で魔法陣を書くことに集中できるとも思えないし。
「フィンは大丈夫? 入社した日にこんなことがあって」
言葉数が少ないのが気になり声をかける。
「はい。というより、何が何だかわかっていないという感じです」
フィンは眉を下げて、体を小さくさせた。
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「なにか用があるの?」
振り返ると、私が二段高い位置にいるから、目線が同じくらいになっていた。
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ギルドにいた時は、ホテルに住んでいたはずだ。
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前に向き直って自分の部屋に向かう。フィンは私の隣の部屋に鍵を差した。
「ステラさん、お疲れ様でした。明日からもご指導よろしくお願いします」
「お疲れ様。ゆっくり休むのよ」
私が頷くと、フィンは顔の横で手を振った。
部屋に入って食事の準備をしていると、隣から物を落とす音や叫び声が聞こえて盛大なため息を吐く。
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