元王女で転生者な竜の愛娘

葉桜

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第44話

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 お昼にはまだ少し早い時間だけど、ラスカがテオのところに私たちを連れてきたのはアナスタシア王女の一件で台無しになったから、なのもあるのだとは思うけれど。

「えっと、ティートさんは驚かないんですね?」

 覗き込んだまま問い掛けると、ティートさんは不思議そうに首を傾げ、

「全く驚いてないわけじゃないけれど、ラスカとも付き合いが長いからね」

 にこやかに言い切られたその言葉に酷く納得してしまったのは、悲しいかな私も大概カノンと長い付き合いだからなんだと思う。
 悪いひとじゃないんだけどね、うん、悪い人じゃないのよ。これは言い切れるからね。

「ティート卿! 何を和やかに話しているんだ!」

 と、慌てふためいたアルノーさんがティートさんに声を荒らげた。対してティートさんはのんびりと首を傾げていたけれど。

「んー?」
「早くテオドール殿下から竜の子供を引き剥がさねば!」
「落ち着いてください、アルノー卿。仔竜ちゃんは殿下にじゃれてるだけですから」
「顔面にへばりつくのがか!?」
「というか、テオがリフの事を引き剥がせないだけだろ」

 おろおろとしているだけでどうにも出来ないアルノーさんを横目にカノンが言ってつかつかと部屋に入り込むと、机と向き合うテオの真正面に立ってその顔面にひっついて尻尾を揺らすリフを躊躇いなく剥がした。

「こぉら、顔面突撃はダメだろリフ?」
「キュイ! キュゥーイ!」

 途端にじたばたと暴れ始めるリフの首根っこを掴むカノンはリフをそのまま私へと投げるように放ち、

「邪魔な時はそう言ってやったり強引に対処しないと、リフはいつまでも離れてくれないぞ? テオ?」
「いや……仔竜に顔面にへばりつかれるだなんて経験、できるものじゃないな、と」
「なんでテオはリフが関わるとそういう風になっちゃうんだろうね……」

 感動の色を帯びた満足気なテオを見て、私は眉を下げて笑うしかない。そんな私の腕の中で抱えられたリフは不服そうにカノンを見ていたけれど、そのうちに私の肩によじ登っていつものように落ち着いた。

「仕方ないだろ? 竜と触れ合うのはもちろんだけど、仔竜にじゃれつかれ懐かれるだなんて経験、一生を掛けたって出来るものじゃないんだから」

 私の言葉が聞こえていたであろうテオが小さな子供のように僅かに唇を尖らせながら言ったけど、ハッと気付いて数回誤魔化すように咳払いした。

「……殿下ー、無意味な抵抗じゃないですー?」
「うるさい」

 確かに無意味な抵抗、というか今更よね。テオがリフを見てデレデレになっていたのも私は知ってるし。
 にまにまと楽しげなティートさんにテオが半目で睨むのを眺めながら、思わず吹き出した。

 その笑い声はテオの耳にも届いたのだろう。テオはぱっと私を見てぐぬ、と僅かに唸ったあと、

「そ、それで? ラスカはどうしてリリィたちを連れてきたんだ? 確かに邪魔をされたような形にはなったが、夕食は共に出来たらと考えていたというのに」
「素敵な心がけではありますし、それは是非とは思いますが……これもまた本日の予定通りでして」
「予定通り?」

 配膳台を室内へと入れたラスカにテオが目を瞬かせた直後。

「――うん、そう。予定通りなんだよ」

 その声は成人を済ませた青年の声だった。
 低く、けれども穏やかさが感じられる柔らかな声は、私よりもうしろ――部屋の入口から聞こえてきていて。
 そこと向き合うような位置関係にあるテオの表情が驚愕に染まり、それからすぐになんとも形容し難いものへと変化した。

「げ……、ジェド……」

 ぽろ、とテオの唇から零れ落ちた名を聞きながら振り向くと、侍従一人をつけて佇んでいた金髪碧眼の男の人がとても綺麗に微笑んだ。
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