プリンス・エリオットは奇跡の魔女に求婚したい

月宮明理

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第四話 初恋焦がれる

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『いきます!』

 ローブをなびかせて魔獣に挑みかかっていく彼女の横顔はとても凛々しい。

『このティアナ=マードック、この命をかけて奇跡の魔女の役割を果たさせていただきます』

 うっすらと涙を浮かべて笑う彼女に、エリオットの胸は締め付けられた。

『お慕いしておりますわ』

 彼女は腕の中から自分を見上げてくる。
 潤んだ翠玉の瞳と銀髪の隙間から覗く首筋が艶かしい。
 どうしたのだろう。相手は今まで毛嫌いしてきた女性だというのに、触れているのが嫌じゃない。
 いや、それどころか。
 触れたい。もっと強く、強く……!




「……っ!」

 目が覚めると、そこは馴染んだ自分の寝室だった。

「……夢? 私はなんという夢を……」

 エリオットは深く恥じ入った。現実と妄想をごちゃ混ぜにして、ティアナに自分の欲望を押し付けてしまった。




「私は謝るべきですよね?」
「いや、なんで?」

 キースの執務室を訪れ、今朝の夢について相談したのだが、彼は話の半ばから呆れを隠さなくなった。

「だって勝手に脳内に登場させて、実際とは異なる行動をさせてしまったんですよ。これは謝罪しなければ申し訳ないことでしょう」
「いやいやいや!」

 君が私を慕ってくれる夢を見たんだ、とカミングアウトされてどうしろというんだ?どう考えても絶望的な未来しか見えない。
 困惑されるくらいならいい反応で、悪ければ普通にドン引きされる。

「はぁ。まさかこんなことになるなんて」

 メイナードの作戦は成功した。エリオットは恋して帰ってきた。相手が奇跡の魔女だったのは予想外だが、一歩前進だ。
 予想を上回る反応を見せたのはエリオットだ。相手の女の子のことで頭がいっぱいで、ついに夢にまで見るようになった。
 それだけならキースも作戦成功に拍手しただろうが、問題はエリオットが想像以上に不器用だったことだ。

「落ち着いて、エリオット。いちいち相手に夢にでて来たなんて報告しなくていいから」
「キース兄さんがそう言うなら」

 とりあえず今すぐ魔女団の居住区に押しかけてしまうことは回避できた。
 エリオットには悪いが、これはしばらく彼女に合わせない方がいいぞ。
 キースが密かに決意をしていたところにノックの音がした。

「はぁい。どうぞ」
「うむ。探したぞ、エリオット。キースと一緒だったのか。珍しいな」

 入ってきたのはメイナードだった。

「魔女の試練の大まかな報告は聞いたが、一番大事なことはまだだったからな。……エリオット、今でもまだ女性に興味がないか?」
「いいえ。兄さん、私は考えを改めました」

 満足気にメイナードは頷いた。心なし口の端が上がっている。
 良かった。これで弟はまともに恋をしてくれる。

「……」

 安心するのは早いよ、兄さん。と、メイナードの思考を読み取ったキースは視線を下げた。

「そうか。では次の仕事も引き受けてくれるな」
「次の仕事?」
「あぁ。奇跡の魔女が決定したから、正式な任命式と国民へのお披露目があるのだ。そのエスコートをエリオットに任せたい」
「……!」
「い……!」

 エリオットの顔に喜びが満ちる。
 反対にキースの顔には焦りが浮かんだ。
 ダメダメダメ。恋の相手が当の奇跡の魔女なんだよ。エリオットの重たい恋は、相手を目の前にしたらどれほど暴走してしまうか分からないじゃない。
 なんとか身振り手振りでメイナードに伝えようとするが、当然伝わるはずがなかった。

「喜んでお引き受けいたします」
「おぉ!」

 前回の時とはうってかわった反応にメイナードはさらに喜びをみせた。

「またあの人に会えるなんて……夢のようだ」
「ん?」

 今にもステップを踏んで踊り出しそうなエリオットに、メイナードは首を傾げた。
 まさか、恋の相手というのは奇跡の魔女なのだろうか。
 だとするとあまり良くない。奇跡の魔女はその役目を終えるまで、ほとんどが結婚しないのだから。
 奇跡の魔女が結婚しないのは政治的な意味合いが大きい。強い力を持ち、国の安定のために必要とされる奇跡の魔女が結婚するとなると、下手な相手を選ぶことはできないし、かといって相応の地位のあるものが相手となれば政治的なバランスが崩れることになる。
 第三王子であるエリオットが奇跡の魔女と結ばれるのはかなりハードルが高い。

「エリオット……」
「あの華奢で柔らかな身体なら、どんな衣装を着ても絶対に似合うだろう。いったいどんな衣装でお披露目に出るのだろうか。楽しみだ」
「お、おい。エリオット……」
「あの時の強くて凛々しい姿も忘れられないが、愛らしい顔をしているのだから、可愛いドレスだって着こなすに決まっている」
「……」

 ついにメイナードは閉口してしまった。代わりに、キースへもの言いたげな視線を向ける。

 そんな目で見られても。せっかく魔女団へ行くのを回避したと思ったのに、余計な仕事を与えたのはメイナード兄さんじゃない。

 まさかエリオットがこんなことになっているなんて、誰が想像できるものか。

 二人は視線をぶつけて会話を成立させた。
 エリオットの好きになった相手が奇跡の魔女であることが問題だと感じたが、それ以上にこの不気味な態度の方が問題だ。
 第三王子がストーカーだとか変態だとか噂されかねない。

「キース」
「分かった。……ねぇ、エリオット。せっかくまた奇跡の魔女に会えることになったんだ。気の利いた会話の練習でもしておいた方が良いんじゃないかな」
「! ……そうだな。失礼があってはいけない」
「俺が当日まで指導してあげるよ」
「本当ですか!」

 エリオットはパッと顔を輝かせた。

「キース兄さんのこと女性にだらしなくていい加減な人だと思ってたんですけど、まさかこんな形で頼ることになるとは思ってませんでした!」
「酷いな」
「今はすごく頼りにしてます。……あぁ、こんなに価値観がかわるなんて……恋って恐ろしい」

 恍惚として言うエリオットに、メイナードもキースもまったくだ、と同意した。
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