いえいえ。私は元の世界に帰るから結婚は却下しますっ!

月宮明理

文字の大きさ
15 / 36
4章 安らぎ草を手に入れろ

好意が踏み台、脱出劇!

しおりを挟む
「たぶん見回りのやつだ」

 彼の視線の先には、ぼんやりと明かりが見える。たぶんランプか何かを手に持って歩いているのだろう。

「どうして、貴方まで隠れてるの?」

 私自身に後ろめたいことがあったから考えが及ばなかったが、この男もかなり怪しい。この国の兵士と同じ服を着ているものの、今は他の兵士から隠れている。

「もしかして、貴方も……泥棒?」
「ば……」

 彼は自分の声の大きさを気にして、自ら口を押さえた。

「ばか言うなよ。俺は泥棒じゃねぇって!」

 ジト目で睨むと、彼は目をそらした。ますます怪しい。

「ここにいたら、見つかるのは時間の問題だな。……おまえ、ソレ持ってとっとと門の外に出ろ。――歩けるか?」
「うん、なんとか」

 さっきよりはだいぶ足が動く。これなら門の外に出ることはできる。その後のことはここを無事に脱出できてから考えよう。

 私たちは身をかがめながら、城壁の近くまですり寄った。しかし、ここには木がない。これでは入って来た時の方法は使えない。

「俺が馬になるから、おまえは俺を踏み台にして向こう側に飛べ」
「でも、貴方は? それじゃあ貴方だけ出られなくて、捕まっちゃうよ」
「……おまえ、俺の話聞いてなかっただろ。俺は泥棒じゃねぇから捕まらねぇよ」

 あきれた様子で言う彼。しかし、私も食い下がる。

「仮にそうじゃなかったとしても、勝手に安らぎ草を渡した罰とか……」
「仮にってなんだよ、仮にって! 泥棒じゃないって言ってるだろ。まぁ、罰せられることはないだろうし……なんとかなるだろ。とにかく、今やばいのはおまえだけだ。早く行け!」

 彼はそう言うと、すばやく地に伏せた。さっきよりも近くに明かりが見えて、私は慌てて彼の上に立った。

 しかし――

「全然届かないよ……」

 腕を伸ばしても、背伸びしても、軽くジャンプをしてさえも、高さが全く足りない。

「分かってる。おまえ、俺の肩の方に足をかけられるか?」
「え、こう?」

 私は肩に足を置いた。

「そうだ。バランス崩すなよ!」

 足首をすごい力で掴まれたかと思うと、みるみる体が持ち上がっていく。彼は私を肩に担いだまま立ち上がったのだ。

「俺の頭を踏み台にしても良いから、なんとしても壁を越えろ」
「……分かった」

 一瞬躊躇したものの……時間がない。

 私は遠慮なしに、彼の頭を踏みつけ、無事に城壁の上に飛び移った。

「……ホントに踏み台にしやがった」

 と、頭を押さえる彼。

「ありがとう、これで無事に出られる。じゃあ次は貴方の番だ」

 私は手を差し伸べたが、彼はそれを取らず――代わりに首を横に振った。

「俺はいい。……母さんの病気、治るといいな」

 ニコッと笑う彼。笑顔を見たのはその時が初めてだった。しかし、それは一瞬のことで、すぐに真剣なものに戻る。

「行け!」
「うん、ありがとう」

 すでに他の兵士が数メートル先まで来ているのが分かって、私はうなずいた。
 今度は足を滑らせないように気をつけながら、そっとジャンプした。なるべく身体に負担をかけないように、降りた……つもりだったけど、やっぱり痛い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...