乙女ゲームに転生したら、なぜか夢小説仕様でした

月宮明理

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6.自己紹介は針のむしろでしたっ!

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 人前に立つのは苦手な方だ。その他大勢の方に紛れて生きていきたい。
 でも、避けて通れない場合もあるわけで。

「……」
「…………」

 うぅ。クラスメイトの視線が刺さる。
 私は今、自己紹介という内気な人間にとってハードル高いわりに否応なく発生するイベントの最中だ。

「あ……えっと、どうも……海江田かいえだあんです」

 あぁーー地味! というか自己紹介下手すぎ! なんで名前しか言えないの!? 趣味とか言わないと……って私無趣味だもん! ピアノとか習ってたけど半年で嫌になっちゃうような飽き性だもん!

「質問」

 心の中で騒いでいると、教室の中から声がする。見ると……えっ、悠斗くん?

 そういえばさっき体育館でも隣の列に並んでたっけ。同じクラスだったんだ。
 うーん、さっき関わるのさえなかったら(心の中で)飛び跳ねて喜んだんだけど、今はもうそんな気になれない。むしろ、同じクラスかよテンションダダ下がり、って感じだ。

 手を上げる悠斗くんへとクラスメイト達の視線が向く。それだけじゃなくて、なんだかざわざわと小声が教室中に広がっていく。

「おい二宮が興味を示したぞ」
「あの伊吹様以外は人として扱わない二宮が!?」

 そういえばそうだった。悠斗くんは人とコミュニケーションを取るのが苦手であんまり友達いないんだ。
 悠斗くんとコミュニケーションを頻繁に取る数少ない人物の一人が伊吹様、あとはヒロインの桜彩。そんな悠斗くんだから、クラスでは人嫌い扱いされている。

「はい。二宮くん」
「海江田さんはどうしてうちの学園に来たんですか?」

 な……なんか言い方にトゲがある。

「父親の仕事の都合で」
「お父様は何をされているんですか?」

 え……まだ続くの?

「普通の会社のサラリーマンですけど……」
「……」
「いや、そんな納得できない、みたいな目をされても困るっていうか……」

 ただ思ったことを言っただけなのに、なぜか教室の空気がざわりと変化した。

「あの転校生、二宮に口答えしたぞ!」
「あの二宮……」
「え……・何……?」

 なんだか異様な雰囲気になってしまった中、先生がパンパンと手を叩いた。

「はーい、静かに。二宮くんも、もう質問は良いかな?」
「……はい」

 私を睨みつけながらも、悠斗くんは前のめりになっていた身体を背もたれへと預ける。

「じゃあ海江田さんも、席に」

 促されて、私は自分の席に着いた。窓側の一番後ろ、という人数が増えるために用意された席だ。

「よろしくね、海江田さん」

 隣の席の女の子が鈴の鳴るような声で私に話しかけてくる。

 ……この声、聞き覚えあるんだけど。
 まさか、と思いながらゆっくりと首を回すと、そこにはゲームのヒロイン――能條のうじょう桜彩さやが微笑んでいた。

「……!」
「教科書とかまだ届いてないのかな? 私ので良かったら一緒に見よう」
「あ、ありがとうございますぅ……」

 天使だ。
 悠斗くんを筆頭にしたクラスメイトの視線で疲弊していた私の心が癒されていく。

「海江田さん」
「なんですか?」
「杏ちゃんって呼んでいいかな?」
「あ、うん」

 わぁなんか、これぞ女子って感じだ。……前世は高校で友達いなかったからな。

「わたしのことも桜彩って呼んでね。仲良くしよう……」

 能條さん、いや桜彩の小さくなる声に私は耳を傾けると、友達が出来た喜びが吹っ飛んでいくような不吉な言葉が聞こえてきた。

「――同士」
「え……」

 面を食らった私に、桜彩はさらに言葉を続ける。そして私はその意味を知ることになった。

「放課後、生徒会室に連れて来るように頼まれてるの」
「……な、なるほど」

 誰になんて聞かなくても分かる。
 そっか、犠牲者って伊吹様のってことね。
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