ソロヒーラーは物理的に殴り倒す

綾崎オトイ

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ヒーラーは置き去りにされる

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  これはサラがドラゴンをペットにする少し前のお話。

 ◇◇

 パーティメンバーに、魔物のいる森に置いていかれた。

 意味がわからない? あたしも意味がわからない。
 けど、言った通り、これが現実。


 〝サラ、お前、料理も雑用もまともにできねぇし、ヒーラーのくせに戦闘の支援だってまともにできねぇし、流石にこれ以上はお荷物だ〟

 パーティのリーダーにそう言われてちょっと何言ってるのかわからなくて「はぁ」としか答えられなかったあたしを、メンバーは木に縛り付けてそのまま帰っていった。
 ニヤニヤと妙に嬉しそうな笑顔を思い出す。若手で集まったパーティで、あたしは勢いで入れられた感じだったんだけど、まさか置いていかれるとは。
 ていうかこれって、生贄?

「こんなことって現実にあるんだねぇ」

 吃驚だよ。ほんとに。
 会話する相手は誰もいないけど、思わず口に出す。

 まあね、料理はほぼ消炭にしちゃったけどさ、それだって作れないって言ったのにやれっていうから頑張ったのに。戦闘の支援だってちゃんと回復とか付与とか飛ばしてたのに。

 〝お前少しは支援職っぽいことしろよ。まあ、俺たち強くて怪我とか最近しねぇからいらないけどよ〟

 って。すぐ怪我してたし、あたし毎回それ回復してたのに。
 毎回怒られるの本当に不思議。思い出したらムカついてきた。

 〝よくわかんねぇけどギルマスに気に入られてるお前を邪険に扱うと目つけられるかもしんねぇし。ちょっとミスって仲間一人助けられない、なんてことは珍しいことじゃねぇだろ?〟

 依頼失敗になるのはちょっと痛いけど、まあこの後挽回すればいいとか、なんかよくわかんないけどそういうことなんだって。
 最近回復系の得意な魔法使いの女の人が仲間入りしたし、あたしは邪魔にしかならないらしい。

 やっぱりパーティなんて入らないのが正解だったのかも。ギルドで活動を始めたばっかりのときに普通はパーティを組む物だって言われて流されたのがいけなかった。
 断るのも面倒でテキトーに参加して今まで一緒にいたけど、こんなことになるなんて。

 グルルルル、と周囲から音がする。
 さっきから囲まれてるんだよね、狼型の魔物に。
 この辺魔物の巣窟だからねぇ、まあ人間の匂いがしたらそりゃ集まってくるよね。

 あたしを縛ってる縄はそれなりにきつめに縛ってくれたみたいで解くのは簡単じゃなさそう。念入りに何周も巻き付けてくれたから身動きが取りづらい。

 目の前の獣はジワジワとあたしとの距離を詰めてきていて、涎を垂らして今にも飛びかかってきそうな雰囲気。
 この魔物、意外と買取の値段高いよね。

「よし、狩ろう」

 よいしょっと。

 縄は解けなさそうだったから、足に体重をかけて縛り付けられてる木を地面から引っこ抜いた。

 うん、木と体がピッタリ固定されてるから腕はちょっと動かしにくいけど足は使えるし、問題なーし。

 体を捻ると木が近くにいた獣を薙ぎ倒した。
 おお、意外といい感じ。

 向かってくる獣たちを足で蹴り飛ばして、背中にくっついてる木で殴り飛ばす。何回かやっているうちに背後の木の扱い方にも慣れてきた。
 意外といい武器かも、なんて段々思えてくる。
 見た目は絶対可愛くないから今後の相棒としては不合格だけど。

 キャウンと鳴く一匹が吹っ飛んで、グガッと唸る一匹が地面にめり込んで、ギャッと叫んだ一匹が後ろにいたもう一匹を巻き込んで叩きつけられた。

 それなりの数の魔物を倒した頃、バキっと音が響いて、急に背中が軽くなるのを感じた。

「お?」

 たった今、背中の木を使って叩きつけたはずの一匹と一緒に砕け散った木片が視界に入る。
 固定されていた腕も動くようになった。
 背中に背負ってた木が何度目かの打撃に耐えきれずに折れたらしい。というか砕け散った。

「やっぱり木がない方が動きやすくていいね」

 背後に手を回せば愛用の杖は無事だった。まあそんな柔な作りじゃないしね。

 手に馴染んだ杖をクルクルと手の中で回しながら前に持ってくる。
 細身の杖の先についた宝石の装飾がシャラシャラと揺れて、太陽の光を反射して淡く光り輝いた。
 杖は特注で作ったヒーラーの杖で、可愛くてお気に入りだ。
 攻撃にも使えるように強度もかなりある、かなり細身だけど簡単には折れない優れもの。この可愛さと強度をどちらも備えた杖は作ってもらうのにそれなりに苦労した。

 パーティメンバーのことは正直どうでもいいんだけど、それでもちょーっとイラッとしたし、ストレス発散に付き合ってもらおっかな。
 まだまだ相手はいっぱいいるし。まだまだやれるでしょ。

 動きやすくなった体でにこりと笑ってみる。

 目の前の獣がびくりと体を揺らしたけど、そんなの気のせいだよね。
 まだまだこれから、楽しませて、くれるよね?

 ****

「せやっ!!」

 何度目か、途中から数えていないけど、杖を全力で振り抜いた。
 最後の一匹が綺麗に弧を描いて遠くに吹っ飛んでいく。

 力込めすぎたかも。
 見えないとこまで飛んでっちゃった。額に手を当てて目を凝らしてみるけど、どんどん小さくなった魔物は最後にキラリと星になって見えなくなった。

 辺り一面魔物が倒れて積み重なっている。
 とりあえず、魔物の血で汚れた杖とあたし自身に浄化魔法をかけた。一瞬で汚れが消えていったけど、綺麗になったローブの裾がまたじわじわと汚れ始める。

 うん、魔物の屍の山の上に立ってるからね。順番間違えたよね。

 普通の討伐依頼なら討伐成功の証明に魔物の一部を持って帰るところだけど、この魔物はそのまま高く買い取ってもらえるんだよね。
 肉は食べられるし、爪とか牙とかも使えるから。

 あたしは魔物専用のバッグに魔物を詰め込んだ。
 普通の道具には効果はないけど、魔物ならバッグの容量以上のものが詰め込める画期的なマジックバッグ。
 バッグいっぱいに魔物を詰め込み終わる頃には辺り一面綺麗になった。このバッグにも入れられる限界があるんだけど、ちょうど入ったみたいで嬉しい。
 いっぱいお金がもらえるならそっちのがいいもんね。吹っ飛んでいった最後の魔物は回収できなくてちょっと残念だけど。

 魔物が詰め込まれたバッグを背負って、ギルドに帰ることにした。

 一応整備された道はあるけど、少し遠回りだから魔物が多い森の中を進む。
 体力にはあんまり自信がないから、できれば遠い距離歩きたくないんだよね。自慢じゃないけど持久力はマイナスなの、あたし。
 森を進むとかなりショートカットできる。
 出てくる魔物はかなり多いけど片っ端からなぎ倒せば問題はない。1歩進む事に魔物に遭遇する勢いだから面倒な道だけど。
 現れた足で踏み潰して踏み台代わりに跳躍して、基本的にまっすぐしか進まない獣の背中に乗ってみたり、でっかい鳥型の魔物の足に掴まってたまに楽して運んでもらう。

 時短をさらに時短にする、サラちゃんの裏技だよ。覚えておいてね。
 暇になって捕まえた魔物に解説してみればグェウと変な声が返ってきた。何故だか引かれている気がする。知能が高い魔物じゃないしきっとこれは気の所為だ。

 ギルドにはすぐ到着した。
 先に帰ってると思ったのに、あたしを置いていったパーティメンバー……じゃなくて元パーティメンバーの皆の姿は見えなかった。
 もう依頼の報告して帰ってるのかも。

「たっだいまー」

 依頼の報告とかはリーダーの仕事だから今回はあたしすることないんだけど、偶然ギルドマスターのがら空きの背中が見えたから飛び蹴りをプレゼントした。

「うげっ!? ってぇ……っ、ってサラか? 何お前、仲間どこ行った?」

 背中を押さえながら涙目でこっちを振り向いたギルマス、なんかおっさん通り越しておじいちゃんみたい。

「んー、やっぱりあたし他人と組むのは合わないみたい?」
「は? んだそれ」

 最初っから一人がいいとは思ってたんだけどね、なんかヒーラーは普通パーティ組むものだってみんなに言われたから、そっかーって思って組んでたんだよね、パーティ。ギルマスにも誰かと組んだ方がいいんじゃないかって言われてたし。

「あ、これ、売りたいの」

 とりあえず飛び蹴りして満足したし、買取カウンターに向かって台の上に狼の魔物をどさどさとバッグから取り出した。

「お前、またそんなに狩ってきたのか。よくやるな」

 なんでかギルマスもついてきた。呆れたようにのぞき込まれる。
 買取カウンターの人もなんでか顔が引きつっている。

「え、そう? これとかそんな強い魔物じゃないし、普通じゃない?」
「普通じゃねぇから。量がありえねぇから。しかもお前一応ヒーラーだから」

 ギルマスがなんか言ってるけど、気にしな-い。

「は? なんで、サラが、ここに……」

 いるんだよ、って心底驚いたよう声色の、さっき聞いたような気がする声がした。

 振り向くとそこにいたのはあたしを置いていったパーティメンバー。なんでかボロボロだった。入口を開けて入ってきたばかりだから今帰ってきたみたい。どこでそんなに傷作ってきたの?ㅤ普通の道に出ていったように見えたのに。
 
 幽霊でも見たような顔をして口を開けてるのはリーダーだった。すごい間抜けな顔でちょっと面白い。

「あ、さっきぶり~」

 とりあえず無視もどうかも思って、偉いあたしは挨拶をすることにした。 

「っ、んで、置いてきたお前がここにいるんだよっ!? 魔物にでも食われてるはずじゃ……っ!?」

 なんかギルマスにバレたくないみたいなこと言ってなかった?
 ギルマスいるよ? 思いっきり叫んでるよ? いいの?

「魔物なら、ここにあるけど」

 あたしはまだカウンターに並べられたままの魔物を指差す。
 今必死に数えてお金の計算してもらってるとこなの。確認が終わった魔物は奥に運ばれているけど、カウンターの魔物の山はまだ全然減ってない。

「なんで置いてきたはずのお前が先にいるんだよっ」
「何でって、森抜けて近道したから? あたしのが早く着いたのは吃驚したけど」

「だいたいその魔物、どうしたんだよ……っ。まさかギルマスが助けにっ?」
「あたしが狩ったに決まってるじゃん」

 確かにギルマスは横にいるけど。あたしこの男に助けられるほど弱くないんだけど。ていうかあたしのが強いからね、絶対。

「お前、ヒーラーだろ! 戦闘なんてできねぇだろ!」

 こっちは急に魔力と攻撃力が下がってギリギリだったのにお前がそんな簡単に魔物を倒すだなんてありえねぇ、とかリーダーが叫んでるけど、そこまで驚くこと?
 ヒーラーだって最低限の戦闘くらいできるよ?ㅤじゃないと生き残れないんだし。

「うん、なんかよくわかんねぇけど」

 口を開いたのはギルマスだった。

「何、サラ、お前、置いてかれたの」
「うん。なんか木に縛り付けられて。自分で引っこ抜いたけど」
「あー……、まあお前、ほんと常識外だよな」

 うん、となんか神妙な顔して頷いたギルマスの顔がむかついたからスネを蹴った。
 ……避けられた。ギルマスのくせに。
 むぅと頬を膨らませたらギルマスに両手で挟まれて潰された。
 ふしゅうと口から空気が抜けた。

「ちなみに聞くんだけどよ、なんでそんなことしたんだ?」

 ん? と事務的な口調でギルマスがパーティに声をかけた。

 うっ、と一瞬吃ったリーダーは開き直ったらしい。
 あたしを睨みつけながら言葉を吐き出し始めた。

「そいつヒーラーのくせに回復も付与もしねぇし、詠唱しようとする素振りすらねぇなんて終わってるだろ。何のためにパーティ入ってるのかわかんねぇし、これじゃただの寄生虫だ。せめて支援職なら雑用くらいしろよ」
「うん、いや、こいつ無詠唱だしな」
「…………は?」

 何でかあたしじゃなくてギルマスが答えてるけど、リーダーが間抜けな顔してる。後ろにいる他のパーティメンバーも驚いた顔であたしを見た。
 だからあたしちゃんと魔法かけてるよって言ったのに。

「いや、そもそも怪我とかしねぇから必要なかったから役に立ったことねぇし」
「傷できた瞬間に回復して、攻撃する瞬間に攻撃力上昇、防御とか状態異常とかその都度完璧なタイミングで魔法使ってたんじゃねぇか? お前らその傷帰り道でやられたんだろ?」
「…………」

 うん、あたしちゃんとやってたよ。さすがギルマス。分かってるぅ。
 帰り道って、普通の道はそんな強い魔物いなくない? それでそんなに傷だらけだったの?

「言っとくけどな、こいつヒーラーとしての腕マジでいいぞ。無詠唱でタイミングが良すぎて何もしてねぇように見えてたんだろうけどよ。そこそこ一緒にいたんだから気づいてもいいと思うんだけどな……」

 ギルマスが頭をかきながらはぁ、とため息を吐き出した。

「なんかよくわかんないけど、お疲れ様」
「いや、お前のこと話してんだけどな?」

 なんかかわいそうになってギルマスの肩をぽんと叩いてあげたらさらに疲れた顔になった。

「あとな、確かに雑用も壊滅的で体力もねぇけど、その分戦闘力はお前らより高いぞ」

「は? ヒーラーがそんなに強いわけ……」

「いや、普通に攻撃力とか戦闘能力で言うならうちのギルドでトップ狙えるくらいだからな」

「は? んなわけ……」

 リーダーが否定しかけて、あたしが狩ってきた狼の魔物を見て途中でやめた。

「……そんなに強いなら、なんでヒーラーなんて……」

 ん? 今度こそあたしに聞いてる?
 ヒーラーになった理由、ねぇ。

「杖が気に入ったから?」

「……は!?」

 いや、だって剣とか重いし、気に入った杖が攻撃系より癒し系特化のやつだったし、これはヒーラー用だなって言われたからヒーラーになったんだよね。

「ねぇ、そろそろお金もらってご飯食べに行きたいんだけど、この話まだつづく?」

 話をしている間に数人係でやっと確認が終わったみたいで、魔物は綺麗に片付けられた。最初は受付にいた数人だけだったのに、どんどんギルド職員が増えてきて、手が空いてたのか冒険者まで手伝ってくれて、お手数お掛けしました~って感じ。
 もうお金用意してくれてるし、帰っていいよね?

「おう、まあ、サラだもんな。本来なら処分するとこなんだけどな、まあ今回は何もしねぇわ。サラが気にしてねぇし。つーかどうでも良さそうだからな。今後のお前らの苦労が罰ってことだ」

 なんかあるか?
 ギルマスがあたしに聞いてきたけど、別になんでもいいんだよねぇ。

 とりあえず。

「んー、あたし、やっぱソロヒーラーでいいや。別に。パーティにいるよりお金になったし」
「てことだから、まあ、お前らは頑張れよ。今までと同じランクの依頼は難しいと思うからな」

 かいさーん、てことであたしは魔物と交換してもらったお金を持って街に繰り出した。
 今日は美味しいもの食べられる~。この間見つけた可愛い装飾品も買っちゃおう。

 興味もないし後ろは振り返らずにスキップしながら進んでいく。目的地は賑わっている街の中心。
 今日のご飯は山盛りのステーキか高級スイーツか、迷ちゃうね。
 
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