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境界線上の正気 《被害念慮》
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前日の夜遅くまで仕事をしていたせいか、朝起きるなり動悸が酷くしんどかった。
なんとか家族分の食事を作り、自分は食べずベッドで横になる。
息子の食事介助は夫に任せ、着替えの解除は自分で行った。
バス停まで息子を送るために自転車を漕ぐ。空の色が薄墨色だったような気がしたけれど、動悸に気を取られていて覚えていない。ただ、寒さだけが記憶に残った。そろそろ手袋を出してもいいかな、とふと思ったのを覚えている。
療育園へ出発するバスを見送った後、今度は保育園へ向かい、息子の着替えやシーツ類を届けに行く。
門の前で見知らぬ保護者の人と目が合った。何を思う訳でもなく、視線を反らして入口へ向かうと、今度は職員の方がじっとこちらを見ているような気がした。
「見張られている」と、思った。
そう、被害妄想を抱くには理由があるのだけれど、それを語るだけの強さはまだ私の中に無い。ただ一つ言えるのは、去年一年間は「誰かに見張られているような気がする」という妄想に苦しんだという事だけだ。
精神科を受診するも、統合失調症では無く、発達障害の二次障害である被害念慮が強く出た状態だという事だった。一年かけて少しずつ状態を安定させてはいるものの、油断するとまだ、この症状が出てしまう。
私は、母の二の舞になってしまうのだろうか?
子育ての面で、自分の体調管理の面で、そして自分の好きなことに集中する事で、母と自分は違うのだと己自身に焼き付けていないと不安になってしまう。
いつか、母と同じように気が狂って、家族に悲しい思いをさせるのではないか。精神面の脆弱さという遺伝には打ち勝てないのではないか。事実、精神病に対する十分な素質を抱えているのだが、現段階の私の脳味噌は、正常範囲に留まっているのか。それとも、正気と狂気の境界線上を危うく歩いているだけで、ひょんな事で”あちら側”へ行ってしまって、帰ってこれなくなってしまうのではないか――
とめどなく、考えてしまう。不健全だ。
途中、挨拶した担任の先生の表情もいつもより強張って見えた。私に園内に居てほしくないと思っているのではないか、早く帰れば良いと思っているのではないかという疑問が首をもたげるが、もちろん、表面に出すことはしない。
全ては私の妄想なのだけれど、くだらないと捨て去れない私の弱さを叱咤する。
「例えそう思われていようとも、実際に悪い事は何もしていないのだから堂々としていれば良い。人の頭の中にまで入りこんで、あれこれ想像する癖はどうにかしないといけない」
我ながら、正気と狂気の境界線で踊るような思考だとあきれたので、頭の中にあるものを捨て去って、とっとと帰って寝る事にした。
心臓が飛び出してきそうなほどの動悸と、眩暈を呼び起こしそうなほどの頭痛を抱えて家に帰った。
帰るなり、安定剤代わりの甘いものを口にふくみながらベッドへ横になる。私の悪癖だ。いつか私の健康の足を引っ張るに違いないと思いながら、目をつぶる。すぐに意識は手放せた。
次に目が覚めると、仕事へ行く時間の一時間前だった。
明らかに眠りすぎである。
それでも、元気溌剌とは言えない体の重さに閉口した。
仕事そのものは、可もなく不可もなくこなせたと思う。なかなか、体が重くてうまく動けなかったけれど。
仕事を終えて、息子を寝かしつけ終え、ネットで息子の服を買った。セールの時間には間に合わなかったけれど、欲しいものが買えて良かった。
あっという間にサイズアウトしてしまうけれど、息子に好きな服を着てもらうのは私の楽しみの一つなのだ。いつか、私の買った服など来てくれなくなる日が来るのだろうか。
ポメラにSDカードを入れるついでに、この文章を書いている。今までずっと、コードを使ってPCのテキストデータを保存していたのだけれど、いやぁ、便利だなぁSDカード。
日記のような駄文のままにしておこうかと思ったけれど、私の被害念慮のことについて書いてしまった。なんとなく、今日は自身の内面に正直でいたかった。
朝の調子が悪い自分が戻ってきて、少し気持ちが弱くなっているのだと思う。この事に関しては、内省を深めた所で前進するわけではないから厄介だ。むしろ、自身の正気の境界線を大きくはみだしてしまう可能性すらある。思考の空転は被害妄想しか生み出さないし、胸が鉛を飲んだように重くなる。また、動悸がしてきた。
明日の分の米を研いだら、ほんの少しだけ小説を書こうかなと思っている。
今書いている小説は、昔書いたものを改稿した長編だ。あえて最初から改稿せず、時間が無くて途中で無理やり完結せざるを得なかった前編をそのままに、自分の本当に書きたかったものを表現した後編を書ききってから、前編の手直しをする予定だった。
いざ、後編を書ききって達成感を感じて居たら、前編の粗があまりにも目立つので驚いた。今は、不要な部分や面白くない箇所をざくざく切り捨てている所だ。
前編を書いた当時から、少しは成長している証なのだととらえたいと思う。
文章力というのは確かに時間を経てもさほど変わらないように思うが、脚本力は違うような気がする……。
なんとか家族分の食事を作り、自分は食べずベッドで横になる。
息子の食事介助は夫に任せ、着替えの解除は自分で行った。
バス停まで息子を送るために自転車を漕ぐ。空の色が薄墨色だったような気がしたけれど、動悸に気を取られていて覚えていない。ただ、寒さだけが記憶に残った。そろそろ手袋を出してもいいかな、とふと思ったのを覚えている。
療育園へ出発するバスを見送った後、今度は保育園へ向かい、息子の着替えやシーツ類を届けに行く。
門の前で見知らぬ保護者の人と目が合った。何を思う訳でもなく、視線を反らして入口へ向かうと、今度は職員の方がじっとこちらを見ているような気がした。
「見張られている」と、思った。
そう、被害妄想を抱くには理由があるのだけれど、それを語るだけの強さはまだ私の中に無い。ただ一つ言えるのは、去年一年間は「誰かに見張られているような気がする」という妄想に苦しんだという事だけだ。
精神科を受診するも、統合失調症では無く、発達障害の二次障害である被害念慮が強く出た状態だという事だった。一年かけて少しずつ状態を安定させてはいるものの、油断するとまだ、この症状が出てしまう。
私は、母の二の舞になってしまうのだろうか?
子育ての面で、自分の体調管理の面で、そして自分の好きなことに集中する事で、母と自分は違うのだと己自身に焼き付けていないと不安になってしまう。
いつか、母と同じように気が狂って、家族に悲しい思いをさせるのではないか。精神面の脆弱さという遺伝には打ち勝てないのではないか。事実、精神病に対する十分な素質を抱えているのだが、現段階の私の脳味噌は、正常範囲に留まっているのか。それとも、正気と狂気の境界線上を危うく歩いているだけで、ひょんな事で”あちら側”へ行ってしまって、帰ってこれなくなってしまうのではないか――
とめどなく、考えてしまう。不健全だ。
途中、挨拶した担任の先生の表情もいつもより強張って見えた。私に園内に居てほしくないと思っているのではないか、早く帰れば良いと思っているのではないかという疑問が首をもたげるが、もちろん、表面に出すことはしない。
全ては私の妄想なのだけれど、くだらないと捨て去れない私の弱さを叱咤する。
「例えそう思われていようとも、実際に悪い事は何もしていないのだから堂々としていれば良い。人の頭の中にまで入りこんで、あれこれ想像する癖はどうにかしないといけない」
我ながら、正気と狂気の境界線で踊るような思考だとあきれたので、頭の中にあるものを捨て去って、とっとと帰って寝る事にした。
心臓が飛び出してきそうなほどの動悸と、眩暈を呼び起こしそうなほどの頭痛を抱えて家に帰った。
帰るなり、安定剤代わりの甘いものを口にふくみながらベッドへ横になる。私の悪癖だ。いつか私の健康の足を引っ張るに違いないと思いながら、目をつぶる。すぐに意識は手放せた。
次に目が覚めると、仕事へ行く時間の一時間前だった。
明らかに眠りすぎである。
それでも、元気溌剌とは言えない体の重さに閉口した。
仕事そのものは、可もなく不可もなくこなせたと思う。なかなか、体が重くてうまく動けなかったけれど。
仕事を終えて、息子を寝かしつけ終え、ネットで息子の服を買った。セールの時間には間に合わなかったけれど、欲しいものが買えて良かった。
あっという間にサイズアウトしてしまうけれど、息子に好きな服を着てもらうのは私の楽しみの一つなのだ。いつか、私の買った服など来てくれなくなる日が来るのだろうか。
ポメラにSDカードを入れるついでに、この文章を書いている。今までずっと、コードを使ってPCのテキストデータを保存していたのだけれど、いやぁ、便利だなぁSDカード。
日記のような駄文のままにしておこうかと思ったけれど、私の被害念慮のことについて書いてしまった。なんとなく、今日は自身の内面に正直でいたかった。
朝の調子が悪い自分が戻ってきて、少し気持ちが弱くなっているのだと思う。この事に関しては、内省を深めた所で前進するわけではないから厄介だ。むしろ、自身の正気の境界線を大きくはみだしてしまう可能性すらある。思考の空転は被害妄想しか生み出さないし、胸が鉛を飲んだように重くなる。また、動悸がしてきた。
明日の分の米を研いだら、ほんの少しだけ小説を書こうかなと思っている。
今書いている小説は、昔書いたものを改稿した長編だ。あえて最初から改稿せず、時間が無くて途中で無理やり完結せざるを得なかった前編をそのままに、自分の本当に書きたかったものを表現した後編を書ききってから、前編の手直しをする予定だった。
いざ、後編を書ききって達成感を感じて居たら、前編の粗があまりにも目立つので驚いた。今は、不要な部分や面白くない箇所をざくざく切り捨てている所だ。
前編を書いた当時から、少しは成長している証なのだととらえたいと思う。
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